キャヴァリエ
相棒のCBRが大怪我をしてしまった為、週末に行っている夜のツーリングはお預けである。
仕方が無いので、部品が届くまではと、おとなしくメンテナンス状態としてある。
カウルを外して、素体が見える維持しているだけで……うん、やはりイイね、絵になっている。
このままでも、最低限の装備を取り付ければ走りだせれるだろうが……
無茶をやっては、相棒の機嫌を損ねるのがイヤでもある。
仕方が無いので、今日はこの子の世話をする。
110MD
中古で見つけた代物であり、専用店もある子である。
特徴的な赤色と荷台にカウル、それぞれにかなり使い込まれた年季が入ってはいるが、それは長年無事に使いこまれた証拠。
うんうん、いいよいいよ、こういう「歴戦の戦士」をメンテナンス出来る幸せ、その時間がまた良いのだ。
紫外線でやられて脆くなっているカウルを取っ払っては、素のフレームの状況を確認しては、とくに歪みなどの変形箇所もなく、それでも使い込まれているがへたってもいない。
そうやって確認していくと、一通りメンテナンスが行われているのもわかり、そこまで酷い箇所は無いというのも理解できる。
そうなると、あとは経年劣化による消耗部品、つまりは買っておいた樹脂部品などの交換にいそしむだけである。
一通りの分解・清掃、そして部品の交換を済ませては、各部のグリスアップもし直し、オイルももちろん交換しては塗布もする。
組立前と組立後の指さし確認もわすれずに。
パッキンよし、チェーンよし、グリスよし、オイルよし、灯火よし。
一通りのチェックを完了し、そしてガソリンタンクへと燃料を入れては、キーを差し込んで点火。
響くアイドル音、それにつられてゆれる車体、ああこの瞬間が楽しい。
問題なく動いてくれるこの瞬間が、達成感ともいえる感覚を感じさせてくれる。
そして、この子は、走れる。もっと走れる。
いや、走りたがってると感じる。
もっと、もっとと……せがんできている。
ああ、もう、そんなに駄々をこねられちゃぁ仕方が無いね。
それじゃぁ走ろうじゃないか。試運転だ。
そうして、目的も決めないままに、ラフなジャケットスタイルで試運転だと外へと踊りだした。
* * *
いつの間にか日が落ちては夜の街となっていた。
住宅街に人の気配はない。
街灯だけが道を照らしているだけである。
そうして、町中の繁華街へぬけては主要幹線へと踊りだす。
ここからは、対向車もまばらな道筋、24時間営業の店舗だけが光を灯す。
ああ、ああ、君はまだ走りたかったんだね?
なぜなら、アクセルを回すと"まだいける、まだまたいける"と教えてくるからだ。
この赤色の歴戦の戦士は、自分はまだヤレルと主張してくる。
それは暴力的ではなく、乗っている私に対しては、優しく強請っているかのように。
相棒とはまた違う、乗り手の事を考えている仕様がそうさせているのだろうか。
やっぱり、楽しいね……
今世の実家の時ではできなかったバイク趣味も、好きなだけ弄れる楽しみも……
そんな物思いにふけながら走っていたら、いつのまにか山道を走っていた。
110MDの操作性がよくて、ワインディングが楽しくて、つい夢中になってしまっていたみたいだ。
どこかの工場の入り口の広い箇所で、バイクを止めてUターンをしようとした矢先、その工場の方から何かが飛び出してきた。
飛び出してきた、というよりも、飛ばされてきたとでもいうのだろうか。
飛ばされた人は起き上がるが、その姿を見ると……独特なマスクを被り、特徴がありすぎるベルトを身に着けていた。
続いて飛び出してきた人は、人の姿をしてるけれども……人とは思えない雰囲気を醸し出してもいた。
「まだ、抵抗を続けるのか?」
「当たり前だ!一般の人たちに危害を加えさせるわけにはいかない!」
「一般の人?何を言っている?あれらは、糧であり贄であろうが」
「違う!」
なんか、人と仮面かぶってる人とがやり取りしては、徒手空拳での戦闘を始めた。
えーっと……
今度はマスクなライダーなん?
* * *
こちらの事に気づかれないまま、戦闘が続行されているけれども、人型の方が余裕ありきで、マスク被ってる方が押されてる。
ただ、そのまま、こちらの事に気づかれずに済んでほしい。
そう願っていたら、そうならないのが世の常なのか。
マスク被っている方が"こちらへ"と吹っ飛ばされてきて、気が付かれた。
「ほぅ、こんな夜遅くに一般人がこんなところにいたのか、正体を知られる訳にもいかない、消えてもらおう」
「なっ?!逃げろ!!!早くっ」
「運が悪かったな。糧とさせてもらう」
「させるか!!」
人型の何かにとびかかる仮面被っている人をよそに、"逃げろ"と言われるがままに、110MDのエンジンを吹かし、その横をすり抜けようと
「逃がすわけがなかろう」
そういう言葉が聞こえたと思ったら、110MDと一緒に飛ばされた。
何が起きたのかよくわからないまま、110MDからは振り落とされる格好になってしまうが、受け身を取っては立ち上がった。
「や、やめろ!!」
マスクを被っている人が、全身から煙を立ち上げていながら叫んでいた。
叫んでいた対象、つまり人っぽい何かは、その場から消えたと思ったら背後に立って……
「では、いただくとしましょうか」
悪寒ともいえる気配に、すかさず"KA・RA・TE"モードに切り替えて迎撃する。
ゼロ距離での後回し蹴りを繰り出し、相手との距離を得るには十分でもあった。
人らしき相手は、驚いた表情で蹴られた場所を手で抑え込んでいた。
「なっ、貴様!何者だ!!」
人あらざるものが、声を荒げて言ってくる。
これはアレか、名乗るべきなのだろうか?
まぁ、そのアレだ、また偽名でいいかと、ライダー繋がりのあのセリフが脳裏によぎるままに応えてしまった。
「通りすがりの"キャバリエ"……かな」
「ふざけるな!この私に、傷を」
ふざけるなと言われても、実際に通りすがりに嘘偽りはないわけで。
まぁ、そんなやり取りの間に、"気"の巡らせは完了している。
あとは、振りぬくだけと、瞬脚に加えて左上段蹴りを頭部へと入れ……
夜の静寂の中、何かしらが弾ける音が響く。
何かしらの感触と手ごたえはあったが、残心を忘れないままに対象に"気"をむけると、そこには人みたいな物の頭部が見事にかき消されていた状態の人型の何かが立っていた。
"えっ?"!と驚く間もなく、頭部が消え去った空間に、まるで黒い煙が立ち上るかのように煙を噴き出しては、衣類だけ残して消え去っていった。
あっれぇ……
クソ強モードのジーサンが相手だと、「まだまだぁ!」とか言って反撃してくるレベルなんですが……
* * *
「キミは……」
未だに白い煙を上げながら地面に寝てそべっている仮面をかぶっている人から声がかけられる。
はいはい、名前きかれる奴ですね。
もう、偽名でいいよね。
「通りすがりの"キャヴァリエ"だ」
と、言っておきます。"覚えておけ"は省略します。
それよりも大事な事なのは、ふっとばされた110MD。
さすがに、ここまで吹っ飛ばされれば、フレームがいかれ……てない?
おお、やはり、頑丈さでは姉妹車の中で断トツであるのが証明されたか。
さすが110MDだ。
ライト回りのアクリルカバーが破損してはいるが、走行には……とりあえず問題なさそうである。
「ま、まってくれ!キャヴァリエ!!」
なんか、後ろから静止する叫び声が聞こえたけれど、そんなマスクを被っている男を無視して、我が子の110MDにまたがりその場を走り去った。
大幅な修繕の時に、エンジンを125ccに載せ替えるかと思いを走らせて。
──────────────────────────────────────
補足
〇ライダー
・人みたいな物
蔭影世界の住人で先遣調査隊の一人
かなりの実力者でもある
・マスク被ってる人
上記の世界から侵略を受けている事を知った蔭影世界の住人と今世世界とのハーフ
戦闘能力の底上げとして、特殊なスーツを身に纏って戦っている。
???「〇〇は狙われている!!」
・蔭影世界
いうなれば別世界
精神的な物をエネルギーとして得ている存在が住む世界
人と交わる事もできるが、"異世界はエネルギーの場"としてしか、みていない。
〇主人公
・キャヴァリエ(意味:騎兵→バイク乗り)
本名:音無 響子
最近、へんな夢でもみてたんじゃないか?と思ったりするが、
ガレージに置いてある破損してる相棒(CBR1000RR-R)を見ては現実に戻される。
・110MD(赤色)
ハガキなどを運んでいた"歴戦の(企業)戦士"
中古で偶然に手に入れる事が出来た10年物でもある
・瞬脚+左上段蹴り
どこかのク□ックアップする人のアレの瞬脚+バージョン
KARATEの為、破壊力XXトンの必殺キックかもしれない(たぶん)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます