第7話 攻守交代

まるで記憶だけが残り、時間が巻き戻されたかのようだ。

ただ分かることは、俺は何らかの原因で過去に戻されている。

仮想世界メタバース内の時計を見ると10:30を指している。


「俺がこの仮想世界メタバースに来て30分しか経っていない……」


さっきの出来事が本当だと仮定すると、

 

 俺はこの後配信ライブビルリングへ向かい、おそらく11:00頃に赤瀬と遭遇する。


その後は一緒に赤瀬の配信ライブに行き、約1時間半の配信ライブを見る。


しかし、突然現れた中年男性からの中傷発言が他のリスナーに伝染して赤瀬は放心状態になってしまう。


中傷発言をしていたリスナーから変な黒い靄がでていたけどあれは一体なんだ?

あの靄に赤瀬は包み込まれて消えてしまったし、その後俺も気を失ってしまった。


「そうか…俺が1回目に赤瀬と出会った時、俺は赤瀬の配信ライブに行かずにログアウトした。その後急に意識を失って気づいたらこの部屋にいたって事は、やっぱり過去に戻ってるんじゃないか!?」


 仮想世界メタバースでの演出として過去にループするという現象は可能なのかもしれないが、あの時俺は現実世界から仮想世界メタバースへループしてる。

そんなことが実際に可能なのか?


 そんなことを考えていたせいか、俺は時間を忘れていた。

時計の針はもうすぐ50分を指そうとしている。


「やばっ!早く配信ライブビルリングに向かわないと、赤瀬が配信ライブを始めてしまう!」


俺はすぐさま自分の部屋を後にし、配信ライブビルリングへ向かった。



…………………………………………………………


10:55


「はぁはぁ……なんとか間に合ったか」


仮定時間の11時に何とか間に合った俺は5階へ向かう。

まだ赤瀬は来ていないようだ。

俺は受付横の椅子に座り、赤瀬が来るのを待った。



11:00

赤瀬がエレベーターから出てきた。

俺はすかさず赤瀬の後を追う。


「すみません〜これから配信ライブするんですけど、書面貰えませんか?」


「あ……あの!赤瀬さんですよね?良ければ俺もその配信ライブに参加してもいいですか……?」


「いいですけど……貴方……私とどこかで知り合いました?それとも私のリスナーさんですか?」


まるで俺の事を覚えてないような反応と前回と同じ返答。

やはり以前の記憶は実際に起きた出来事だと確信に変わった。

なので俺も前回と同じように返答し、赤瀬は歓迎してくれた。



赤瀬の配信ライブがもうすぐ始まる。

リスナーは少しずつ入ってきている。もちろんあいつも

 

「あかり!いい子にしてたか!!パパ嬉しいぞ」


「もう!さかきは私のこと子供扱いしすぎなんだよ!」


「うぅ……あかり成長したなぁ。」


 あまりにも同じ発言。

って言うか、あの時【さかき】と言うやつだけは他のリスナーとは違い、中傷発言が伝染しなかった……

つまり誰でもあんなふうになる訳ではないってことか?

でもその条件が分からない。

謎はまだ沢山あるようだ。



…………………………………………………………


配信ライブも終盤になり、赤瀬は締めの言葉を言い始める。

俺の予想だと、もう時期あの中年男性が訪れる時間だ。

その予想通り、中年男性が配信ライブにやってきた。

もちろん赤瀬は前回同様、中年男性にあいさつをする。


【出たよ。アイドルぶっている過疎ストリーマー】


「え……?」


赤瀬は動揺している。

だが、今回は俺は次の出来事を分かっているからこそ、赤瀬の立っているスタジオに俺は歩いていく。


「フミキ……くん?」


「なんだよおっさん。過去にアイドルに騙されたからってこの子に八つ当たりしてんじゃねぇよ。」


俺は中年男性に向かってそう言った。

もちろんそれは図星のようで、中年男性は俺に矛先を変えてくる。


【は?誰だよお前……そいつの彼氏か?それともそいつに気があって庇ってんのか?】


「そんなのどうでもいいやろ。てか若い女性に八つ当たりしてるあんた相当痛ぞ?」


おそらく俺が過去にループしているのは赤瀬が原因だと推測している。

なぜなら前回は赤瀬が消滅したことで俺は意識を失い、前々回は赤瀬の配信ライブに行かず、前回の出来事が発生し、俺が現実世界にいる頃に赤瀬は消滅した。


つまり、赤瀬が消滅しなければループはしない。

そう仮定し、今回は矛先を俺に向ける。

現実世界でブラック企業に務める俺には誹謗中傷なんて残業300時間よりかは軽すぎる。


中年男性は激怒し、他のリスナーを煽り始める。


【お前らが応援していたストリーマーはどうやら彼氏持ちらしいぞ?】


【彼氏が彼女の配信ライブでイチャイチャですか】


【消えろよ】


「はいはい……言っとけ言っと……け!?」


あれ……?胸が苦しい。

奴らの中傷発言に傷ついてるわけではない。

頭痛と吐き気、そして胸の苦しさが俺を襲い、俺は膝から崩れ落ちてしまう。


「だ……大丈夫?」


「にいちゃん大丈夫か!?」

 

すぐに赤瀬とさかきが俺の前に寄り添う。

しかし、あまりの苦しさに声が出ない。

おかしい……この仮想世界メタバースには痛覚は存在しないはずじゃ……


俺が苦しそうにしていても彼らの中傷発言は止まらない。

苦しすぎて下を向くことしかできない。

すると地面を這うようにして、【あの】靄が俺の足から包み込んでいくのが見えた。

それと同時に俺の身体は酷くノイズが入り、その度に痛みが生じる。


次第に靄は俺を包み込み、意識を失った。




…………………………………………………………



「ハッ!」


【長い夢を見ていたような気がする】


時計の針はもうすぐ50分を指そうとしている。


「やばっ!早く配信ライブビルリングに向かわないと、赤瀬が配信ライブを始めてしまう!」


俺はすぐさま自分の部屋を後にし、配信ライブビルリングへ向かった。




……………………………………………………


目が覚めるとそこはいつもの光景。

3


でもなんだろう。

嫌な夢を見た。


私の配信ライブ中に中年男性が入ってきて……嫌なこと言われて……

でも……私のこと守ってくれた人……フミキ……くん?

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