第13話 亡国の錬金術師
オレは迷っていた。彼女の言葉を聞いたから迷っていたんじゃない。…ずっと前から迷っていたんだ。あの子はオレに似ていたから。関わるべきじゃないと思っていたから。…初めて会った時からかもな…こんなふうに考えだしたのは。けどオレはそんなに出来が良いわけじゃ無いんだよ。そうだろう?オレと同じ道に来てほしくないなら行動で示すしかない。オレは「ヒトコちゃん!話がある!」と叫んでいた。
「……何ですか?」
「……実は、だな」
「……えっと、その」
「……その」
「……な、なんですか?言われなくてもカクノシンは出ますよ?」
「⋯あ、いやそういう訳じゃ…」
なに戸惑っているんだ。オレは泣く子も黙る熟練者だぞ!お前が言うべきはヒトコちゃんに道を教えることだろう!?
「⋯話と言うのはだな…オレもお前の行く末を見させてもらおうと思ってな!」……ん?あれ?何か違う気がするがまぁいい!
「……ど、どういう事ですか?」
「ま、まぁつまり色々教えてあげるってことだよ!」
「はい!…え!良いんですか!?」
「…もちろんだよ。」
こうしてオレは取り返しのつかない決断をした。失格紋を持つものはとんでもない差別を受けるというのに…
***
「…で、どこに行くべきだと思いますか?」ヒトコちゃんはそう言って本を読みながら進むオレに言った。めんどくさいが熱心に聞いてくるんで、無碍にはできなかった。「…ん?あぁ、義手の所かな」「…義手。そっか私の手…」そこまで言って彼女はない左手を見やった。
…すまんねオレがだらしなくて、オレがもっと速かったら今頃その手は…それにアベル達も…これが今生の別れは嫌だぜ…「…あの」ふいにそう言われたんで驚いてみてみると、上目遣いでヒトコちゃんが「アベルさん達に一言言わないで良かったんですか?」と言ってきてくれた。
…こんな出来た子が転生したがる時代なの?そんなことをお首にも出さないように注意しながら何でもなさそうに、「いや、大丈夫だよ…アイツらとは腐れ縁だからね。そう簡単に別れられはしないよ…君とエリスみたいにね?だから心配いらないよ。」
…我ながらなかなかの先輩風だ。憧れられちゃうかもね。ヒトコちゃんは安心した風な顔をして笑って横に立って歩き出した。
…うお!こんな距離で歩いてたの!?あの2人…どういう関係なんだ!?…しかしヒトコちゃん小さいな…オレが身長まぁまぁ高いのを加味しても小さいな…思い出してみればエリスと並んでいた時も小さかったな…なんて失礼な事を考えてたら、ヒトコちゃんはさらに続けていた。
「…あ、あのな、なに読んでるんですか?」…やけに質問多いな?まぁいいか。疑問に思いながらもオレは本の表紙を見せ、
「これ?えっとね…これはモンスター図鑑だよ。内容は大雑把だけど参考になるからね…あと次なに育成しようかとか考えたりね…」
「…それより、もしかして気まずくて質問してるのか?」確信はなかった。今までオレと行動して気まずそうにした奴はいなかったからな…いや、いたのかも。…気付かなかっただけで。ヒトコちゃんは驚いて、「え!?えっとあ、あの違うんです!こ、これはその…」なんて言っていた。…いたわ気まずいと思ってる奴。
***
しばらくして鉄工業の街「オストリッチ」に着いた。「こ、これが噂の…」オレは驚くヒトコちゃんにゆっくり説明した。
「そ。これが工業の街オストリッチ。…お前みたいな失格紋の持ち主でも受け入れてくれるよ。…治安悪いからさ。」
「し、失格紋って実際どれくらいの迫害を受けるんですか?」オレは少し言葉を詰まらせたが、余裕を持って「…これは聞いた話だけどね」
「…まず、ギルドに依頼は受けれなくなる。…次に同業者から冷遇される。…最後は辺境の地で正体を隠して生きていく。そんなもんさ。」
「…カクノシンで聞いた話ですか?」
「!……いや、もっと人気に溢れた街で聞いたよ。」
「…その人は今も正体を隠して?」
「…いや。今は本音で話せる仲間が居るみたいだよ。」
そこまで言うと彼女は笑顔になった。明るい笑顔だ。転生者はみんな現世に苦い思い出があるもんだからこんな顔はあまりしないんだがな。
「…楽しいか?」
「え?」
「…この世界だよ。楽しいか?」
「え、えっとた、楽しいです?」
「なら良かったよ。…絶対助けような。」オレは小さく、だけど覚悟の籠ったそんな女の子に撫でてやることを辞めれなかった。
***
オストリッチは治安が良くない。どんな肥溜めでも受け入れないような奴も市民権を得ているからだ。ここでは呼吸が出来ることだけがが住むための条件なのかと疑いたくなるようなやつばかりだ。…オレも出来ればこんな所にヒトコちゃんは連れて来たくなかったんだけどね。
機械技術はこの魔法の世界ではタブーらしく、国を挙げて研究している所は歴史上に一国しか無かった。…その「テクノス」も戦乱の中に消えたんだけどね。そう言うわけでこんな所にしか機械に詳しい者もいない。いや、機械で体を補填できることを知っている者すら少ないんじゃないかな。とりあえずオレは昔、義眼を作った店に向かった。…コレはヒトコちゃんには内緒だけどそろそろレンズも替えたかったんだよね。
***
「ここか……」
…相変わらず寂れた店だ。この街にはこう言う風貌の店が多い。内装を取り繕う余裕が無いからだろうな。そんなことを考えてたら店主がこちらに気付いた。
「ん?誰だ。」
「やぁ。久しぶりだな。」
「…眼のやつか。相変わらず趣味の悪い覆面だな…」
「そう?気に入ってるんだけどな…もう7年は手離せてないしね」
「…それはお前の都合だろ。」
「ま。良いや…それより腕が欲しいんだけど…あ、左腕ね…何処にあるのかな?」
「…仕入れたのはそれが全部だ。無いなら無い。」
「…何処で仕入れたんだ?」
「取りに行くのか?…爺さんなら山にいるんだが…あそこのは…」
その瞬間、ドアが開いて一人の小女が早歩きで店内に歩いてきた。
「親父!代えの腕が欲しいだけど!右手は何処!」
そう言うと店主は困った顔をして、「俺はただ商品扱ってるだけだ!注文なら山行け!山!」と言ってオレたちを追い出した。
「…困った事になりましたね、アレクさん?」
「…そーだね。」会話はそれで途切れてしまった。だがすぐにさっきの女が「あんたら、誰なの?」ヒトコは珍しくオレより先に話し出した。
「…そ、そっちこそ」
「え?あ、あぁそうね!アタシ、クーラ!「クーラ・マクスウェル」!」
「…クーラ?」
「そ!で、そっちは?」
「わ、私ヒトコ!タダノヒトコ!」
「えっと…ヒトコって呼べば良いわけ?」
「うん!そ、そう。でこっちは…」げ、振らなくていいのに…
「…アレクだよ。」
「ふぅーん!アンタらも腕取りに行くの?…あ、そ、そうみたいね!」
ヒトコのない左手を見てそう言った。そんな様子に周りの連中も揶揄っていた。「おいおい!何処見てたんだ〜!」「アホか嬢ちゃん!」
そんな様子に腹を立てたらしいクーラは「ふ、ふざけんなぁ~!み、見えとるわ!馬鹿者ども!…こっちも実力行使で黙らせてもいいんだぞ!」
といきり立っていた。(…んな事してどうすんの?)呆れていたら、クーラを囲む連中のちょっかいはエスカレーとしていき、剛を煮やしたらしいクーラは限界といった顔立ちになっていた。「ちょ、ちょっと皆さん辞め…」駄目だよヒトコちゃん。そいつらオモチャに夢中だから。
そんな風に静観してたら、クーラは地面に円を書き始め、その中に陣を書き出した。「嬢ちゃん何やってんの~!」そんなヤジを気にせずに書き続けて、クーラは「ほら。できたわ。…でっかいの。」そういうと陣の上に乗せた板や火薬が融合し、巨大な大砲の形になった。
(こ、コレは!まさか錬金か!)驚く周りを無視するように「そんじゃ!景気良く行きますか~!」と言い放ち、勢いよく弾が発射され、ヤジをしていた連中が吹っ飛んでいた。そしてクーラは「…言ってなかったけどアタシ、元テクノスの錬金術師だから。名前は…」
「コイツは亡国の錬金術師…!」オレのその言葉に彼女は噛みつき、「間違えんなよ!確かにテクノスは滅んだから錬金術師は珍しいけど…アタシはそんな呼び名じゃないの!アタシは…「木漏れ日の錬金術師」!なんてったって最後に錬金術師になった人間なんだから!」そう言うと笑顔を向けた。…こんな小さな奴がそんな大役か。ま、いいか。君には悪いが、その明るさでヒトコちゃんの支えになってもらうよ。
「…君!山行くんだろう?俺たちとどうだ?」そう言うと彼女は少し考え、「ま、いいよ!よろしくヒトコ!」と言ってくれた。
…ヒトコちゃんに亡国の錬金術師か。…いや、悪いな。今はオレの自由にやらせてくれないか。いずれ必ず…だから今は…
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