第30話 そんなことさせない!
「この声はお父様ですわ」
アイリーンがセルディ殿下に確認すると、セルディ殿下は頷いた。アイリーンは扉に近付き、そっと扉を少しだけ開き、外を確認した。
外の人物と少し会話をし、その人物がなかへと入る。
現れたのはアイリーンと同じブロンドの髪に紫色の瞳、キリッとしたこれまたイケオジ。シュリフス殿下には負けるけどね! いや、でもシュリフス殿下とはまた違う渋くてダンディなイケオジだわ。どことなくアイリーンと似ている。さすが親子ね。
「ボルデン公爵、お邪魔しています」
「殿下、ようこそおいでくださいました。ちょうどお話したいことがあったのです」
「?」
ボルデン公爵は私たちのいる傍までやってくると、セルディ殿下に向かって一礼した。そして最初のにこやかな顔とは違い、スッと目を細め極めて冷静に言った。
「本日王宮へ出向いていたのですが、そのときにクラウド公爵と会ったのです」
「!!」
クラウド公爵の名が出ると、皆の空気が一瞬にして張り詰めた。
「クラウド公爵は私に向かって『アイリーン嬢はセルディ殿下と婚約破棄をなさるのですね、驚きましたよ。一体なにがあったのですか? お二人は仲が良いと聞いていたので残念ですねぇ』と、そう言ってきたのです。まだ卒業パーティが終了している時間でもないのにです。そして明らかに侮蔑を込めたような目で二人のことをあれやこれやと……」
ボルデン公爵は不快感をあらわにし、眉間に皺を寄せながら拳を握り締めていた。その場にいたわけではないのだから詳細は分からないにしても、聞いているだけでも不快になりそうだ。なぜわざわざそんなことを言う必要がある。婚約破棄が事実だったとしても、それを根掘り葉掘り聞き出したり、あることないこと吹聴する必要などない。
そんなやつには鉄拳制裁を食らわしてやりたい!! イッラーとしていたら、皆もそうだったようだ。明らかに皆が不機嫌な顔になった。
「早々に動き出すとは分かりやすいやつだな」
アイザックがそれこそ侮蔑を込めたような表情で言い捨てた。
「これは少し警戒をする必要があるかもしれませんね。早々になにか行動を起こすかもしれない」
セルディ殿下は顎に手をやり考え込んだ。
「そもそもクラウド公爵はなにがしたいんですかね……」
「?」
少し疑問になったことを聞いてみたら、皆が不思議そうに私を見た。
「なにがしたいっていうのは?」
「えっと、だって王家転覆を狙っているのだとしても、黒い影の言い伝えが本当なら、そんな力を放ってしまったら、下手をすると国家滅亡ですよ? 自分が王家に成り代わりたいのなら国が滅んでしまっては元も子もないですよね? 力を放ったとしてもそれを抑えるなにか力を持っているんですかね?」
「確かに……」
「本当だ……」
皆が考え込んでしまった。
実際はルシアの浄化魔法でなんとかなるんだろうけど、ゲームのエンディングでもクラウド家が王家を滅ぼして自分が取って代わったとかなんてなかったし。ボルデン公爵家が没落してしまうために、クラウド公爵家が国一番の公爵家になった、ってくらいだった。
そう考えると、結局クラウド公爵はただ単にボルデン公爵家を没落させたかっただけなのかしら……。ボルデン公爵家を没落させてその後権力を握って王家転覆を企てるつもりだった……?
でもゲームとは違いアイリーンが闇堕ちすることはきっともうない。ということはそれ以外にボルデン公爵家を没落させようとするはず……それには一体どうするつもり……?
「私を陥れようとしているのかもしれませんな」
ボルデン公爵が呟いた。
「公爵?」
皆がボルデン公爵を見た。ボルデン公爵は溜め息を吐き言葉を続ける。
「私は軍務大臣です」
「そうか!!」
セルディ殿下はハッとしたように顔を上げた。その言葉に釣られるように生徒会メンバーもシュリフス殿下も気付いたような顔だ。え、どういうこと?
「今から思えば狩り大会の魔物もそうだったのかもしれませんな。クラウド公爵は魔石の力で、おそらく魔物をけしかけるつもりなのでしょう」
ボルデン公爵が冷静に言葉を発し、それにセルディ殿下が言葉を続ける。
「そして魔物を国にぶつけ、あわよくば国王を殺し、それが叶わなくとも、魔物を殲滅出来ず混乱を抑えきれないとなると、軍務大臣であるボルデン公爵が責任に問われる……それを狙っているのだな……」
「なんてことを……」
アイリーンが口に手を当てショックを受けている。
「そんなことになれば下手をすると城も王都も大打撃じゃないか!」
ロナルドが叫ぶ。ラドルフもアイザックも眉間に皺を寄せる。シュリフス殿下も考え込んでいるようだ。
私が婚約破棄を回避させようとしたことで、アイリーンの闇堕ちがなくなった代わりに魔物が……。
「そんなことさせない……」
呟いた言葉は皆に届いた。皆が「え?」とこちらに向く。
「私が絶対そんなことさせない!!」
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