第10話:俺様とbitch




「何なのだ、このだらしがない不潔な女は」

 竜人のさんが阿婆擦れさんに、嫌悪の視線を向けました。

 怖っ!

「そもそも王の手を汚さないように、食べ物を捧げるのは当たり前の行為だろうが」

 鬼人のさんが確信に触れるというか、事実を言ってしまいました。

 当たり前ですか、そうですか。

 やはり王なのですね、皆様は。

 おそらく「~の」の後には「王」が付くのでしょうね。


 では、カリナン様は「天人の王」ですか?


「そもそも我らにはそれぞれ番がる。不潔な体で寄るでない」

 妖精のさんも、辛辣です。

 それにしても皆様、不快なだけではなく「不潔」と言います。

 確かに清楚では無い服装ですが、不潔?


「彼女からは、複数のマーキングの臭いがするからね」

 私が不思議そうな顔をしていたからでしょう。

 カリナン様がコッソリと耳元で教えてくれました。

「複数のマーキング?」

 犬猫が縄張りにオシッコするアレですか?

 彼女は大量のペットでも飼ってるのでしょうか?


「要は、複数の獣人と性的な関係を、定期的に持っているという事だ」

 せっかくカリナン様がコッソリと教えてくれたのに、竜人のさんは全てを台無しにする声量で教えてくれました。



「う、嘘言わないで!そんな臭いなんてする訳無いじゃない!毎日お風呂も入ってるし、それに私はまだ処女よ!」

 嘘か本当か置いておいて、そんな事を大声で叫ぶ時点でどうかと。

 周りの見物客も引いてますわよ。


「ルーフリア?今の話は……?」

 ほら、貴女の大切な婚約者も戸惑ってますよ~。

「ち、違うわ!ソーベルビア!」

 そういえばお二人、そんな名前でしたね。

「それよりも、今は仲良く婚約者とデートして来たらどうですか?」

 私は念願の唐揚げを頬張りながら、二人に提案します。

 正直に言うと「どっか行け」ですわね。



「婚約はしてない!」

「婚約者じゃ無いわよ!」

 同時に否定されました。

 何ソレ。


 私との婚約破棄を公の場で宣言しておいて、人の婚約者と3年も不貞しておいて、『番の婚約』が解約されたのに、なぜ婚約していないのよ!

 本当の番はそこの阿婆擦れさんだと、教会でも言っていたじゃない。

 私は番だと確信していたけど、血が薄まった今では、番衝動よりも愛情を優先する獣人も増えたと、司祭様は慰めのように後で説明してくれたのよ。

 私は全然未練も愛情も無いのに、妙に同情されたわよ!


 それにしても、本当にクズね。

 何も責任を果たす気もないクズ二人。

 筆頭クズである元婚約者が、私の方へと手を差し出して来ました。

 は?何?

「確かに『番の婚約』を解消したら、その相手とは二度と結婚出来ない。しかし、それは形式上だろう?事実婚なら出来るはずだ!ペレーザ、俺の所に戻って来い!」


 き も ち わ る い !!


 気持ち悪い!いや、何コイツ、勘違いもはなはだしいわ!

 一度も私が貴方のものだった事はありません!

 私とは、一度も婚約者らしい交流をした事がありませんよね?

 戻るも何も、始まってもいませんでしたが?

「婚約した翌日から、そちらの女性と殊更ことさら懇意こんいにしてましたのに、何をおっしゃっているのかしら?」


「だから!今からやり直そうと言ってやってるんだろうが!」

 はあぁ!?

 この俺様獣人様は、頭の中身も行動も、最低最悪のようです。


 私の腕を掴もうと、獣人の身体能力を使い襲いかかって来ました。

 私の方へ伸ばした手には、鋭い爪が見えます。

 ただの人間の私が反応出来るはずもなく、ただそれを見つめていました。



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