第23話 アイリーン、レベルアップ!

「えー、ルシアさん、身体のほうは大丈夫そうですか?」


 シュリフス殿下は顔を横に向けたまま聞いた。あぁぁ、醜態が……ぐすん。


「はい……大丈夫です、ありがとうございました」


 先程までの背中の激痛はすっかりとなくなり、腕を動かしても全く違和感はなかった。魔法って本当に凄いわね。


「では少し席を外しますのでお着替えをどうぞ」


 そう言ってシュリフス殿下は天幕から出て行った。


「お着替えを……」

「アイリーン様、わざわざありがとうございます」


 着替えを受け取り、着替えていく。その間アイリーンは俯いたまま一言も話さない。やはり魔物に襲われたことがショックだったのかしら。いくらしっかり者のアイリーンでもやっぱり魔物は怖いだろうしショックよね……。

 私はゲームで魔物の姿は見ていた。でもそれでもやはり目の前に実際現れるのとは訳が違う。あんなもの二度と会いたくないわ。


「ルシアさん……助けてくださり本当にありがとうございます。私を助けようとしたばかりに貴女に酷い怪我をさせてしまったこと、本当に申し訳なく思います」

「え、いやいや、そんな! アイリーン様のせいではないですよ! 誰もがみんな、狩り大会に魔物が現れるなんて思っていなかったでしょうし」


 そう、不可抗力だ。どのみちアイリーンを庇わなくとも、きっと私は怪我をしていたのだ。ゲームのルシアが怪我をする予定だったんだから。


「でも……」


 そう思っていても、そんなことは知らないアイリーンはやはり気にしてしまうんだろうな。うーん、どうしようかな。


「では、私が必死に助けたアイリーン様はセルディ殿下と結婚をし、絶対幸せになってください!」

「え? け、結婚?」


 キョトンとしたアイリーンは顔を赤らめた。フフ、可愛い。


「そうです、結婚! 私はアイリーン様の幸せな顔が見たいんです! そのためにアイリーン様を護ったと言っても過言ではありません!」


 フフン、と胸を張る。これは本当だもんね! アイリーンを幸せにしてあげたいんだもの。そしてあわよくば私はシュリフス殿下と……むふ。


「だから絶対幸せになってください!!」


「ルシアさん……」


 驚いた顔だったアイリーンはうるっと涙を溜め俯いた。


「ありがとうございます……」




「ルシア、入っても良いかい?」


 天幕の入口からロナルドの声がした。


「ええ、どうぞ」


 返事をすると四人組がぞろぞろと入ってきた。


「ルシア、大丈夫!?」

「大丈夫か!?」

「ルシア嬢、心配をしました……」

「無事そうで良かった……」


 各々心配してくれていたのだろう、駆け寄り様子を見つつ声を掛けてくれる。


「はい、ご心配おかけしました。シュリフス先生に治していただいたので大丈夫です」


「あー……」


 ん? シュリフス殿下の名前を出した途端、四人はばつが悪そうな顔をした。


「いやぁ、さっきめちゃくちゃ怒られてね……」


「叔父上は本気で怒るととてつもなく怖いんです……」


 セルディ殿下までがげっそりとしていた。どうやら私の治療が終わった後に四人はシュリフス殿下に説教をされたらしい。

 治療後に四人は見舞いに来てくれていたらしいのだが、私は眠ってしまっていたため、シュリフス殿下は四人を外へ連れ出し、かなりがっつりと説教をしたようだ。怒っているシュリフス殿下見たかったわぁ。さぞかし素敵だったんだろうなぁ。四人はかなり怖かったみたいだけど。普段怒らない人が怒ると怖いもんねぇ。


 どうやら狩り大会のとき、シュリフス殿下は天幕近くにはいたらしいのだが、狩り大会を見学がてら外を少し散策していたらしい。

 そこへ魔物騒動が始まり慌てて駆け付けたそうだ。そのとき私がアイリーンに駆け寄り怪我をする瞬間を目撃したらしい。


「『背後に迫りくる魔物が目に入っていたはずなのに、なぜ攻撃をしなかった。なぜルシアさんが怪我をせねばならないのだ! お前たちの剣や魔法は飾りか!!』ってめちゃくちゃ怒られた」


 ロナルドが苦笑しながら話す。


「あー、いやぁ、でもまああの場合はね、仕方ないですしね」


 アハハ、と笑って見せたが、明らかにしゅんとする四人組。可愛いわね。


「いや、シュリフス殿下の言う通りだ。私たちがあのときすぐに動けていれば、ルシアが怪我をすることもなかった、すまない」


 ラドルフが珍しく弱々しい表情で謝罪を口にする。


「俺も咄嗟に動けなかった……すまん」

「俺も……ごめん、ルシア」


 アイザックやロナルドまで!! ど、どうしちゃったのよ、みんな! こんなシーンあったかしら。


「ルシア嬢、本当に申し訳ありません。貴女を護れず、それどころか貴女に護っていただいたなんて……自分が情けない。私はもっと強くならなければなりませんね」


 セルディ殿下は膝を付き、ベッドに座る私の手の甲にキスをした。うひょー!! 王子のキス!! え、いや、これは駄目なんじゃ……恐る恐るアイリーンの顔を見た。


 アイリーンは怒るでもなく、ただただ悲しい顔をしていた。まだ気にしているのかしら……。


 そうかと思うと、アイリーンは急にキリッとしたかと思うと勢い良く立ち上がった。


「アイリーン?」


 セルディ殿下も驚いた顔でアイリーンを見た。


「私も強くなります!!」


「「「「「え?」」」」」


「今まで私は護られてばかりだったと思うのです。これからはルシアさんや皆さんの足手まといにならないよう、私も強くなります!」


 おぉ、アイリーンがレベルアップした。頭のなかで某ゲームのレベルアップ音が鳴り響く。

 チャラララッチャッチャ~!!

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