第5話 自然と神秘

…美しい渓流と緑の森の真っ只中に生活している瑠璃は、スクスクと育っていきました。大きくてタニシのような瞳は本当に瑠璃色の燐光を放っていて、いかにも利発そうだったのです。一般に宗教学や神秘学でも瑠璃色は精神性や叡智を象徴するそうです。

日々の平凡な暮らしにも、聡明な少女の瑠璃はたくさん不思議で、ファンタジックな「奇跡」を発見していました。

天然の鮎やシャケやウナギが海で稚魚になり、だんだんに成長しながら故郷の川に遡上してくる習性も不思議でした。

遥か彼方の 日本海溝の底のほうでウナギが産卵するなんて驚きだったのです。

ツバメが渡り鳥になって、世代交代しつつ同じ家の軒先に戻ってくるのも実際には大変な旅かもしれない…

毎年6月1日には必ずカマキリの卵が孵化するし、7月1日には同じメタセコイアの木でニイニイゼミが鳴き始める。

渓谷に反響するコダマも不思議だったし、ホタルがピカピカ光るのもなぜだか分からない。四季の移り変わりにつれて動植物や気候が千変万化する、そういう感じも、瑠璃の鋭敏な感受性には「奇跡」のように美しい、尊い、貴重なものに思えたのです。

おじいさんに買ってもらったファーブル昆虫記、は昆虫の好きな 瑠璃にとって

どれほどに面白くて奇妙な、唯一無二の宝物だったことか!アゲハ蝶やハンミョウや、カミキリムシ、セミの幼虫、どれもユニークな美質を備えていて、瑠璃を夢中にさせました。


「自然」という言葉には色々な意味があって、だけど大自然の中で一体になって森の妖精エルフのような暮らしをしている瑠璃には特別な意味と響きを持つ、「聖なる言葉」になっていました。自然とは美しくて深遠で、限りなく精妙な法則性や神秘な謎に満ち満ちている…


自然の渦中で、その息吹や光彩や、様々な動植物の生態に直接触れながら育ったことで、瑠璃は既にミニチュアのサイエンティスト、哲学者、或いはアルケミスト、そうした資質の原石で、その初々しい萌芽となっていました。


〈続く〉


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掌編童話・『マリモ』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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