第3話:番との出会い sideソーベルビア




 豹の獣人であるソーベルビアは、婚約の契約書が燃え上がり、二度と元婚約者のペレーザと婚姻出来ない事が魔法で強制的に決定した瞬間、謂れの無い喪失感に襲われた。



 学園の入学式でペレーザを見たソーベルビアは、衝動的に駆け出していた。

 そしてその手首を掴み、自分の番だと確信した。

「番だ!」

 湧き上がる、激情とも言える感情に流されるまま叫んだ。

 しかしペレーザの反応は、ソーベルビアの期待したものとは違った。


 驚きに目を見張ったものの、すぐに表情を無くしてしまう。

 そう。無表情になったのだ。

 抱きついて喜ぶ位の反応を予想していたのに、掴まれた腕を持ち上げ「離してください」と冷静に言われてしまった。


「もしかして人族か?」

 ソーベルビアが問い掛けると、ペレーザはにこりともせずにソーベルビアの顔を見てきた。

「そうですが、何か?」

 ソーベルビアは、舌打ちをした。

 人族は獣人と違って番に対する執着が薄い。

 獣人同士でつがった両親のような、魂から繋がっている幸福感は感じられないかもしれないと、勝手にペレーザに対して失望していた。



 それでも番なのはペレーザも自覚しているようで、その日のうちに両家の顔合わせと『番の婚約』が恙無つつがなく行われた。

「明日から学園も始まるし、素敵な学生生活が送れそうね」

 ソーベルビアの母である豹の獣人が、自分の事のように喜ぶ。

 その時までは、ソーベルビアも同じ事を思っていた。


 翌日、ペレーザの教室を訪ねるまでは。


「ペレの親友のルーフリアって言います」

 肉感的な、とても肉食系獣人好みの体つきをした女生徒が、まだ登校して来ていないペレーザの代わりに、ソーベルビアの対応をしたのが始まりだった。

 それからソーベルビアがペレーザの教室を尋ねると、ルーフリアが真っ先に出て来てソーベルビアの腕に、自分の腕を絡めるようになった。


 最初は出て来て会話をしていたペレーザだったが、ある時ソーベルビアの腕にしがみつくルーフリアを冷たい目で見てから、ソーベルビアの顔を見上げ、宣言した。

「その女生徒が居る場では、私は貴方と会話する気はありません」

 言うだけ言うと、ペレーザは教室内の友人達の元へと戻ってしまった。


「は?」

 ソーベルビアが呆然としていると、ルーフリアが腕を引く。

 いや、今まで以上に強く抱え込み、豊満な胸の間に挟み込むようにしたのだ。

「ペレってば、嫉妬してみっともな~い」

 その言葉を聞いて、ソーベルビアは納得した。

 納得してしまった。



 ソーベルビアのは、番からの嫉妬に喜び、震えた。

 実際にどうなのかは関係無かった。

 嫉妬されたと喜ぶのは、本人の勝手なのだ。

 そして、それをルーフリアと一緒に居る時に感じる事が多く、段々と誤解していった。


 ルーフリアと一緒に居ると、幸せを感じると。


 婚約者なのに他の女を平気で侍らせるソーベルビアへ、呆れを含んだ軽蔑の眼差しを向けていただけのペレーザ。

 しかしそれを嫉妬の視線だと、最初のルーフリアの「嫉妬して」と言う言葉に縛られて、脳内変換していたソーベルビア。


 ルーフリアと居るとペレーザが嫉妬する。

 意識したわけでは無いが、ソーベルビアの中ではそういう図式が出来上がっていた。

 意図してやっていれば、良かったのかもしれない。


 ルーフリアと一緒に居ると、番を見つけた時と同じ多幸感を感じる。

 もしや、本当の番はルーフリアなのでは?

 ペレーザとルーフリアは親友だと言っていた。

 他人との距離が近いルーフリアの匂いが、ペレーザに付いていたのでは?


 ソーベルビアの勘違いは加速し、あの婚約破棄へと繋がった。

 3年の長きに渡る思い込みは、魔法契約でペレーザと婚姻出来なくなるまで、解除される事は無かった。



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