ヴォワヤジュール

 待ちに待ったゴールデンウイークの季節。



 そして、復活もしている相棒ことCBR。



 いつもは夜に走るが、今回ばかりは"いつも"とは違う。

 そう、それは、宿や店は行き当たりで、道の駅なり観光案内で聞いてもよしという、自由な旅の季節。



 とりあえずはと、二、三泊はできる下着を積み込み、水分補給もできる様にしておく。

 準備している時点で、高速で行くか、地道でうろうろするかと、とらぬ狸状態で思考がうめつくされるも、その時その時で決めるか、それが醍醐味と想いを馳せる。



 そういう、自由なツーリングの旅がこれから始めるのだ。



 そして、その前に大事な事がある。

 ライダースーツを身にまとう際に行う、儀式?的な事であり、これが"もっとも重要"である。




 それは……




 "私は、これからバイクに乗る!!"

 "私は、これからバイクに乗るのだ!!"

 "私は、バイクに乗るんだ!!"



 という、気分のスイッチを切り替えることである。



 なぜかこういう儀式?が必要かというと、このライダースーツ、一応はメッシュの物ではあるのだけれども、停車してたら暑いし蒸れる。


 だけれども、そんな暑さがあろうが、これはライダーにとっての"正装"である。

 特に、レーシングの相棒に跨るのだ、正装以外に何があるというのだ!!



 正装で乗るのが礼儀である。



 そうなると、暑かろう寒かろう関係なく、今からバイクに乗るのだ!という意識付けをするのだ。


 なので、"私は、これからバイクに乗るんだ!!"という気合を込める意味合いの儀式を兼ねて、ライダースーツを着込む必要があるのである。




 ああ、そうそう、ハイドレーションパック(給水用飲料タンク)も忘れずに、だ。




 そうして、一通りの準備(儀式)が終わった後、戸締りをしては出立する。




 目的地は……特に決めない。




 これが大事。

 行き当たりばったりの自由なツーリングの開始である!




   *   *   *



 地道を走ってて思った。

 黒色のライダースーツは止めとくべきだったか……?と。


 いやいや、気合だ、気合……と当初は思ってはいたが、やはり、うん、信号待ちになると、とたんに熱気に襲われて暑いという言葉が出てくる。



 さすがに炎天下となる5月上旬の日差しの強さに、エンジンから溢れ出る熱気も加算される。




 やはり、暑い……




 これは、熱中症になる恐れが出てきた……

 はやく高速道路に乗りたいのに、渋滞につかまるとは……



 さすがG.W.、侮りがたしの他府県ナンバーの車たちを他所に、ようやく見えたICに滑り込んんでは、高速道路へと躍り出ることに成功する。



 先ほどまでの暑さが嘘の様である。

 高速を巡行するだけで、ここまで違うとは……



 海岸線を眺める形で、高速道路を走る。

 海風も気持ちいい。



 そう、私は今、風になっているのだ!



 そんなテンションを維持しながら、目に留まったPAへと到着する。

 まずは、手洗いに入っては、小休止である。



 こういう連休の時は、バイカーたちとの交流も楽しいものである。

 というか、今世が女性という事で、逆に声掛けしてくる輩が多い事、多い事。

 まぁ、そういう女性が少ない趣味の世界だから、仕方がないっちゃ無い。



 "えっ?LINEですか?すいません。私、その手のツールを使いたくないので"

 "いまは、あの道を使うより迂回された方がいいかも。ネズミもやってるそうですし"



 と、そういう輩を適当にあしらい乍らも、旅先の情報を色々と交換しておく。

 実際、個人情報関係をあーだこーだと考えたくないので、SNSは一切やらない事にしている。


 相手の方は、知らんが。



 小休止も終わり、ふたたび走り出す。

 取り付けてあるスマホで先のマップを見てみれば、トンネルを抜けては直線がしばらく続くっぽい。


 

 続く……っぽい?

 続きすぎではなかろうか?

 再びトンネルである。


 うーん、まぁ、山岳地だから、トンネル多いのは仕方が無いのだろうか?

 こう何度もトンネルになると、その全てが同じトンネルに見えるのは不思議である。



 そして、何度目かのトンネルを抜けて直線へと躍り出ると……



 爆発音の衝撃波が身体に響いてきた。



 な、なんだ?!と驚いてスロットルを空けては視線を上げると、目の前に広がる田園風景の中、巨大なモンスターと巨大なロボットが格闘戦を行っていた。





 えーっと……、そういう世界なん?




    *    *    *



 進む先の高速道路も破損しており、このまままっすぐ走る事は不可能と判断。

 さてはて、どうやってこの場をさろうかと一瞬思案する。



 ちょうど対面走行区間のために、対向車線へと車体を移動させて戻ればいいか、と試みるが、すぐに視界に入って来た内容でその足を止めざる得なかった。


 なにせ、カラフルな色のそういうスーツを着ている人が、壁を背にする様に人型の何かと、高速の路上で相対していたからだ。



「それを渡せ!」

「断ります!!これは、今戦ってるみんなへと、届けなければならないものだから!」

「だからこそだ!それならば、力ずくでも奪ってやる!かかれ!!」



 戦闘兵らしき人に襲われる、カラフルな色のスーツの人。


 一人一人と銃みたいなので倒してはいたが、相手が消滅していったりするけれども、ふたたび地面から現れては襲い掛かっていった。


 ぶっちゃけ、多勢に無勢なんだが、進行方向の路上先でそんな事をやられてる時点で、どうしろと……



 そう思っていたら、こんどは巨大ロボットの方から、ひときわ大きな爆発音が鳴り響く



「みんな!」

「貴様らは、今日で終わりだ!!!」



 そうして襲われるカラフルな色のスーツを着た人が、キャぁ!!という声とともに、何かがこちらへと飛んできては……ちょうどナイスキャッチとする恰好になった。


 その飛んできた物の放物線の延長線にいる私と視線が交わされる。




 ……うそでしょ?




「ほぅ、ヒトがいたか……関係ない、やれ!お前たち!!」

「!!!!」



 一糸乱れぬ統率で、銀色の何かたちがこちらへとやってくる。



「に、逃げて!!」



 そう言われても、前回は110MDごと吹っ飛ばされた訳で……今回も、相棒を吹っ飛ばされるわけにはいかない。


 ひき逃げアタックしたとしても、修理代、数十万はもう勘弁である。



 さらに言えば、逃げ道は……ふさがれている。




 大きなため息とともに、相棒から降り立ち、気を巡らせる。

 多勢に無勢かもしれないが、せっかくの相棒が損壊させられるよりかはマシだ。



 "KA・RA・TE"を起動させ、一つ、二つを叩き込んでは、弾け飛ばす。

 なんというか、脆すぎて風船が破裂していくみたいなっていく。



「な、何だと?!!!」

「す、すごい……」



 先ほどのカラフル色のスーツを着ている人みたいに、倒した後に復活はしてこない。

 違いは何なのだろうか……?と、思考する余裕が生まれるぐらいである。



「ば、ばかな……死銀兵が復活もしない……だと?!」



 あ、そういう名称なんですか。

 私としては、降ってわいた火の粉を払ってるだけなんですけど、脆すぎやしませんか?



 最後の一人となった、なんか上官らしき人も、いつもの様に気を回して……


 あ、飛んできた宝石?みたいなのを握り拳の中に潜ませて、握力を上げては、まっすぐ行ってぶん殴った。



 しっかりと手ごたえも感じ、残心をしながら破裂音の元へと気を巡らす。

 そこにいたのは、上官らしき人が上半身が無くなっている状況だった。



 その残った下半身からは、銀色の液体が流れこぼれては、残った身体も解ける様に液状となっていっては消えていった。




 えぇ……


 酒の肴にする予定のオカズを一品うばってブチギレたジーサンだと、怒りで我を忘れて反撃してくる威力なだけなのに……





   *    *    *



「あ、あの……あなたは一体……」



 カラフルな色のスーツを着ている人から声がかかる、これもあれだな、本名はヤバイ奴だなと判断する。



「偶然居会わせた、ヴォワヤジュールかな」

「えっ?その……」



 へたり込んでいる相手の手を取っては起き上がらせ、先ほど飛んできた宝石を渡す。

 背後では、いまだに戦闘をしている音が聞こえてきたので、親指で背後で戦闘している方を指さす。



「あ、私、いかなきゃ!あの、ありがとうございます!このお礼は必ず!!」



 そうして、この場を走り出すカラフルな色のスーツの人。

 声からして、女性だなと思いながら、あれはたぶん、追加戦士とかそういうのかなぁと。



 なにしろ、鳥のロボットみたいなのが現れて飛んでったから。

 けど、まぁ、もう知らん。



 それよりも、今回は着ているライダースーツはボロボロになってしまった事が問題だ。


 やはり、多勢に無勢というか、身体は気で守れるが、衣服までは流石に無理だったかと、あちこち切れ切れとなっているスーツだった。



 このままでは、さすがに走るのに問題があるし、下着だけではちょっと肌寒いかと思いながらも何かなかたっけ?と、漁りだす。


 すると、一番奥から会社の新年会のネタとして、コスプレ衣装が積まれたままだったのを発見する。



 ……仕方がない、これ着て帰るか、と



 そして、コスプレ衣装にフルフェイスのメット姿で、レーシングバイクにまたがる。



 相棒が壊されるよりは……と考えたら、まだ、ライダースーツが台無しになった方がマシと割り切っては、G.W.の出鼻くじかれたなぁと諦めて、帰路についた。





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補足

〇戦隊もの

・死銀兵

 いうなれば、新たな雑魚兵士たち

 やられたとしても、素因子や上官が存在するかぎり、何度でも復活する。


・上官ぽい人

 四天王の最恐クラス、死銀兵の生みの親。

 死者だろうと何だろうと利用できるものは利用する。

 そういうマッドな思考の持ち主。


・カラフルな色のスーツの人

 女性の追加戦士

 あらたな戦士で、補助系の能力者で戦闘能力は低かった


・飛来してきた宝石

 呼称:コクーン(繭)

 戦隊たちの未知なるパワーを引き出す 宝石(アーティファクト)と言われている

 何気にKARATEパワーも加わったため、さらに能力が向上した



〇主人公

・ヴォワヤジュール(意味:旅人・旅行者)

 本名:音無 響子

 GWで、自由なツーリング予定を数か月前から考えてわくわくしていた。

 初日でご破算になっては自棄になり、帰り道でコスプレ衣装のまま、ビールを買い漁る姿が目撃される。


・コスプレ衣装

 メイド服(クラシカル)

 なお、その日、他者のSNSで目撃情報としてバズっていった。

 ???「ひらひらな服装でバイクに跨るのは、いけないと思います」


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