転生者と少女の旅
第19話 アピラとの生活の日々
別の村での、生活。アピラにとっては、初めての別の村。ここに来るまでの道のりは決して楽なものではなかったが、たどり着いた瞬間に疲れは吹き飛んだのだろうか。アピラは疲れを感じさせない様子だった。
ただアピラには、怖い思いをさせた。野生の獣に関しては、獣除けの薬や、俺もそれなりに腕に覚えがあるから、大した脅威ではなかった。問題は、人だ。というのも、道中、野盗に襲われたのだが……それが、あろうことか顔見知りだったのだ。
以前、俺が『スキル』"不老"の持ち主だと知り、俺が持つ知識を奪おうと、襲ってきた。その際、返り討ちにして命までは奪わなかったのだが、まさかあんな所で再会するとは。
『ひぃ!』
おかげでアピラには、怖い思いをさせた。彼女を人質に取られないため、彼女の側にいたまま、戦ったが……守る者がいる戦いというのは、なかなかにキツいものがあるのだと、実感した。なんとか野盗は倒したが。
その際、悪さができないように両手両足を折って放置しておいた。くっついたあとはわからないが、その時はその時だ。
野盗の件。それでアピラは怖がりこそしたが、泣くことはなかった。むしろ、レイさんを守るために私も強くなりたい、なんて言う始末だ。
俺を守る云々はともかくとして、まあ護身術は知っていても損はないだろう。そう思い、旅の最中にも護身術を教えることにした。アピラは小さい女の子だが、だからこそ覚えていて損はないのだ。
……そして、次なる目的地につき、宿を確保した。
「うわぁ、広い!」
今回借りた宿は、レポス王国で俺が借りていた宿よりも、なかなかに広いものだった。一人用ではなく、二人用の部屋にしたことを除いても、なかなかに豪華であった。村であるために国よりは小規模だが、なかなかいい場所だ。
さすがに、別々の部屋にする余裕はなかったし、アピラも俺と一緒がいいと譲らなかった。まあ、アピラも女性っぽくなってきたとはいえ、まだ子供だ。間違いはないだろう。
その日は、旅の疲れを癒やすためにも宿で休息。荷物を置き、食事をした。やはり、人の手で作られたご飯は温かくていい。アピラは、俺の作る獣飯もおいしかったと言ってくれたが、あれは料理と呼べるものではないしな。
「明日から、頑張らないとね!」
ベッドは二つ。寝る直前、気合いたっぷりのアピラはそう言った。
そう、別の場所についてから、やることは多い。商売を始めるための店となる建物の確保、店の準備、開店日時の計算など……やることが、たくさんだ。
とはいえ、今日はさすがに疲れが溜まっている。久しぶりのベッドだし、アピラはすやすやとすぐに眠ってしまった。俺も、すぐに睡魔が襲ってきた。
「おはようレイさん! 私、今日から張り切っちゃうよ!」
「……朝から元気だな」
アピラは、非常によくやってくれていた。
初めての土地、知らない人々……環境が変わり、困惑しているはずだ。だが、それを感じさせないほどに明るい。俺が初めて、別の土地に足を踏み入れたとき、どんな気持ちだったっけ。
アピラは、レポス王国のレポス教会にて、年下の世話をよくしていたという。そのおかげだろうか……店に来る客層は、初めのうちは子供が多かった。物珍しさからだろう。
そんな子供たちの相手を、アピラはしてくれていた。子供の相手なら任せて、と言わんばかりに。その結果として、子供たちの親へと話は繋がり、人伝に評判は広がっていく。
店を開いて数日としないうちに、あっという間に店にお客が押し寄せるようになった。
そして、閉店すれば宿に帰り、休む。そんな日々の繰り返しだ。充実していた。アピラにも、無理をしてないかを聞いてみると……
「なんでだろ、ちっとも疲れないんだよね。四六時中、レイさんと一緒だからかな!」
白い歯を見せ、にししと笑いながら、そんなことを言ってくれる。考えてみれば、レポス王国ではアピラは教会暮らしだった。教会と店とを、行き来していたのだ。
だが、今は違う。同じ宿に泊まり、店に行き、帰ってくる。だから、こうして一緒にいれる時間は、アピラと出会ってから数年越しに叶ったものである。
「いらっしゃいませー!」
翌日も、その翌日も、そのまた翌日も。アピラは、よく働いてくれた。最初は、呼び込みだけだったのを、だんだんと掃除、品出し、レジ会計などと、ものを覚えていった。
俺の方は、今更成長なんてしないが……なんていうか、最近手記に書くことが増えたような気がする。
村を獣の大群が襲ってきたが追い払った話。盗賊が金品を盗みに店に侵入したがアピラが捕まえた話。アピラに気がある男の子が俺に、
「アピラちゃんをください!」
なんてことを言ってきた話。どれも、いい思い出だ。
特に、アピラに想いを寄せる男の子の話。獣人の子供で、犬耳が生えていた。少しモフらせてもらった。
あの告白は、なんというか不思議な感じだったな。まるでアピラの父親になった気分だった。お前に娘とかやらん、とか言ってみたかった。だって、俺にも子供、レニィはいたが……我が娘は、男っ気がまったくなかったのだ。
まあ、俺はアピラの保護者という点では正しいかもしれないが……父親ではないし、アピラもなんだかんだ子供ではない。結局は本人の気持ちが大事だ。それを男の子に伝えたところ、なんと翌日に告白し……見事に、玉砕したらしい。
絶望した表情を浮かべた彼に、俺は、アイスを奢ったんだったかな。
アピラと出会ってから、ただ書くことが義務化しつつあった手記が、書くのが楽しみになった。一日の終わりに、印象深かった出来事を書き連ねる。
誰に見せるものでもないし、なんのために書いているのか。思い出に浸るため……ろくな思い出は、ないのではないか。そんな毎日を、アピラが塗り替えてくれた。
「レイさーん、お客様が呼んでますよー!」
「あぁ、わかった」
今日も今日とて、時間は流れる。一日が始まり、忙しない時間を過ごし、そして一日が終わっていく。忙しくも、充実した日々。
いつしか、アピラが居るのが当たり前になっていた。だが、その生活もそろそろ終わりにしなければならない。
この村に来て、二年以上が経過した。アピラももう、十四歳……成人、一歩手前となっていた。俺と、もう歳が変わらないほどに、成長していた。
もう、いろいろと決めないといけない。……そう、思った。
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