事象の始まりと終わり
物事の事象には始まりと終わりがある。それは当たり前の事で、誰でも生きていれば理解するのだ。生きてさえいれば、事象の始まりと終わりぐらい、一度は体験したことがあるだろう。そして、私が初めて体験した終わりこそが私の好奇心を作るきっかけになり、そして私がまた新たに起こそうとしている事象の始まりのきっかけになっている。
「なぜそんなこともわからんのだ!」
事務所内に響く罵声。その罵声の向かう先は私だ。少し錆びついた鉄で縁取られていて、くすんだ灰色の机の板の上には数秒前まで私が書いていた企画書が載せられている。事務所の一角、どこにでもありそうな何の変哲もないただの子会社。小さな会社で、主に生活雑貨商品の製造、販売をする。そんなところでただ一喝されたぐらいで別にへこむことはない。けれど今回は違った。今回は企画がギリギリまで切羽詰まったところを同僚の藤田さんにアイディアをだしてもらってやっとのことで出したものだ。だから、この企画書は藤田さんのものと言っても過言ではない。それに、藤田さんは私よりも成績がいい。何度もヒット商品を作り上げている。それなのに、だ。
それなのに、私は今、藤田の企画書を複製して、名前の部分だけ書き換え、あたかも自分がやったことのようにしている、そんな盗作をしてはいけない、なぜそんな涼しい顔で提出できるのだ、と罵声を浴びさせられている。この事象の始まりはなんだろうか?そう、藤田さんが手伝おうか?と話しかけてくれたことだ。そして終わり方は最悪だ。「ああ、はめやがったな?と。」頭の中ではわかっていたことだったし、第一一番最初に副業がばれたのも藤田さんだし、それを事務所内にばらまいたのも藤田さん。なにかと好印象はない。だから所長に呼び出された時も吃驚した顔にはならなかった。ただ、そんなことをされても尚、私が涼しい顔でいられるのは私が特別だからでもなんでもない。それが、最も正しいからだ。社会に出て通用するのはこういった冷静さなんだ、と思う。
罵声が一通り済んだところで席に戻る。次に来るのは視線と小さな笑い声。それでも構わない。ここでは仲間の数で勝敗が決まる。仲間がどうすれば増えるか、それは作り笑いだけだ。それさえしていれば、自然と成績も上がる。副業の職業柄上、作り笑いなんかしなくても人を信じさせることはできるが、つまらない。なぜか?興味が沸かないからだ。つまらないに理由もあるか、と思ってしまうが。それでも今日退勤した後、日記を書くとするなら、書き始めは「今日は何もなく、強いて言うなら少し注意されたぐらいだー」まぁ、25歳独身女性には日記を書く趣味などもっぱらないが。
トランプの遊戯 真白慈々 @masiro_zyuzyu
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