第11話 いざ王城へ



「……ふぅ」



 なんとか、兵士たち全員の治療を終えた。まさか、こんな事態になるとは思わなかったが、なんとかやり遂げることができた。


 兵士一人一人にお礼を言われ、ガルドローブさんからも改めてお礼を述べられた。それに、この場でお礼をしたいが今は持ち合わせがないことへの謝罪も。


 正直、あれだけの薬を使ったのだからそれなりに出費はあったのだが……俺だって、この状態の兵士たちに金品を要求するほど、鬼ではない。



「……もし、レイ殿がよろしければ、我らにご同行願えないでしょうか」



 そこで、ガルドローブさんが切り出した。



「同行? それって……」


「我らは、いや私は、今回のレッドドラゴン討伐の結果を、王子に伝える必要があります。その際、我らの命を救ってくれた方だとレイ殿を紹介します。そうすれば、王子から直接、報奨が与えられるでしょう」


「はぁ……」



 なんというか、気の抜けた返事しかできない。王子と、この国のトップと、会うだって? そりゃ兵士たちを助けたのは事実だが、その件で王子に金を催促しに行くのはどうなのだろう。


 ……とはいえ、今回のレッドドラゴン討伐の命を出したのは、王子だ。その王子の命令で討伐に出た兵士が怪我をして、それを救ったのだから、王子に報奨を請求するのは当然とも言える。


 それに……たった五十人でレッドドラゴンを討伐など、無茶な命令を出した王子に、一言物申すのもありかもしれない。普通ならば、一国民の言葉など届かないかもしれないが、兵士の命を救った、ともなれば無下にはできないだろう。



「わかりました。なら、早速……あ、でも店が……」


「まじゅつ師さん、だいじょぶ! わたしが、任された!」



 俺がここを離れれば、店が空いてしまうことになる。それならば、いっそ臨時休業とするか……そう考えていたが、自分に任せろと、頼もしい声が聞こえた。


 アピラだった。



「あ、アピラ? いやでも、さすがに……」


「だいじょぶ!」



 ……いや、大丈夫と言われてもなぁ。ここで働いているのは二日目、本格的にはまだ一日目だ。そんな子に、さすがに店番を任せるというのはなぁ。


 そりゃ、さっきはすばらしい動きを見せてくれた。だが、それはあくまでも薬を取ってくる、という点でだ。お客が、どんな薬を目当てに来るか、それがどの棚に置いてあるのか。


 それが果たして、アピラが一人でわかるだろうか。



「なら、俺たちに手伝わせてください!」


「えぇ、私たちもやります!」



 悩んでいたところへ、さらなる声。それは、今まで成り行きを見守っていた兵士のみなさんだ。怪我が治り、元気になった彼らは、心同じくしてなにかお返しをしたいと、思っていたらしい。


 中には、まだ怪我が治ったばかりで動けない者もいる。なので、あくまでも動ける者たちだけ、ではあるが。



「いや、でも……」


「協力させてください! 魔術師様と、アピラちゃんは命の恩人なんです!」


「その通りです! こんなものでは足りませんが、少しでも恩返しさせてください!」



 ……みんなの想いが、突き刺さる。まさかこんなにも、感謝し恩返しをしたいと、思われているとは。


 こういうの、なんか、いいな。



「報告は、兵士長である私一人が行けばいい。レイ殿、よろしければ、任せてやってくれませんか」


「うーん……」



 ……まあ、アピラ一人だと心配だったわけだから。人がいるなら、いいのかなぁ。でもなぁ、言い方はあれだが、素人の集まりだしなぁ。


 未だ決めかねている俺を見て、兵士の集団の中から、一人の手が上がる。



「あ、あの! もしわからないことがあれば、その都度魔術師様に確認してもよろしいでしょうか!」


「……確認?」



 そこにいたのは、美しい白髪を後ろで一本に纏め、ポニーテールにした女性だった。ふぅむ、俺よりは年上みたいだ……あんな子まで、兵士なんだなぁ。


 ……あ、さっき、顔に火傷を負っていた子じゃないか! よかった、火傷の痕は、きれいになくなっている。女の子だ、顔に傷が残ったら大変だもんな。



「確認って、どうやって?」


「はい! 私の『スキル』は"伝達"という、対象に言葉を届け、会話することのできるものなのです! それがあれば、離れていても魔術師様と会話することが可能です!」



 かしこまった様子で、女性は話す。おぉ、そうか『スキル』、その手があったか。これだけ兵士がいれば、一人や二人便利な『スキル』持ちがいるんだな。


 しかも、その女性が申し出た『スキル』は"伝達"という、この状況においてなんとも頼もしいものであった。



「へぇ、すごい『スキル』だな!」


「ありがとうございます! 会話できる対象は一人だけで、ありますが!」



 "伝達"の『スキル』、それさえあれば、なにか不明点があったときに、その場で離れた所にいる俺に、聞けるわけか。対象は一人だけとのことだが、それでもなかなか便利だと感じる『スキル』だ。


 ちなみに会話の方法は、頭の中で行うらしい。テレパシー、と言えば近いだろうか。


 他にも、便利そうな『スキル』を持っている者もいる。うん、なんだか任せて大丈夫な気がしてきた。



「じゃあ、任せるってことで、いいですか」


「はっ、お任せください!」



 ……俺は別に上官ってわけじゃないんだから、そんなにかしこまらなくてもいいんだがな。胸元に手を添え、敬礼まで……なんだかむず痒い。


 それから、アピラに向き直り、目線を合わせるようにしゃがんでから、頭を撫でる。



「じゃ、ちょっと言ってくるけど。みなさんに迷惑かけるんじゃないぞ」


「あい!」



 ……それでもやっぱり心配だが、アピラはわりと賢いし、なんとかなるだろう。売り物もそうだが、アピラが危険な目にあわないか……最悪、アピラが無事ならそれでいい。


 ま、鎧を着たいかつい人たちがいる店で、悪さを働く奴はいないだろうが。



「では、行きましょうか、レイ殿」


「はい」



 店番をアピラ、他兵士さんたちに任せて、俺はガルドローブさんに案内され、城へと向かう。王子、というか王族が住んでいるのはお城、というのはもはや世の常だ。


 ここからでも見える、石造りの巨大な建物。国の中心部に位置する城は、外から見れば驚くほど白い。あんな高い壁、いつも誰が掃除しているのだろう、とたまに思う。


 しかし、お城か……これまでにも、訪れた国で足を踏み入れる機会はあった。実際に、王族に会ったこともある。なので、別に今更緊張などすることはない。


 ガルドローブさんについているおかげで、城の門番も難なく素通り。まあ少し不思議そうな顔はされたが。小さな、人一人が通れる門から敷地内へと入り、さらに城内へと続く扉を潜る。



「おぉ、広い」



 城の中は、全体的にでかかった。この国の城には、入ったことがなかったか……それとも、忘れているだけで、増築でもしたのか。とにかく、記憶にある他国の国よりも、でかかった。


 端に置いてある銅像だって、無駄に高そうな物だ。あれを売り払えば、それだけでなにもしなくても一年以上遊んで暮らせそうだ。


 ……ガルドローブさんに無茶な討伐作戦を言い渡したり、あんな無駄な銅像を置いたり、多分ここの王子バカなんだろうな。



「こちらです。……レポス王国兵士長、ガルドローブ。ただいま、レッドドラゴン討伐の任より帰還しました!」



 これまた無駄に大きな扉の前に立ち、ガルドローブさんは三度ほど扉をノック。そして声を張り上げ、告げる。


 ちなみに扉の両端には門番がいるが、特には動かない。彼らは、特に連絡係でもないのだな。



「……ガルドローブか、入れ」



 しばらくすると、部屋の中から応答の声が。その声は、なんとも間抜けそうなというか、バカっぽいというか……ともかく、そんな感じだ。


 入室の許可が出たことで、ようやく門番が動く。鎧に加えて顔まで隠れる兜を被っているため、顔は見えないが、多分男だろう。それぞれが、扉の片側ずつを押す。


 扉は、ゆっくりと開いていく。大の大人二人がかりとは、相当重いのだろう。



「……」



 部屋の中には、玉座が一つ。そこへ向かって敷かれた赤い絨毯、他には高そうな銅像が並んでいるだけだ。他には、玉座の後ろに、大きな窓があるが……それだけだ。


 そして、玉座に座っている者が、一人。玉座に座っているということは、つまりあれが、この国の王子なのだろう。


 なんというか……王子というから、もう少しイケメンな感じを予想していたのだが。……普通だ。ブサイクではない、だがイケメンでもない。その辺で歩いていても、気づかないような威厳のない顔。


 玉座に偉そうにふんぞり返っているその表情は、どこか偉そうだ。少しふっくらとした体に、あまり高くなさそうな背。……樽かな……? 頬もふっくらしている、なんかフォルムが全体的に丸いな。


 さて、どんな無茶苦茶な王子なのか、拝見させてもらうとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る