第31話 怒られた

「なに言ってんだ!!」


 同じような台詞をボルデン公爵以外の全員に突っ込まれました……そんな突っ込まなくても……ぶつぶつ。


「お前、前一人で無茶したのを忘れたのか!?」

「そうだよ!! そのせいで酷い怪我をしたじゃないか!!」

「もう少し考えろ」

「ルシア嬢、さすがに賛同しかねます」

「ルシアさん、もう無茶はしないでください、とお願いしましたよね」


 皆、笑いながらも怖い……目が笑ってないよ……。アハハ……と思っていたらさらに超冷たい視線を感じる……。


「ルシアさん?」


 ビクゥゥッ!!

 グギギッ、と不自然な動きで目線をやると黒いエネルギーでも発しているのかというほどの怖い笑顔のシュリフス殿下がいた……あわあわあわ……。


「貴女は!! あれほど命を大事にしなさいと言いましたよね!?」


 頬を両手で挟まれ、ぐにぃぃいいと潰される! あぁぁあ、ぶっさいくになっちゃう! と思ったけど、ほっぺに触れるシュリフス殿下の手がぁ!! 思わずうっとり。


「聞いてます!?」


 しまった、うっとりし過ぎて怒られていることを忘れそうだった!


「ま、まあまあ叔父上」


 セルディ殿下が苦笑しながらシュリフス殿下を止めてくれる。


「ハハ、こんな叔父上初めて見ましたよ」


 その言葉にシュリフス殿下はハッとした顔になり、顔を赤らめた。いやん、可愛い! 恥ずかしがるシュリフス殿下最高!!


「ルシアさんが悪いんです」


 拗ねたような口調でそんなこと言われた日にゃ! どうするよこれ!! 優しくて、紳士で、怒るときはしっかり怒ってくれて、拗ねたり照れたり……最高過ぎるぅぅぅ!!

 あっかーん! こんなときなのに! こんなに周りに人がいるのに! 抱き付きたくなってしまーう!! あぁぁあ、シュリフス殿下が尊過ぎてしんどい……。


「あ、あ、あの、別に私一人で無茶するつもりはありませんから!」


 しゅんとしてみた。さすがに私だってそこまで馬鹿じゃない! と、言いたいところだけど、とりあえず自分の浄化魔法でなんとかなるだろう、としか考えてなかった……そら怒られるよね……ごめんなさい。


「私は浄化魔法が使えます」


「浄化魔法!?」


「はい。だから黒い影の力はその浄化魔法で消せると思うんです。でもその力を消したとしてもきっと魔物は残る……その魔物は皆さんで倒してもらいたい」


 アイリーンが闇堕ちしたときは黒い影の力さえ消し去ればアイリーン自身は元の姿に戻っていた。命は助からなかったけれど……。

 でも、おそらく魔物は浄化魔法だけでは消えないと思うのよね。浄化魔法に集中しているとどうしても魔物への攻撃に遅れを取ると思う。だから援護してもらわないといけない。


「なるほど、ルシアが浄化魔法で浄化をしている間に、私たちが魔物に攻撃をするということだな」


 ラドルフの言葉に皆が納得したようだ。シュリフス殿下は……


「それでも危ないことに変わりはないです。必ず護衛を付けること。それと……私も傍に付きます」


「え!?」


 シュリフス殿下は、納得は出来ないが仕方ないといった顔。


 いや、ちょっと待って、シュリフス殿下が傍に付く?


「叔父上がルシア嬢の傍に付くのですか?」

「えぇ。私がルシアさんを見張ります」


 見張るって……信用ないな……。


 なんだか納得出来ない、とぶつぶつ言っていると、なぜかセルディ殿下やアイリーンは生暖かい目を向けた。ん?


 ロナルドたちはなんだか苦笑しているし……なんなのよ。



「では、今後クラウド家の動きに細心の注意を払ってください。なにかあればすぐに共有を」


 そう言ってセルディ殿下から小さな魔導具を渡された。水色の魔石が埋め込まれたペンダント。


「これに魔力を込めると通信が出来る魔導具です。魔力を込めた時点で相手の魔石が反応し、相手側も魔力を込めた時点で通信が可能となります。全員と共有する場合は全員をイメージしてから、個人の場合は送りたい個人をイメージしてから魔力を込めると、相手を指定して通信が出来ますので」


 魔導具って便利ねぇ。


 そうやってボルデン公爵以外のここにいる全員が同じ魔導具を持った。普段は目に付かないように服のなかへとしまう。


「それでは我々は学園寮へと戻りますね」


 セルディ殿下、ロナルド、ラドルフ、アイザック、そしてシュリフス殿下は立ち上がり、部屋のなか、少し離れた場所へと立った。


「?」


 なにをしているんだろう、と見詰めていると、セルディ殿下が一枚の紙を取り出し、なにやら呪文のようなものを唱えると、その紙が光り出した。


 光り輝いた紙はセルディ殿下の手から離れると巨大な魔法陣を作り出し、五人の足元に広がる。


「では、失礼しますね」


 セルディ殿下がそう言うと、輝く魔法陣の光に包まれ、一瞬にして五人の姿が消えたのだった。


「消えた!?」


 五人の姿が消えたと同時に魔法陣も跡形もなく消え去っていた。


「空間転移の魔法陣ですわ」


「空間転移……」


「えぇ。高等魔法となるので、使える人は限られていますが、セルディ殿下はお使いになられるのです。今日ここに来られたのも先程の転移魔法で来られました。世間的には私とセルディ殿下は婚約破棄の話が出ていることになっていますからね。その話の当日に公爵邸に来られているところを見られてはいけないでしょう?」


「あぁ、なるほど、だから表立っての訪問が分からないように転移魔法で……」


「えぇ」


「先程の通信が出来る魔導具……あれもセルディ殿下とアイリーン様はお揃いで持ってましたよね」


 フフフ、皆に魔導具を渡しているのにアイリーンはすでに持っていたのは知っているのよ。

 案の定真っ赤になったアイリーンが可愛かった。


 結局その日はボルデン公爵家でそのまま公爵様たちと共に晩餐をいただき、アナには使いを出してもらい、そのままお泊りをさせてもらった。

 アイリーンが狙われないかはいまだに心配だが、きっと今のアイリーンなら大丈夫だろう。それよりも私のほうが心配されているのがなんだか納得いかないけれど……。

 アイリーンと女子会のようなノリでおしゃべりをし、同じベッドに寝かせてもらった。楽しかったわぁ。このままアイリーンを幸せにするんだから!




 そして何日も経たないうちに、皆の予想通り事件は起きた……。


 学園に、王都に、魔物の大群が現れたのだった。

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