第15話 ようやくフルパーティー


「ありがとうございました!!」私達はグリフォンのタクシーを使い、少しの長旅の末にドランに着いた。

手紙の通り、ドランは綺麗な街だった。クーラはこういう人が多いところは初めてらしく周りをキョロキョロして目を輝かせていた。

「…君の友達は…そうそう…あっちにいるんじゃないか?」アレクさんが指を刺した所はドランのギルドだった。そこはカクノシンのギルドとは違い小綺麗な所だった。どうやらこのギルドは王国の防衛の任務も任されているようだ。「差し詰め、騎士の溜まり場ってところかね?」

…なるほど。カクノシンとは大違いだ。中に入ってみるとそこには品の良い連中がいた。(…話しかけ辛い…気のいい人達ってことはわかってるんだけど…)それから周りを見渡してみたいけどミレイナの姿は無かった。引き返そうとするとアレクさんが「横の建物に居るって言ってたぞ。」と言ってくれた。横の建物は図書館だった。どうやらカクノシンのと同じで冒険者向けのものらしい。しかしカクノシンのそれとは別に大盛況だった。(…ここの人達は字が読めるんだな。)眺めていたらクーラは私の腕を揺すって「これなんて読むの?」と聞いてきた。

「…後で読んであげるから…先にミレイナを探そう?」「えー。今気になるのにー!」「…図書館では静かにしてよ~」会話していると私達に誰かが声をかけた。声をかけてきたのはミレイナだった。「…来てくださったのね!ヒトコ!…は!その手は…随分出来が良いのね!」

「……ちょっと不安な代物だけどね。それより手紙、読んだよ。」するとミレイナは悲しそうな顔をしていた。

「……そう。なら私の国がどういう状況かは分かってくれているのね。」それから私はどうしてエトール王国と戦争しようとしているのかを色々聞いた。彼女が言うには二つの国は元々一つだったらしい。しかし、信仰の違いにより、二つの国に別れてしまったようだ。

エトールが信仰していたのは侵略と愛の女神「アネモネ」。そしてドランが信仰していたのは調和と知恵の女神「エリス」。

この二つはどちらも人を愛し、慈しみ、恵みをもたらす神とされていた。その為、信仰の違いで国が別れてもさほど大きな問題は起きなかったみたいだった…もちろん何も無かったわけではないけど。けれどエトールの王が死に、その息子が王様になると話は大きく変わってしまった。、彼はエトールの領土を取り戻す為に戦争を始めようとした。もちろんドランはそれに対抗して、ドランとエトールの国境にある町を攻め落とした。その戦いは凄惨なものとなったようで、地図からその町は消えてしまっていた。エトールはその戦いが応えたらしく、しばらく鳴りを潜めていたが、その時のドラン国王が死に、後継者争いをしている事を聞きつけるとすかさず宣戦布告をした。それが現在の状況らしい。

(……ひどい)私は胸が痛くなった。クーラは黙っていた。しかし話を聞いていたら疑問が浮かんだ。「…エトールはドランに勝つ算段でもあるの?…今の話を聞いていると結構勝てそうだと思うけど…?」ミレイナは首を振った。「……残念ながら勝てないわ。戦力差がありすぎるのよ……。ドランは確かに強いわ。でもそれを上回るほどの力があるのがエトールなのよ。……そして何より恐ろしいのがあの国の兵士よ。」「……どんなの?」「……転生者。」「え!?」私達3人が驚いていると彼女は続けた。「…転生者は知っての通り、高い能力を持っていて、さらに我々が使うことができない【チート能力】なるものを使用できるわ。…もちろんヒトコのより強力な能力よ?」「いま馬鹿にした?」

「してないわ?…でもそんな簡単に転生者は手に入らないの。それはわかるわね?」「…まぁね。多分そうだと思う。…もしできるとしたらそれこそ女神みたいな……あ!アネモネ!」「そう!あの女神が手を貸していると思うのよ!」それからしばらくミレイナは話してくれた。

内容は転生者を利用したエトールの作戦や戦略。…他にも傷心していた現エトール国王を裏で傀儡のように扱っている奴がいるかもしれないってことも聞いた。(…転生者を利用してこんなことを…アネモネ…アイツだけは許しちゃいけないんだ…)私は決意した。

私はドラン王国に加勢する事を決めた。理由はいくつかある。まず、ミレイナを助けたいから。次に私も転生者だから。

最後に……エリスが作ったこの世界が好きだからだ。ミレイナに決意を話すと驚いた顔で

「本当にいいの?」と言ってきた。「うん。……それにここで行かなきゃ私じゃないでしょ?……嫌だよ。そんなの。」

ミレイナは「ありがとう。」と言った後に「じゃあ早速準備をしましょうか。」と言ってくれた。

準備といっても大したものはなかった。防具や武器などは全てミレイナが用意してくれていた。

それから、私はエトールの地理について教えてもらった。(……なるほどね。……やっぱり王国だけあって攻めにくいように道が作られているんだなぁ。)エトールの地図を見ながら私は考えた。(……ドランからはここから行く方が近いんだな。…よし!)私が出発しようとすると

話をずっと聞いていたらしい女が「私も同行して良い?」「え?」「お願い!私も連れてって!」突然の出来事に私達は困惑していた。

するとクーラが落ち着いて言った。「……アンタ誰?」すると女は名乗った。

「私の名前はリリア!よろしくね!」「なんでついて来るのさ?」「えーっと……」するとリリアが説明してくれた。どうやら彼女も冒険者らしい。しかも冒険者ランクはAらしい。(凄いな。)

「へぇ~。それで?どうしてついてくるですか?」「…え!えーっとね…そう!エトールに用があるの!」

「ドランの人が?」「そ、そうそう!」……怪しすぎる。怪しんでいると「…まぁええやないですか。連れていってくれても。」リリアの知り合いらしい人が後ろから声をかけた。振り向くと更に「…ウチも行きますよ?…6人よればなんとやら…です。」それから何も話せない私にその女が「…あ。ウチ名乗っとらんかった…えっとウチはシアと言います。よろしゅう頼みますわ。」と話しかけてくれた。「私はヒトコ。こっちがクーラで、この人がアレクさん。それからこの子はミレイナ。…それでこの子は…」「…リリアはんなら、ウチ…知ってます。」

自己紹介を終えると私達6人はエトールに向かった。(…この先大丈夫かな。…エリス。絶対にアネモネに勝ってみせるから待ってて!)


***

神界

あれからいくらの時が経っただろうか。…あの子といた日々が遠くに感じる。(……ヒトコ。)あの子を想うことが私の存在理由。

そう思わなくては正気でいられそうになかった。…いや既に正気じゃないかも知れないわね。軽く笑いが溢れると「…ん?あ、姉様が笑った!…姉様も幸せなの!良かった!良かった!」嬉しそうにアネモネははしゃいだ。私は遮るように「……ごめんなさいね。貴女のために笑ったんじゃないの。…ヒトコを想って笑ったのよ…」その態度が気に入らなかったらしくアネモネは

「嘘つき!!姉様は私と一緒にいる時が一番幸せなの!!」と叫んだ。

私はため息をついた後、「……そんな事はないわ。…貴女の事は嫌いじゃないんだけどね…」

「だったら一緒にいてよ!嫌いじゃないんでしょ!?ねぇ?お願いだよ?ねぇ?」

泣きそうな声で懇願してくるアネモネを見て私は胸が痛くなった。……けれど私にも想いがある。「……それはできないわ……。……だって私は女神としてじゃなくて…人として生きてみたいの。…あの子と。…今は貴女に捕えられているけど…いつかは…」話している途中に彼女は

「うるさい!!!姉様はそんな事言わない!!」と叫びながら私の首元に手を伸ばした。

私は咄嵯に防御しようとしたが遅かった。だけどその手が首を絞める事はなかった。それどころか私に抱きついてきた。

「……ゴメンね。…姉様いっしょにいて?これからも…一生のお願いだから…」「…女神の一生は聞けないわね…」

そこまで言うとアネモネは冷めた顔をし「…そっか。じゃあ勝負しよ!」急な提案に驚いて聞き返すと彼女は「そう!勝負!!ちょうど人間界にはそれぞれを信仰している国があるでしょ!!しかも隣同士で!!」「……エトールとドラン?」「そう!!私のエトールが勝ったら一生私の姉様でいてね!」「ちょっと待って!?人間に代理戦争をさせるの!?女神は…」「人間界に干渉しちゃいけない…でしょ?大丈夫策があるから!!」気になって聞くととんでもない提案をした。「転生者に戦わせんのよ!そしたら女神は何もしてないしね?」

「な?何言っているの?…そんなことしたら…」「だーめ!もうやってるんだもん!今更ナシは無理だよ!…それに姉様も関わってないは無理だよ?…姉様が転生させたヤツら2人も関わっているんだから…」彼女が持ってきた水晶の中にはヒトコとアレクの姿があった。

「…あの子達が戦う保証はあるの?」そう言うと笑顔を向けて「そーだよ!これは私と姉様の代理戦争!お気に入り対決といこうよ!」

続けて彼女は「姉様はヒトコがお気に入りでしょ?だからわざわざ代わり持ってきたんだから!!」そう言って1人の少女を連れてきた。

「この子は私が直々にヒトコと同じ能力を与えたんだからね!!ね?メイカ?」そう言うと彼女が「…やっとこの日が来たんだね。」

と言いそれから彼女は名乗った。「…徳井芽花。私がアネモネ陣営の“お気に入り”ってヤツですよ。…分かりましたか?エ・リ・スさん?」

(…特異メカ。只の人とは真逆じゃない…。…ヒトコが危ないわ。私がなんとかしないと…)考えているとメイカは

「エリスさん……タダノヒトコはどんな奴ですか?」と聞いてきた。私は驚いたけど冷静に答えた。「…色々無茶しちゃう子だけど…とても良い奴よ?」すると彼女は納得したように「…なるほど。まったく逆と言ったところですかね。」キョトンとしてメイカの様子を見ていると、

彼女はそんな私に気づいたらしく「…あぁ…私はヒトコさんとは違うなと思ったんですよ。私、なんでも適当にやってきましたし、何よりとても悪い子なんですよ…。私。ヒトコさんに会うのが楽しみですよ…」

(…ヒトコはこのメイカちゃんに勝てるのかしら…?もし無理だったら…)

そんな不安を振り払うように人間界に向かっていくメイカの背中を見続けた。

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