平穏な似た世界への転生。と思ったら何か違った

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ノワール

 夜の世界


 仕事のストレスを発散するかのように、私はライダースーツを身にまとい、愛車のCBRで夜の街を走りらせては、郊外へと走り抜ける。



 そして、何度目かの思い出に浸りながら、夜道を走る。



 この世界に生まれたのは何なのか、と。


 よくわからないままに、性別が転換されてはこの世界に生まれ落ちた。

 前世の記憶は、おぼろげながらに覚えてはいるが、そこまで便利な物ではなかった。


 今世では、よくいう清楚系美少女姿で、優等生になれたぐらいである。

 そのため、生徒会長などもやりたくないのにやらされた経緯がある。


 優等生だからと、そういう役職を割り当ててくる強制力はどうなのかと思ったが……


 あとは実家の道場でシゴカレタぐらいだ。

 武術の才能があるからと、祖父、というか、ジーサンにいろいろと教え込まれたぐらいである。


 だが、いかんせん働く先が地方では皆無に等しい。


 なので、大学からは自ずと上京する格好になっていった。

 カレッジ生活を経て、社会人となり、特に何もおきないままに過ぎ去っていった。


 その為、その何もなく過去る平凡な生活の反動か、一人暮らしをと思ったときにガレージ付きの物件を探した。


 探しに探しすと、戸建ての家が安くで出ていたので飛びつき、そこから社会人生活をスタートさせる。


 そうして、いままでの生活の鬱憤を晴らすかのように、前世で弄っていたバイク趣味を復活させ、相棒を購入して……今に至る。



 20代も半ばを過ぎ、世継ぎとかそういう事を言い出しているジーサンたちを無視している生活である。



 その仕事や私生活でのストレスを忘れるかのように、さらにスロットルレバーを握り直し、アクセルを回してさらに走りだす。


 めったに対向車が来ない、そんな夜の道。

 それを愛車で走り楽しむ。



 相棒であるCBRの、今日の調子はよさそうだ。



 なにしろ、自分の仕事からくるストレスの苛立ちを分かっていてくれるのか、それを慰めてくれるかのように相槌を打ってくれる気がする。



 そんな夜の世界を、自分と相棒が走る。



 ここから先は何も考え無いで相棒を操作する。

 すると、それに答えてくれる相棒。



 ツーカーの中というか、一体化している気さえしてくる。



 そうして、1時間ほど走った先、見知らぬドライブインの跡地らしき場所に未だ残っている自販機の明かりがある場所へとたどり着いては停車させる。


 誰もいない、いないけれども、自販機の明かりが照らし出されているその小さな空間に相棒を止めては、コーヒー缶を一つ購入して手に取る。



 無糖のブラックコーヒー



 甘いのは、あまり好きではないので、いつもこれだ。

 さらに言えば、こんな時間にこういう場所で誰もいない空間では、無粋では?と感じる。


 そういう場所での雰囲気も兼ねあってか、缶コーヒーであっても、何故かとても美味しく感じる。



 自販機の明かりに照らされない、けれども離れてもいない場所に佇み、静かな、ただただ静かに時間がゆったりと過ぎているのを感じ……





 …………ん?



 やけに静かすぎないか?


 虫が鳴く季節でもあるのに、虫の鳴き声がない。

 林の奥からも、それらしい動物の声もない。

 もっと言えば、自販機の電気の音すらも。



 耳がやられたのか?と、缶コーヒーを指ではじくと、はじいた音は聞こえている。

 だが、やはり先ほどから音が聞こえない。


 自然の音、人工物の音、それぞれが何も




「キャァァァァァァァァ!」



 急に女の子の様な声が聞こえたと思ったら、駐車スペースにどこからともなく飛んできたモノで、アスファルトをへこませては土煙が上がっていた。




「カナデ!!」




 またもや、女の子の声が響く、今度は上空から。

 その声の主は、今度は先ほどのクレーターの場所へと降り立っては、引き起こして……



 "グァォゥゥォアアァァ"



 さらに、何とも表現できない音を荒げては、なんか触手?植物?そんな怪物?化け物?みたいなモノがもう一つ降り立つ。




「ま、まずいよ!ルージュのエナが!!」

「そんな!"キョウガイ"には、カナデのエナがないと」

「大丈夫、だいじょうだから、わたしは、まだいけるよ!!」

「ブル!くるよ!!」


 "ギャオグォァ!!!"



 化け物は、その体から伸びている触手を鞭のようにしならせては、少女たちへと攻撃をし始めるが、少女たちは、受けたり避けたりしながら、徒手空拳と杖を構えては応戦していた。







 ……何を見せられているのだろうか。

 何これ、魔法少女の世界なん?




   *   *   *



 こちらに被害が来てほしくないので、とりあえず防具の意味を兼ねてヘルメットをかぶっておく。


 そうして、自販機の影から気づかれないように、こっそりと状況を眺め見ているが、どうも魔法少女の方が不利。



 何か大技を決めては、相手の化け物を仕留めたと思ったら、その表皮が剥がれ落ちては、復活していた化け物。



 そんな!とかそういう悲鳴にも混じった声が聞こえてくる始末。

 私はどうすればいいのだろうか。


 なんか、負けイベント的なのだろうかと、どうなるのだろうかコレ。



 ズタズタにされる赤い魔法処女服の女の子、それを庇うかの様に青い魔法少女服の子が化け物の攻撃が直撃する。



「ユラちゃん!!」



 そうして吹っ飛ばされた先は、自販機のそば、わたしの相棒のいる位置で……



 って、ああああああああ!!




 直撃は免れたけれど、免れたけれど、免れたけれど……

 ああ、ここから見える範囲でも、カウルが割れて、ライトも割れて、ミラーがぁぁ……



 私のCBR…

 コツコツお金を貯めて買ったCBR



 それが、それが……




 許せん

 許すまじ

 断じて、許してなるものか!!



 苦楽を共にした相棒を傷つけられた、この怒りをぶつけないと気が済まぬ。

 目標へと相棒を傷つけた事をぶち当てる事にする。



 青い魔法少女服の子に近寄って、介抱する赤い魔法少女服の子、その二人に近づいていく化け物。

 その化け物に対し、飲み切ったカラの缶コーヒーを化け物へと思いっきり投げつける。


 カーンという良い音が響く。


 そして、化け物がこちらに注視したとき、ライトの影から歩き出ていく。



「だ、だれ?」



 赤い魔法少女服を着ている子から声がかかるが、そんなのは知ったこっちゃない。

 この怒りをぶつけないと、気がすまないのだから。



 "ぐあぁぅぁあううあああ!!"



 何かわからないという化け物に対して、先手必勝!とばかりに追い突きをぶちかます。


 ライダーグローブ越しだが、手ごたえは……鈍い。

 さらに逆突きを加え、左回し蹴りを入れつつ、さらに正拳突きを放つ。

 そのどれもの反応が浅い、というか効いていない感じしかしない。



 "ごあぁう?ぎああああ!"



 何も効かないというので、何かしらの笑みみたいな感じがしたが、その刹那、化け物から放たれる横なぎの触手に襲われたが、とっさに両手でガードしつつも後方へ飛び去っては何とかしのげた。



 ……やはり、目の前の化け物には"空手"は通用しない。




 あー、嫌だ嫌だ、幼少の頃にジーサンに修行として、ぶちのめされた思い出がよみがえる。

 けれど、今この時に思う、あの時、ジーサンをぶちのめすために続けては、それを達成させてよかったという事を……



 そのジーサンをぶちのめす事が出来た"KA・RA・TE"へと思考を切り替えることができる事に。



 ヘルメットの中だから、呼吸法はやり辛いが出来ないことは無い。

 化け物が振るってくる触手?の攻撃を流しつつ、丹田に"気"を高めていく……


 高めた気を、まずは平均的に全身へと巡らせる。個は全、全は個也……



 準備が整い次第、相手の隙が出来次第、追撃を放てるように。



 流し続ける事数分、化け物が何かをする動作なのか、触手を引き戻す動作を見てチャンスだと判断する。


 脚部に気を高めて爆発的な加速、よくいう縮地で接敵しては、さらに御伊月おいづきを放つ。



 狙うは、相手の力の源と感じる場所へ。

 


 "気"を回して厚くした拳で、打ち抜く!!



 静寂の世界だった空間に、空気が破裂する様な音が後から響く。

 確実に、ぶち壊した感触があったが、残心しながら相手へと向き直る。が、その相手が存在していなかった。



 どこへ?と思うが、周囲へと気の感覚をめぐらすが、それらしい気配がまったくなくなっていた。


 どうやら、あの化け物はアレだけで消滅したらしい。




 えぇ……脆くない?

 全盛期のジーサンなら耐えきって反撃してくるレベルに抑えたのに……


 



   *   *   *





「あ、あなたは、一体……」

「普通の人に、キョウガイを倒せる力なんてないはず、なのに君は倒せた」

「そもそも、ボクたちの空間に入れるヒトなんて、普通はいないよ。君、何者なの?」



 青い魔法少女服の女の子を介抱している赤い魔法少女服の少女と、その近くで浮いている小動物らしき存在から、問われたけれど、自分でも対処できて驚いています。


 ここで、本名を言う必要は無いだろうけれど……。


 うん、偽名でいこう、そうしようと判断する。

 ついでにいえば、今着ているライダースーツの色でいいか



「ノワール」

「ノワール……助けて頂いてありがとうございます。ですが」



 その言葉を無視しては、転倒している相棒を起こして跨る。

 うん、ハンドルが……ちょっとバランス狂ったか?まぁ、これは帰ってから直すとして……




「あ、あのっ!!」




 そんな赤い魔法少女服の少女の言葉をかき消すように、エンジンを吹かす。

 少女たちをバックミラーごしに確認するが、向こうも問題はなさそうである。


 ならば、正直こんなとこに居続ける必要性もない、とにもかくにも早く帰って相棒の状況詳細をリストアップしていきたい。



 帰路につきながらも、これ、自損事故扱いで、保険おりるかなと考えを巡らせる。

 それだけが、心配である。



────────────────────────────────────

補足

〇魔法少女

・ルージュ(カナデ)

 魔法少女の赤い方


・ブル(ユラ)

 魔法少女の青い方


・キョウガイ

 悪い心が集まった穢れによって生み出される魔


・エナ

 魔法力みたいなもの


・不思議空間

 一般に認知されない空間

 平行世界の空間と思われる


〇主人公

・ノワール(意味:黒色)

 本名:音無 響子

 転生後に初めて名前を知った時、本人も焦ったレベルでビビった。


・CBR(CBR1000RR-R)

 大型は"ロマン"の精神を元に、ボーナスやら貯金して買った相棒

 なので、今回の破損は涙ものであった。


・KARATE

 カラテ、それ以上の説明は不要

 今回はアンブッシュ扱いのため、挨拶も不要

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