第11話ジャングルとラムルさん
翌日、ぼくはあまりねむれなかった。
理由はラムルさんのことだ、この世界にやってきてから何日経ったのかわからないけど、初めてこの世界に住んでいる人と会うことができた。
もしかしたらここが一体、どんなところなのか少しはわかるかもしれない。
ぼくたちはテントを片づけると、北邦くんがラムルさんと出会った場所へむかった。
「それで北邦くん、ラムルさんってどんな印象だったの?」
「印象か・・・、一言で言うなら顔がこわい感じかな。アゴに
「そうなんだ、それでどこに住んでいるとかは聞いた?」
「いや、あのときはおかしをくれてうれしかったから、聞いてなかったな。聞こうとしたときには、もういなかったよ・・」
「そっか・・」
そしてぼくたちは、北邦くんがラムルさんと会った場所に到着した。そこは小川の下流にある、すこし川幅が広いところだ。
「昨日、ここで魚つりをしていたんだ。そしたら後ろから声をかけてきたんだよ」
「ということは、この辺りに住んでいるということが考えられるね・・」
すると人が近づく気配を感じた、ぼくたちは近くの木陰にかくれて様子をうかがう。
そして現れたのは体格が大きくて、こわい顔をした男だ。アゴには無精髭が生えている。
「あっ、あの男だ!ナムルさんだよ!」
「よし、声をかけてみるよ」
そしてぼくは木陰から出て、ナムルさんに声をかけた。
「あの、こんにちわ」
「ん?お前はだれだ?」
「東野歩見といいます、昨日はおかしをありがとうございました。」
「ああ、もしかして北邦くんの知り合いか。昨日は美味しい魚をありがとうと、彼に伝えてくれ。」
「魚・・・?どういうことですか?」
「実は北邦くんの魚と引き換えにおかしを差し上げたんだ、彼は魚つりが上手だね。」
木陰にいる北邦くんを見ると、少し照れた表情をしている。
「おや?そのコンパスは・・・?」
ナムルさんはぼくがもっているコンパスを不思議そうにのぞきこんだ。
「どうしましたか?」
「このコンパスはリョシのコンパスじゃないか、どうしてきみが持っているんだ?」
「あの、これはおじいちゃんの部屋で見つけたものなんです。ナムルさんはどうしておじいちゃんのことを知っているのですか?」
「おお、きみはリョシの孫なんだね。会えてうれしいよ、きみに伝えたいことがあるから私の家に来てくれないか?」
「ええ、ぼくたちの仲間も一緒に来てもいいですか?」
「もちろんだとも、一緒に来なさい」
そしてぼくは北邦くんと南原ちゃんと西野くんをつれて、ナムルさんのお家へと向かった。
「ここがオレの家だ」
そこは木製のとても古びた感じの粗末な家だった、ナムルさんには失礼だけど廃墟と言われてもおかしくないくらいに古びた家だ。
「まぁ、ゆっくりしていきなよ。こんな家だけどな」
ぼくたちはナムルさんの家に上がると、北邦くんと南原ちゃんがその場で寝転がりだした。
「なにやってんの!?」
「いやぁ、人の家に来るのずいぶん久しぶりだからさ、安心感が出てしまって・・」
「そうだよ、なんかホッとするわ・・」
確かにぼくも、いつも緊張していた心が少しばかりほぐれるような気持ちになった。
「お茶飲むか?あとは前にあげたのと同じおかしくらいしかないけど・・」
「ほしいですー!」
「ちょっと北邦くん!もう少し遠慮しないとダメだろ!」
西野くんが北邦くんをたしなめた。
「アハハ、遠慮しなくてもいいぞ!こんなに大人数が来たのは初めてだからな!」
ナムルさんは竹の容器にお茶を入れると、おかしと一緒におぼんに乗せて持ってきてくれた。
「こんなに・・!いいんですか?」
「ああ、いいとも!」
「それにしても、どうしてこんなにおかしを持っているの?」
「ああ、おれは村という村を回って、野菜や魚や日用品などを売っているんだ。このおかしは、いわば余ったものだ。だから気にするな!」
「行商人なんだ、ところでどうしてぼくのおじいちゃんのことを知っているの?」
「前にこの地を探検しに来たときに、出会ったんだよ。あの時のリョシは、食糧が無くて困っていたから、食べ物をわけてあげたんだ。」
「へぇ、おじいちゃんが世話になったんだね。」
「いや、世話になったのはおれの方だ。前に村までもう少しのところで車が動かなくなってしまってな、その時偶然通りかかったリョシが村まで荷物を運んでくれたんだ。さらに車の修理まで手伝ってもらって、本当に助かったよ。」
「そうだったんだ、東野くんのおじいちゃんいい人だね。」
「ところで、あなたのもっているそれはリョシさんのコンパスですね?」
「うん、おじいちゃんの部屋で見つけたんだ。」
「それって、きみが勝手に持ち出したのか?」
ナムルさんが疑わしげにぼくを見つめた。
しまった、変な誤解をさせてしまう前に、訂正しないと・・!
「いいえ、実はおじいちゃんはもう亡くなってしまったんです。それでぼくがおじいちゃんの部屋を片づけていたら、このコンパスが見つかったんです。」
「なんだって・・!!」
ナムルさんはショックで顔に手を当てた・・。
「そうだったのか、勘違いしてすまなかった・・。けど、このコンパスがきみとおれを出会わせてくれたんだ。」
「はい、なんだかとてもふしぎな感覚です。」
「アハハ、きっと縁があったんだよ」
それからぼくたちはナムルさんの家でゆっくり過ごした後、再び旅を再開した。
「もう、行くんだな。」
「はい、家に帰らなきゃいけないので・・」
「そうか、ではこれをあげよう。」
ナムルさんがくれたのは、塩・シナモン・コショウの入った三つの瓶だ。
「魚や肉が手に入ったら、使ってみてくれ。きっと美味しくなるぞ」
「ありがとうございます」
「それとジャングルを抜ける道へ行くには、谷間の分かれ道を左へ行くこと。ガルーダ像が目印だから、忘れるなよ」
「うん、ありがとうございました!」
「おう、またな!」
そしてぼくたちはナムルさんと別れて、ジャングルの中を歩きだした。
「ナムルさん、いい人だったね。」
「うん、いっぱいごちそうになったしな。この後もナムルさんみたいな人に出会えたらいいな〜・・」
「簡単には会えないよ、この先人が全くいないところへ行くかもしれないのに・・」
「西野くんの言うとおりだよ、とにかくお互いぼくたちしか頼れないから、がんばって生きていかないと。」
そしてジャングルを進んでいくと、やがて奇抜な姿の木で彫られた像が見えた。
「これがガルーダの像だ、ここを左にまがるんだね。」
そしてぼくたちは左へ曲がって、谷へと続く道を進んでいった。
「ねぇ、北邦くん。それなに?」
北邦くんがポケットから何かを取り出して見ていた。
「昨日川で魚を釣っていた時に、川辺にあったんだよ。何かネックレスみたいなものだけど・・?」
するとぼくはあることを思い出した、そして北邦くんに言った。
「そのペンダント、よく見てもいい?」
「ああ、もちろんいいよ」
ぼくは北邦くんからペンダントを受けとると、ペンダントの中を開いた。
「やっぱり・・!」
「どうしたんだよ?」
「これ、おじいちゃんのロケットペンダントだよ!」
ロケットペンダントの中には若い男女の写真だった。
「じゃあ、この写真の二人は・・」
「おじいちゃんとおばあちゃんだよ、おじいちゃんが生きていた時、インドネシアを探検していたらロケットペンダントを失くしてしまったって言っていたんだ。」
そしてこの時、ぼくは頭の中でかすかに思った。
ぼくたちは・・、おじいちゃんの記憶の中を冒険しているのではないかと・・?
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