第4話 二週目のはじまり

あの暗闇で出会ったフミキという男と全く同じ髪。

俺は赤瀬が渡してきた鏡を見た。しかし、あの男との唯一違う点は暗闇のようなくらい瞳ではなく、綺麗な青色の瞳だった。


「普通、見た目の変化や衣装は専用部屋で行うはずなのに……どうして今になって」


「俺には分からん……ただ、また赤瀬と出会ったように、変な空間にいたような気がする」


 俺は赤瀬にさっきの出来事を説明した。しかし赤瀬はその出来事についてあまり理解はしていなさそうだった。


精神マインドなんていう言葉は聞いたことないですね……それにその後の言葉も気になります」


「それより今から配信ライブじゃなかったか?」


 赤瀬はさっきの出来事で忘れてたかように焦っていた。


「あぁ!じゃ……じゃあフミキさん!名前を書いてください」


 そう言われ、俺は受付の前にある配信ライブ参加のチケットに名前を書こうとする。しかし俺はペンを止めた。


「……いや、今日はやめとくよ」


「……え?」


「ちょっと今日はこの辺にしてログアウトしようと思う」


 急な変更に赤瀬は動揺と少し寂しげな表情をしていた。

流石の俺もこの仮想世界メタバースに来てから色々ありすぎて疲れがまわってきた。


「これ、俺の。また何かあったら連絡して」


 俺は赤瀬にフレンド申請を送る。しかし赤瀬は何が何だか分からない様子だ。


「え……えぇ!ちょっちょっと!」


 赤瀬がそう言っている間に俺はそさくさとログアウトをした。


 ………………………………………………………


 

 目を開けると俺は現実世界に帰ってきた。

時間を見るともう昼の0時、昼飯時だな。


「ん……?三島から不在着信……?」


 スマホを手に取ると三島からの大量のメッセージと不在着信が通知されていた。


「し……しまった!!あいつのとの約束すっぽかしてしまった……」


 三島は絶対に怒っているはずだ。今度飯でも奢って機嫌を直そう。

そう思ったのもつかの間、俺の腹からはもう限界と言わんばかりの音が出る。


「腹減った……ちょっと早いけど買った晩飯でも食べるか」


 台所に置いていたコンビニ弁当を取ろうと、俺は立った。

頭が痛い……めまいがする。

なんだこれは……さっきまで何ともなかったじゃないか。

遂には、歩くことも出来ず、横のベットに倒れ込んでしまう。


「これはまずい……救急……車……」


 さすがにやばいと思った俺もスマホで助けを呼ぼうとしたが視界はどんどん白くなり、意識を失った。



「ハッ!」


 意識を失っていた……何時間経ったのだろう。

体感的にはとてもつもなく長く感じ、ベットにあったスマホを探す。

しかしどこにも見当たらない……あまりにも無いので俺はゆっくりとベットから起き上がる。


「え……?なんで俺はここに……」


 そこは見た事のある風景だ。

一見現実世界のように思えるような親近感のある部屋……だが、そうでは無いと分かる。

ここはライフライブの専用部屋だ。

しかし違う点もあった。

そこは誰かがいたような痕跡が無く、まるで今日から住み始めたかのような新居の部屋。


「もしかして、ここが俺の専用部屋か。」


 でもどうしてだ……俺はさっきまでライフライブで赤瀬と行動を共に、そしてログアウトをしたはず。

もしかするとさっきまでの出来事は全て……夢だったのか。

 そう思ったのもつかの間、部屋の周りから声が聞こえる。


「ようこそ!ライフライブへ!これからこの仮想世界メタバースのチュートリアルを始めます!」

 

明るい女性のような声が部屋に響き渡る。

今回はちゃんとチュートリアルを始めてくれるそうだ。

まあ前回のは夢なんだろうが……


「おっと……あなたは既にこの仮想世界メタバースでの記録が残されています」


「は?」


 何を言ってるんだ……俺は今回が初め……て

俺がそう思おうとしたが、頭の中では前回の夢の出来事が思い浮かぶ。

そんなはずはない……


「前回の記録を再インポートします……」


 そう言いしばらくの間無音の空間が続いた。

しかし俺の耳には激しくなる鼓動で無音には聞こえない。

そんなはずは無い……あの出来事あの夢は全て現実ではない!


「インポート完了しました!おかえりなさいませ!」


 【フミキ様】


 夢……では……ない?


 そして俺の悪夢の配信ライブ生活が始まった

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