第50話
上まで着くと台車の上に置かれた大きな段ボールに移し替え、廊下に出る。
「入口を開けてくるわ」
「ああ頼む。あとトイレは何処だ?」
「このまま入口に戻って貰って、左手にありますわ」
「どうも」
男が先に前を歩き、鳥坂は台車を押しながら通ってきた廊下を歩いた。
「さて、先にトイレでも行くか」
台車から離れ、トイレに入る。その後、男が入っていった事務所に立ち寄った。中は机が五台に書類を整理するための棚があり、電話、コピー機、FAXが設置されていた。だが棚にファイルが数冊しか並んでおらず、閑散としている。
「すまないが、煙草一本吸っていいか?」
「ええけど、あの男は?」
「ああ。あれだけ弱っていたら大丈夫だろう。それにあんたがいない間に、少しだけ遊ばせてもらったしな」
「兄ちゃん、案外えげつないな」
肺まで吸い込んだ煙草を、勢いよく吐き出すと、蛍光灯に吸い込まれる様に流れて行く。
「で、どんな風に処分するんや?」
「一番簡単な方法だな」
「って、どんな方法なん?」
立ったままの鳥坂は側にあった椅子に座り、力いっぱい仰け反った。
「丁度、市内には建設中のマンションが何棟もあるし、景気が上向きだしたのかわからないが、建設中の建物が増えてきている。その中でも基礎が終わっていない建物に沈めるさ。組の関連企業は沢山あるからな。あんたはやったこのないのか?」
「え? ああ……足で従いて行った事はあるんやけど……」
見た目をそれ風に飾っても、中身までは染まれていないのだろう。かくいう鳥坂も大したことはない。
昔、安積や周りが言っていた言葉を、それらしく口に出しただけだった。
「それにしても、目の前に海があるんなら、そこに投げ込めば早いんじゃないのか?」
「それが潮の流れで、あかんみたいで、依頼しはったみたいや」
「そうなのか。それにしても、大層な作りの建物だな」
時間を稼ぐように、関係のない話しを続けた。
「ここは元々、どっかの会社の研修施設やったらしいわ。それを三船さんが買い取って、軽く改装したんや。まだ奥の方は改装が残ってて、終わったら大々的に信者を募るみたいや」
「それなら都市部の方がいいんじゃないのか?」
「それは俺も不思議で聞いたんやけど、不便で自然が多い場所でしたほうが、神秘性があるからええんやって言ってはったわ。まあ、すでにあちこちにモーションは掛けてはるみたいで、近々有名人が来るらしいわ」
「へえ」
鳥坂は、気のない返事をした。咥えていた煙草が短くなり、いい具合に時間が過ぎた。いつも持っている携帯灰皿に吸い殻を捨てた。
「それじゃあ出るわ」
「階段で下りるのは大変やろうから、坂を使ったらええわ。ちょうど階段の奥に、木に隠れてコンクリートの坂があるから。ほんだら頼みますわ」
「はいはい」
鳥坂はポケットに手を突っ込みながら、事務所を後にした。
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