第24話 抱き締められた!!
「さて、お話は終わりましたか? 最後にもう一度身体の不調を診ますので、皆さん外へ出てください」
戻って来たシュリフス殿下が皆に声を掛ける。
四人に続き、アイリーンは「外でお待ちしていますわね」と言って出て行った。その顔はやる気に満ちていた。
「では少しの間じっとしていてくださいね」
「はい」
正面に座ったシュリフス殿下は私の両手を握った。きゃぁぁああ、手! 手がぁ! 手汗大丈夫かしら! 変な汗をかいてしまいそう!
シュリフス殿下は目を瞑り集中する。手から魔力が流れ込んでいるのか、なにかを感じる。身体中を巡るように全身が不思議な感覚になる。それらが再び手に集まってくると、シュリフス殿下の手に吸収されているようだった。
しばらくして「フー」と息を吐いたシュリフス殿下は目を開けた。ち、近い! 瑠璃色の瞳に吸い込まれそう! あぁぁあ、緊張でどうにかなりそうなのに、目が離せない!! 見詰め合ってしまうぅ!!
握っていた両手をさらに強い力でぎゅっと握ったシュリフス殿下。そして「はぁぁ」と溜め息を吐き俯いた。あぁ、視線が外れちゃった……というか、溜め息……もしかして私も叱られる!? そ、それはそれで興奮してしまいそうだけど……。
「せ、先生?」
恐る恐る聞いてみる。
「もう二度と自分が犠牲になるような攻撃の仕方はしないでください」
「え……」
俯いたまま低い声で言われた。やはり怒っているのね……あ、ヤバい、ちょっと泣きそう。
「す、すみませんでした、これからは気を付けます! で、でも……アイリーン様を護れたので後悔はしてません……」
これは本当だもの。あのとき私が動かなければアイリーンが怪我……下手をすると死んでいたかもしれない……そんなの駄目よ!
「それでもです!! 貴女の命だって大切なのですよ!?」
ガバッと顔を上げたシュリフス殿下の顔は真剣だった。真剣に怒ってくれている。
「ごめんなさい……」
あ、駄目だ、涙が零れてしまう。思わず俯いた。シュリフス殿下の怒った顔が怖かったのか、心配をしてくれているのが嬉しかったのか……いや、どっちもか……。でも泣くのは卑怯よ。我慢しないと!! 外見は十代だけど、中身はアラサーなんだからこんなことで泣いている場合じゃない!
なんとか取り繕わないと! しかし、そう思えば思うほど考えはまとまらず、どんどんと感情がこみ上げて来てしまう。情けない!
涙を零さないように必死に耐えていると、シュリフス殿下は握っていた両手を片方離すと私の頬に触れた。驚いて顔を上げた瞬間、ポロッと涙が零れ落ちてしまった。あぁぁ、駄目だ。
こうなってしまうと堰を切ったかのように止まらなくなってしまった。ボロボロと涙は溢れ出す。
「ごめんなさいぃぃぃ!! もう二度と自分の命も軽んじませんからぁぁあ」
小さい子供のように泣きじゃくってしまった! 恥ずかしい!!
シュリフス殿下は怒ったような真剣な顔からフッと力が抜けたように、いつもの優し気な顔に戻った。そして泣きじゃくる私の背に手を伸ばすとぎゅっと抱き締め、頭を撫でた。
はわわわわ!! だ、抱き締められたぁぁあああ!! あぁぁぁあ!!!! 堪能したいのに涙が止まらなくて匂いすら嗅げないぃ!!
あぁぁあ!! と声を上げながら泣きじゃくり、どさくさ紛れにシュリフス殿下の背中に手を伸ばし、ぎゅうぅぅ!! っと抱き付いた。あぁ、細いと思っていたのに、意外としっかりした胸筋!! 背中に回された腕も力強いし!! 優し気なイケオジだと思っていたけど、意外と男らしいかもぉ!!
ここぞとばかりに抱き付きながらシュリフス殿下の首元にスリスリと……。はぁぁあ、至福……。
「落ち着きましたか?」
涙もようやく落ち着いて来た頃にシュリフス殿下が耳元でそっと呟いた。はぁぁん、イケボが耳をくすぐるぅ。
離れたくない! シュリフス殿下は身体を離そうとしたが、私の腕は緩まない! ぎゅうぅぅ!! と、しがみついたまま。
「ルシアさん?」
くっ、やはりもう駄目か! 残念! 仕方なくシュリフス殿下から身体を離す。
「あぁぁあ!! すみません!!」
「?」
身体を離し気付いた……シュリフス殿下の尊い肩がぐっしょり……。あわあわしているとシュリフス殿下はクスッと笑った。
「フフ、これくらい大丈夫ですよ、それよりも落ち着かれましたか?」
「は、はい……すみませんでした」
顔が赤面するのが分かった。冷静に考えてみて、泣きまくっていたのはまあ良いとしても、抱き付いてスリスリしてたのはあかんやろ!! どう考えてもアウトー!! 痴女!! 恐る恐るシュリフス殿下の顔を見た。
目を合わせたシュリフス殿下はフッと笑って、再び頬に触れた。ドキィィイ!!
そして手に魔力を集中させたかと思うと泣き腫らした目を治してくれたのだった。優しいぃ。
「本当にこれからは自分の命も大事にしてくださいね」
そう言ったシュリフス殿下は頭を撫で、お顔はとても優しく神々しかった。思わず拝みたくなってしまったことはここだけの話。
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