第3話 俺の名前

赤いドレスを着た金色の瞳の少女…。

あの時の夢にでてきた少女と完全に一致している。

でもなぜ彼女はここにいるんだろうか。しかもなんだか驚いた表情とあわせて警戒されている。

 

「あ……はじめまして」

「誰なんですかあなたは……」


 これは警戒どころか今にも通報されそうな勢いだ。あからさまに目が睨んでいる。

ここはなんとか誤解を解かないといけない。


「俺の名前は&#+→¥°って言います!」

「本名言ってどうするんですか……」


 しまった!自分の本名はこの世界ではマナー違反でノイズが入るんだった。

ていうか普通は最初にチュートリアルとかあるはずなのにこの世界はそんなのも無いのか。さすがに欠陥品すぎるぞ。

 どうしたらいいか分からずあやふやしていると少女は少し警戒を緩めたようで、1歩ずつこっちに向かってくる。


「もしかして、初めてライフライブに接続したのですか?」

「あ!そうなんです!接続したら暗闇の謎の場所に飛ばされて、そこで貴方にも出会いました」


 俺はさっき起きた出来事を覚えている範囲で彼女に説明した。

彼女は少し驚いた表情を見せ、俺がここに来た出来事を話してくれた。どうやら彼女いわく、部屋で配信ライブの準備をしていたところ、急に天井から俺がすり抜けて落ちてきたらしい。


「普通は1人1つの専用部屋が用意されていて、そこでチュートリアルを受けるはずなんですが」

「つまり俺は普通は専用部屋に飛ばされるはずが、君の部屋に飛ばされたってわけか……」


 幸か不幸か、人生初めての女性の部屋がこんな形で体験するとは……。てかなんかいい匂いするし。

というかさっき配信ライブの準備って言ってたな。この人もライフライブのストリーマーなのか

ということは、この人もあの招待状からここに来たってことでいいんかな?

 招待状の件について聞こうと思ったが、どうやら急いでるようで出かける用意をそさくさと始めていた。


「君は今から配信ライブに行くって言ってたよね?」

「はい!今日が三回目の配信ライブです!」

「俺も行ってもいいかな?」


 そう言うと少女は少し、いや……かなり迷った結果、ここであったことを絶対言わないという約束で了承してくれた。

そりゃそうだろうな……リスナーからしたら、いきなり推しの家に男が落ちてきたなんて俺がそのリスナーなら発狂ものだからな。


「それと……」

「ん?」

「君……じゃなくて赤瀬 あかり です……」

「分かったよ。よろしくな 赤瀬」


 彼女……いや赤瀬にそう言うと少し照れたような表情を見せ、部屋を後にした。少し可愛いと思ってしまった俺を軽く叩き、俺も赤瀬の部屋を出ていった。


 ……………………………………………………


 外に出るとそこには多くのプレイヤーと店が盛んに賑わっていた。

ライフライブという聞いたこともない仮想世界メタバースだったからもっと過疎っているイメージだったが、予想以上だ。


「ここの媒体ってこんなにも賑わってるんか?」

「媒体って言うか、ライフライブは言うなれば配信ライブ活動を仕事とする企業っていうだけで、仮想世界メタバース自体は特に変わってないんですよ!」

 

つまり仮想世界メタバースの世界は俺たちがいつも知っている場所でライフライブっていう企業がその中で運営してるわけか。それを聞いて少し安心した。


「ただ、ライフライブ特有のシステムもあるんですけど」

「特有……?」

「それはまた後で!」


 そう言うと赤瀬はしばらく歩いた先の大きなビルへと入る。

入口に入るとそこでは多くのストリーマー達が配信ライブを行っていた。

そこは部屋の区切りは無く、各々が自由な所で配信ライブをやっている。バンドや歌い手が多いのか、歌声や楽器の音が色んな方向から聞こえていた。


「ここは路上配信ライブです!主に歌い手やバンドメンバー達がこのフロアで配信ライブすることが多いですね。」

「なんでその人らが多いんや?普通個室での配信ライブの方がちゃんと聞ける人が多い気がするけど」

 

「路上配信ライブは新人ストリーマーなどが新規のリスナーさんを集めるためにここで配信ライブを行うことが多いですね。有名になれば個室の方がいいでしょうけど、個室での配信ライブは他のストリーマーが多く配信ライブをやってますので見つけにくいんです」


赤瀬は楽しそうにそう喋るとエレベーターへ向かい、5階を押した。

目的地に着くと赤瀬は前の受付で申請をしている。ここで配信ライブをするみたいだ。

申請が終わったのか赤瀬は俺の事を手招きする。


「できたのか?」

「今から配信部屋ライブルームに向かうのに貴方の名前を記入しないとなんですが……」


 赤瀬は険しそうな表情でこちらを見ていた。

チュートリアルを吹っ飛ばして自分の名前すら考える時間も無かったからな。


「一分だけ待ってくれ!今考える」


 そう言うと俺は目つぶり頭の中からいい案がないか探し始めた。

しかし探し始めてから数秒、いきなり体が宙に浮いたような感覚に陥り、目を開けるとそこは暗闇の中だった。

またこの現象……一体これはなんなんだ。

 しかし今回は最初から喋ることができたので俺は大声で暗闇の底に問いかけた。

 

「一体ここはどこなんだ!!なにがしたいんだよ!」


 俺の声は遠く彼方へ飛んでいき、帰ってくることは無かった……はずだった。

先程俺が飛ばしたはずの声……いや、俺の声だが飛ばしてはいない言葉が背後から飛んできた。


【俺の名前はフミキ……これはお前の名でもある。】

「ハッ!」


 俺はすかさず声のする方を振り返った。

そこには赤瀬と同じ白髪の……だが瞳は暗く、目にクマがある不気味な男がいた。


「お前は……ここは一体どこなんだ!?」

【お前はまだ知らなくていい。お前にはまだやるべきことがある】

「やるべきこと……?それよりここからだ……っ!」


 ここから出せ とそう言うとすると【フミキ】と名乗る男は、俺の胸の中に手を入れた。

急に喋れなくなり、身動きがとれない。


【よく聞け……お前の精神マインドには頼りすぎるな。俺はお前であり、お前は俺なのだから】


 そう意味深な発言をしたフミキはジワジワと俺の体内にまるで浮遊していた魂が本体に帰ってきたかのように入っていった。


 ……………………………………………………




「……?……ねぇ!しっかりして」


 目を開けると赤瀬と受付にいた人が心配そうな表情でこちらを見ていた。

どうやらまた夢を見ていたらしい……。


「本当に大丈夫?やっぱりすぐにログアウトしたほうが……」

「……だ。」

「え?」


「俺の名前は……」


 俺がそう言うと激しく視界がゆがみ始めた……そして自分の手や足や体全身からノイズが走り出す。

 それを見た俺もそうだが、赤瀬や受付にい人達まで動揺をしている。

だが、動揺しているはずの俺は何故か、自分の名前を発した。


【俺の名前はフミキだ】


 そういうと全身のノイズは破裂するかのような音を出したあと消え去った。

 

「フミキ……?貴方、髪の毛が白髪になってる」


 初期の黒髪だった俺は白髪になっていた。まるで暗闇の中で出会った奴のように。

 

 



 

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