第39話
袖を引かれ、胡蝶は我に返った。「どうかしたの?」マリアがそう言っている気がした。
「ごめん。ちょっとボーっとしちゃったわ。何か飲む?」
ボードにマリアは、「もうお腹いっぱい」と書く。胡蝶が皿を片づけ戻って来ると、
「ファッションショー、いいよ」
とボードを見せてきた。
「あら! じゃあ、しましょうか!」
胡蝶の心は一気に上昇した。買って来た袋を寝室へと持って入った。
「ここで着替えて、リビング出てきてちょうだいな。楽しみにしてるわ」
胡蝶は鼻歌を歌いながら部屋を出た。
時間を置かずにマリアが部屋から出てきた。青いワンピースのスカート部分には、白い生地が縫い込まれてエプロンのようになっている。
「やっぱりいいわ! ちょっと回ってみて」
マリアがゆっくりと回転した。
「ああん! もうアリスみたい! そうだわ」
胡蝶は寝室とは違う部屋から髪飾りを持ってきた。マリアの前で膝を付き、大きめのリボンがついたカチューシャを付けた。
「いやん! 本当のアリスみたい。素材がいいと、服も映えるわね。どうマリアちゃん?」
服を広げながら、自分見ているマリアに、「鏡ね、鏡」と言いながら、今度は大きめスタンド鏡を持ってきた。
「さあ、どう?」
マリアは一度だけ首を縦に振った。
「じゃあ今度は、ジーンズね。あのセット買ったもので着てみて」
マリアは興奮気味の胡蝶に、首をかしげ何かを訴えるように見つめた。
「どうかした? 疲れた?」
大きく頭を振った。マリアは言われるまま、また服を着替えてくれていた。その度に胡蝶は奇声のような雄叫びをあげ、手をパチパチと叩く。胡蝶にはマリアも心なしか、浮ついた気分になっていた。
休憩でソファに座ると疲れが出たのか、そのまま眠ってしまった。
マリアが目を覚ますと、知らないベッドに横になっていた。起きあがると、子供机と飾り棚。寝ているベッドには、うさぎやキャラクターの縫いぐるみがあった。
それはどことなく、あの叔父が用意した部屋に似ていた。
マリアは恐る恐るベッドから下り、扉に手を掛けた。するといい香りが鼻孔をついた。ゆっくり部屋を出て辺りを見回す。叔父の家ではない事実にほっとした。一瞬、過去に戻ってしまったのかと、疑念を抱いたのだ。
胡蝶が台所で鼻歌をしながら、料理をしていた。
「あらマリアちゃん。起きちゃった? 五月蝿かったかしら?」
マリアは首を横に振る。
「よかった。今日はねビーフシチューなの。マリアちゃんは好き?」
ボードに好きだと書いた。
「よかったら、手伝ってくれるかしら?」
マリアは頷いた。
「じゃあサラダ用の野菜を洗って、水気を飛ばしてもらおうかしら」
置いてある野菜を洗い、渡されたボールに入れて水気を飛ばす。
ボールは二重底なっていて、蓋をして上部に付いている取手を回すと、余分な水が飛ばせる。マリアは一心に回した。
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