第9話:衝撃の事実




「あーん」

 目の前で、カリナン様が大口を開けています。

 これは、私の食べている鳥串を寄越せと言う事でしょうか。

 鳥串は一口大の肉が5個串に刺さっているので、齧りかけを分ける事にはなりません。

 なので、食べやすいように串を横向きにカリナン様の口元へ差し出しました。


 カリナン様は肉に齧り付き、串から引き抜きます。

「んま!エールビールが……いや、ラガービールが欲しい!」

 そうなのですね。

 私はまだラガービールを飲んだ事がありません。

 16歳からお酒が飲めるのですが、通常は食前酒程度しか飲みません。

 私も本格的に飲み始めたのは、学園を卒業してからです。



「お、俺の番と何してんだ!」

 元婚約者……いや、もうクズで良いでしょうか?クズが何か言ってます。

 婚約破棄を公の場で宣言して、『番の婚約』を解約したのは誰でしたっけ?

 もう本当に気持ち悪いです。


「何、他人の番なのか?」

 竜人と呼ばれていた方が私を見ます。

「もう『番の婚約』が解約されたので、婚姻を結ぶ事は有りませんが」

 私に非は無いので、素直に答えます。

 何とも言えない微妙な顔をされてしまいました。


「それでは天人の、お主の番が見付かったら……」

 鬼人のさんがカリナン様へと、こちらも複雑な表情を向けます。

「それなんだけどさ。実は天人も人間と同じで、番は居ないんだよね」

 周りの亜人の方々が固まりました。

 ビシッと音がしたように感じるほど、一様に動きを止めたのです。


「……言われてみれば、天人側からの番の申し入れの話は聞いた事が無かったかもしれんのう」

 妖精の方が顎に手を当てて、中空を見ながら呟きました。

「妖精の。本当にそなたまで知らなかったのか?もしや、天人のを庇っているとか」

 竜人のさんが妖精のさんを睨みます。

 そろそろ名前を教えていただきたいのですが、言える雰囲気では有りません。


「いや、本当に知らなんだ。前回の王も何も言わなんだ……いや、そういえば番は最期まで見付からなかったのう」

 は?待って。待って!

 不穏な単語が増えましたよ!?

 今「前回の王」とか言ってませんでした?

 私からしたら、番云々うんぬんよりも、そちらの方が大問題ですけど!!



「え?王様なの!?」

 私より先に反応したのは、阿婆擦れさんでした。

 両手を胸の前で組み、二の腕に力を入れて胸を寄せるようにします。

 ただでさえ零れそうな脂肪の塊がグググと持ち上がり、服のボタンが飛びそうです。


「私!ペレの親友の……」

「嘘を言わないでくださいね」

 思わず言葉を遮ってしまいました。

 元婚約者クズは正直、最初から好感度が低かったのでどうでも良かったんですけど、カリナン様は違います。

 見た目や立場は関係無く、話していて楽しいし、食の好みも似ています。

 自分の価値観を押し付けても来ません。



「ちょっとその下品なモノを仕舞ってから来てくれる?不快だから」

 カリナン様が阿婆擦れさん自慢の巨乳を本当に不快そうにチラリと見ました。

「確かにそれならば、鬼人ののモノの方が魅力的だのう」

 妖精のさんが横に座る鬼人のさんの、ある意味豊満な胸を揉みます。

「フンッ!」

 鬼人のさんが胸筋に力を入れて見せます。


 おおぉ!

 モリッと出来た胸の谷間は、確かに阿婆擦れさんよりも見事です。

 種類が全然違いますけどね!

「お見事!」

 思わず言ってしまったら、とても良い笑顔を返されました。

「お代はその肉で良いぞ!」

 鳥串を指差されました。


 席を立ち鳥串を受け取りやすいように横向きで差し出します。

 鬼人のさんも立ち上がり……肉1個に齧り付き、串から引き抜きました。

 あれ?

 私が串を持ったまま、なぜか竜人のさんと妖精のさんも同じようにして食べ、呆然と立っている私の手元には、肉の無くなった串だけが残りました。


「な、何よ!ソーベルビアと婚約破棄した途端にハーレム作ってんの?最低!」

 阿婆擦れさんが叫びます。

 全然違いますけど!



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