第4話 芋の露
おじいさんは、飯田龍太という俳人の「紺の記憶」 という随筆集を読んでいました。この俳人は〈芋の露 連山影を正しうす〉という俳句が有名で、おじいさんは同じく山村暮らしだったこの人のファンでした。俳人、それも有名な人の随筆だけあって、流石に滋味豊かで、語彙も的確で感覚も繊細で、なんというか、簡単に他のものに置き換えられない奥の深い価値、独特な美意識とか倫 理感、日本語や日本の自然への 愛情、そうしたものに基づく高貴で真率な精神が息づいている、そういう本物の詩人による珠玉のような散文か鏤められていて、おじいさんには宝箱のように思えました。
おじいさんにも文芸の趣味かあって、俳句も詠みました。
〈清冽な
〈夜な夜なの夢も焦がれぬ沢の
〈巨怪なる外道も混じり鮎の魚篭〉
〈人類と逆の呼吸に鮎動く〉
〈鮎掛かり弾丸の如疾駆せり〉
〈旬過ぎた年増の如し二年鮎〉
…
等々、鮎釣りがテーマの俳句も沢山詠んでいました。
雅号は「韜晦」で、これは「謙遜したりして誤魔化す」「姿をくらます」というような意味で、世捨て人を気取ったおじいさんの境遇を二重 に
〈続く〉
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