第2話:『番の婚約』




 私とこの豹の獣人が交わした『番の婚約』とは、少し特殊な婚約になります。

 本能が惹かれ合う番という関係は、本来ならば出会ったその場で結婚しても良いはずなのだとか。

 しかし、今の血が薄れた獣人と、元々番の本能の薄い人間では、単なる一目惚れと番を勘違いする者が居るそうです。


 今回は豹の獣人が先祖返りだったせいか、私にも相手が番だと認識出来たけど、最近では稀な事らしいです。

 そう。残念ながら、本当に番なのだ!

 それは置いておいて、とりあえず「番かもしれない」程度しか判らなくなってしまっても、獣人は番との間に子供を作ると、優秀な子孫が生まれるのだそう。


 その為に『番の婚約』は、最低でも2年は解約出来ない。

 しっかりと見極めて、決めなさい……という事のようです。

 これはちょっと獣人の為の規則です。

 例外は、どちらかが成人したら即破棄出来るとか。

 成人すると、番が判り易くなるらしい。

 今回は学生だったので、期限は卒業式までとなりました。



 最近では珍しい『番の婚約』まで交わしたのです。

 私も番だと認識していたので、どちらの両親も破棄になるとは考えていないでしょう。

 特に豹の獣人の両親は。


 豹の獣人の母親に、白鷺の獣人の父親。

 この二人は獣人同士の番だそうで、白鷺の獣人の弟と豹の獣人の妹もいます。

 先祖返りは私の婚約者だけで、とても仲の良い家族でした。

 婚約の挨拶で一度会っただけだけどね!




「本当に破棄で良いのですか?」

 婚約を破棄する手続きに来た教会で、司教様が最後の確認します。

『番の婚約』は、解約するとその相手とは結婚出来なくなるのです。

 たとえ後から本当に番だったと判明しても……です。

 これは、人間の為の制度です。

 私としては万々歳です!


「こんな女が俺の番のはずが無かったんだ!俺の番は、こちらのルーフリアだ!」

 へぇ。阿婆擦れさん、ルーフリアって名前だったんですね。

 しかし、婚約破棄の手続きに他の女を連れて来る非常識さよ。

 本当に婚約破棄出来て良かったわ。


 司教様も同じ事を思ったのか、それ以上は確認せずに、婚約の契約を破棄しました。

 契約書が白い炎に包まれ、灰も残さずに消えました。

 そして炎と同じ色の光が、私と豹の獣人を包みます。

 凄い!魔法だわ!


「これで『番の婚約』が解約となりました」

 司教様が笑顔を向けました。

「ありがとうございます」

 私も笑顔を返してから、後ろで見守ってくれている両親の元へと向かいました、

 豹の獣人の元婚約者は、茫然と立ちすくんで居ましたが、しったこっちゃありません。

 もう赤の他人ですからね!



 婚約は解消ではなく、豹の獣人側の有責による破棄となりました。

 学園内での様子を知らなかった両親は驚いてましたが、その最たる証拠である阿婆擦れさんが居ますからね。


 通常は『番の婚約』は解消なので、慰謝料は発生しません。

 しかし今回は、ガッツリ請求させてもらいました。

 将来、あの豹の獣人が稼ぐであろうお金から、自動的に私の口座へ振り込まれる魔法契約を結びました。


 あちらの家族には、影響が出ないはずです。

 番だと言い出したのも、婚約破棄を公の場で宣言したのも、全部あの豹の獣人です。

 両親は「親子2代で番がみつかるなんて、奇跡に近い」と、とても喜んでいたのです。



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