第8話:増えました!




 おぉ!

 ワインと炭酸!

 これはスプリッツァーを作れという事ですね!?

 炭酸2本だけ持って来たのは、私の反応を見る為だったのでしょうか?

 もう、一度ガッカリさせておいて持ち上げるなんて、憎い演出ですね、カリナン様ってば!


「こんなにいっぱいじゃ、二人だけじゃ残っちゃうでしょう?ペレ~、親友の私達が手伝ってあげるわね!」

 料理とアルコールを前にホクホクなので、すっかり存在を忘れてました。

 阿婆擦れさんと、元婚約者です。

 貴女とは、親友どころか友人だった事も無いですけどね。


 阿婆擦れさんが椅子を引いて座ろうとしました。

 婚約者のはずの豹の獣人は放置ですか?

 私から奪うほど愛していたのでは?

 もしかしたら婚約はしてないのかしら。

 それでも恋人ではあるはずですよね。



「そこは友人が来るので、座らないでくれ」

 カリナン様が冷たく言い放ちました。

 友人?と首を傾げた時、横でカリナン様が指を鳴らしました。


「うおぁ!」

「は?」

「ん?呼び出しか」

 突然、目の前に人が現れました!

 カリナン様に負けず劣らずの美貌の持ち主が二人!更にタイプの違う美丈夫が一人です!

 角!角が生えてる方が居ますよ!

 捻れ角と黒光りする角なので、種類……種族が違うのでしょう。

 そしてカリナン様とは違う、透けていてキラキラ虹色に輝く羽が背中にある方も居ます!


 現れた瞬間は驚いていた御三方でしたが、カリナン様を認めて納得した後に、溜め息を吐き出しました。


「こう、まずは先触れという物をだのう」

 言いながら席に座ったのは、キラキラの羽で淡い緑の長い髪と濃い緑の瞳の方です。

 カリナン様もですが、羽を傷付けないように器用に席に座りますよね。

 そして優しい笑顔を私に向けてくれました。

 口調がちょっとうちの祖父みたいで、見た目との差異が凄いです。


 水色の真っ直ぐな清流のような髪に、捻れた角を持っている方は、無言で炭酸とワインのグラスを確保してから、席に座りました。

 不思議な青い色をした瞳は、瞳孔が縦に入っています。

 もしかして、何かの獣人なのでしょうか?


 他の方よりも体格の良い美丈夫な彼は、炎のように紅くうねった髪に、黒光りする角がとても似合っています。

 無言で席に着き、近くにあったワインと鳥串を自分の元に引き寄せました。

 あぁ、私の鳥串が!

 あ、目が合いました。3本ある鳥串のうちの1本を、無言で差し出されました。

「ありがとうございます」

 お礼を言うと、口元が微かに緩みました。




「え?何?魔法?えぇ?何よ、何でよ」

 阿婆擦れさんが叫んでいます。

 煩いですね。

 騒いだって起きた現象は変わりませんよ?

 私も魔法は初めて見ましたけど、現れた人の美しさに驚きましたけど、そこで騒ぐのは違うと思いますよ。


「俺のオススメの屋台料理!足りないだろうから、ひとまず食べたら屋台で買って来てね」

 カリナン様が三人へと挨拶をしました。

 挨拶?

 でも誰も何も気にしていないようです。

 それぞれが飲み物を手にしています。

 私も慌てて目の前のワインに炭酸を入れ、グラスを手に持ちました。

 片手にスプリッツァー、片手に鳥串。

 とても飲兵衛のんべぇな見た目です。


「はい!俺の運命に乾杯!」

 カリナン様がグラスを高くかかげました。

「何!?天人の!それは誠か?」

「鬼人の。それは後で、まずは乾杯だのう」

「妖精の!そうは言うが」

「鬼人のに妖精の、煩いぞ」

「竜人のは冷たいのう」

 はいはいはいはい。

 ちょっと待ってくださいね。

 とても不穏な単語が飛び交ってますよ。


「……乾杯」

 小さく呟いてから、私はスプリッツァーを口に含みました。

 唐揚げからいきたいところですが、渡された鳥串をまずは消費しなくては。

「あ、美味しい」

 塩ダレに柚子胡椒を足して正解でした。

 ポン酢ダレと甘辛ダレも気になりますが、今日は「鬼人の」と呼ばれていた彼に譲りましょう。



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