第14話:獣人の国 sideソーベルビア
自分は番を間違えた。
だがそれは、番が番のクセに、自分を
そもそも番ならば、他の女と仲良くしているのを見たら嫉妬して止めるべきだろう。
駄目な番を持ったせいで、しなくても良い苦労をする事になった。
大体、『番の婚約』を解消するのに、何も抵抗せずに承諾したアイツが悪い。
『番の婚約』は特殊なものなので、解消するとその相手とは二度と結婚する事が出来ないのに。
魔法でそういう契約がされてしまうからだ。
いや、だからなんだ。
結婚なんて法律だけの、紙っぺらの契約だ。
本当の番なのだから、法律なんて関係無い。
一緒に暮らして、事実婚で良いじゃないか。
番を取り戻せ。
肉食系獣人の悪い所が特化したような思考の持ち主であるソーベルビアは、自分勝手な持論でペレーザを捕獲する気満々だった。
その根底には、本当はペレーザも自分との婚約を破棄したく無かったはずだとの思いがあった。
獣人には番が絶対で、純粋な獣人など番を消失したら絶望して自ら死を選んだり、そこまでいかなくとも無気力になり衰弱死する者が居る程だ。
出会わなければ、満たされなくても喪失感は無い。
ソーベルビアは、ペレーザと出会ってしまった。
ルーフリアに強引に連れて来られた場所で、ソーベルビアは高揚感を感じた。
何がある訳でも無いのに、急に元気というかやる気が湧いてきたのだ。
その理由は、すぐにわかった。
「ペレーザ……」
番の名前を呟く。
それだけで、ソーベルビアの心が沸き立つ。
「こんな所で偶然会うなんて、やはり運命は俺を……俺達を祝福しているんだ」
一人寂しくテーブルに料理を並べて座っているように
「ペレーザ!何だ、一人で淋しいな!しょうがないから俺が一緒に居てやろう!」
根拠の無い上から目線で、ソーベルビアはペレーザへと声を掛けた。
ペレーザがソーベルビアを見て、明らかに嫌悪の表情をする。
しかしソーベルビアには、ペレーザがルーフリアを見て、表情を曇らせたように感じた。
なんだ、今更嫉妬するくらいなら、婚約の解消などしなければ良かったのに。
ソーベルビアは自分に都合の良い誤解をして、頬を緩ませる。
俺とのデートでも妄想して料理を並べたのか?そう、妄言を吐こうとした時だった。
「誰の許可を得てそこに居る?」
魂まで凍りそうな程、低く冷たい声が響く。
その瞬間、ソーベルビアの全身の毛が逆立った。
尻尾など、何倍もの太さになってしまっている。
【人間の国】で、肉食系獣人の血が入っている先祖返りの自分より強い者など居ないはずなのに。
この声の主は、ソーベルビアなど歯牙にも……いや、小指の爪の先にもかけないだろう。
そこから先の記憶は、ほとんどソーベルビアには無かった。
恐ろしい闇に呑み込まれたような記憶はある。
記憶……?
気が付いたら、目の前にはルーフリアが居て、周りは見た事も無い寂れた広場だった。
そのルーフリアの肩に触れたら、悲鳴と共にルーフリアは飛び退った。
その悲鳴に呼応するように、周りから獣の唸り声が聞こえてくる。
「いや、何?」
飛んで離れたくせに、今度は逆にソーベルビアへと抱き着くルーフリア。
それを咎める事も、喜ぶ事も、ソーベルビアは出来なかった。
周りの瓦礫の陰から出て来たのは、獣化したソーベルビアによく似た……しかし、何倍も凶暴な雰囲気の獣だったからだ。
「ニンゲン!ダ!」
「ニンゲン、ドレイニ、スル」
「ニンゲンノオンナ、キョウユウ」
「ツヨイモノ、エライ。オマエラ、ヨワイ」
言葉も忘れつつある、凶悪な肉食系獣人ばかりになった【獣人の国】へ、ソーベルビアとルーフリアは転移させられていた。
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