第12話 願いの代償
私達はやっとのことで残りの金額で泊まれる宿を見つけた。その宿は少し古い外観をしていて、はっきりいって不安な見た目だった。…けどエリスは以前のように無理矢理引っ張って連れて行こうとはしなかった。…私が動き出すまで何も言わずに待っていた。…それが別れの始まりみたいで、何も言えなくなっていた。宿屋の中に入り店主から鍵を貰うと、私達は自分達の世界に閉じこもった。…今日で最後か…
「……大丈夫?ヒトコ?」ベッドに腰掛ける彼女に問いかけた。「……うん。」返事をした私の目は腫れていた。無理もない。受け止めるって決めたんだから。「……ねぇ。」彼女が声をかけてきた。「……どうしたの?エリス。」
「…えっとね?離れても私そばで見守るわ?…だから…」
「…うん。わかってるよ。…冒険は続けるよ、ミレイナにお礼したいし。」彼女は嬉しそうな顔をし、「そうね!彼女とお友達になれば良いのよ!きっと話も合うわ!貴女は誰かと居るのが性に合ってるわよ!」なんて言ってきた
なにそれ。何も気にしないの?…わかってるよ。強がってくれてることぐらい!でも…私と同じで別れたくないって言って欲しいっ…!思ってくれても言わないとわかんないもん…!嗚咽混じりにそんな言葉が出そうになった。(…やめなきゃ彼女を苦しめるだけだし)そう言って最後の良心は私の気持ちを深い所に沈めた。
…でもやっぱりこれっておかしいわ。どうして彼女なんだろ?…私優しくされると弱いからかな?…それともこれが恋なの!?ち、違う!?絶対に違う!だって悪いけど私、百合じゃないもん!エリスは特別なの!…姉みたいで、でも友達みたいで…それで…
「…楽しかったね。いろいろ。」怪訝そうに見てくる彼女にそんな言葉しか返せなかった。
***
それからも本音を隠した会話は続いた。
「……また会えるわよ!……きっと……。」……本当に?エリス?本当に会えるの?
「……そうだよね。」……じゃあなんでそんなに悲しげな顔してるのよ……!ヒトコ、笑ってよ…!
「……あのさ、エリス」……なによ!今の貴女から何か言われたら…
「……私、あなたと一緒に居られてほんっとうに楽しかった!だから…」⋯ヒトコ…!
「…わ、私もよ!?」⋯やっぱりこうなっちゃったか…立つ鳥跡を濁さずと行きたかったんだけどね…。
冷めていく思考とは裏腹に2人の声は大きく、そして抱きしめる力は強くなっていた。それからすぐにヒトコの眼から決意の光が見えた。
「…絶対一緒に冒険しよう…!」横のベッドの方から聞こえたその言葉はあまりに迫力があって声が掛けれなかった。…なにしでかすつもり?
***
明るい朝日が昇っていた。二度と来て欲しくなかった朝日だ。…エリスが帰る朝日だ。…エリスだって帰りたくないのに。彼女はそう言う運命だって諦めて過ごし続けた。…私は夢は諦めちゃ駄目だと思う。助けなきゃ…!。お迎えにアレクさん達が来た。「よ!…夕べはお楽しみだったか!…なんてね。」…いきなりなに言うんだこの人?それから続けて「…お礼でもしようと思ったんだが、余計だったか!」エリスは驚いて
「お、お礼だなんて私達は助けてもらったd「お礼だって!行こうエリス!」」そう言って彼女の言葉を遮って引っ張り、アレクさんに着いていった。途中何度もエリスが「帰らなきゃいけないのよ!?」と言ってきたが「まぁまぁ…病気以外なら何でも貰うべきだよ?」と取り合わなかった。…自分の気持ちはわかっていた。(そうだよ…!まだ一緒に居たいんだよ!)…だが向かう途中で邪魔が入った。
***
「お迎えに来ました。姉様?」赤色のローブに身を包んだ長い金髪の小女がエリスに言い出した。「今日の朝に向かったのですが…居ませんでしたので来ちゃいました!」…軽い雰囲気ではあるがその雰囲気はエリスから感じていた雰囲気とは違った。(下界用のボディじゃない!?)
エリスは慌てながらも「しょ、紹介するわね!彼女は「姉様!余計ですわ!下々の者に名を話すなど…」」と言い放った。私は迷うことなく言った。「…エリスは帰りたくないんです。「ヒトコ!やめなさい!」…女神じゃなくて普通の冒険者のように生きたいんです…!「ヒトコちゃん…気持ちはわかるがこれ以上は…!」その気持ち…尊重出来ませんか…!」彼女は嘲るように笑みを浮かべ、「…出来るわぁ!基本的にはね…今まで功績があれば認められるでしょうねぇ…でも私は姉様に帰ってきて欲しいの…ね、姉様!」エリスの顔を親しげに触り出し、その表面を舐めた。「お前…!」私は盾を構えて突進しようとした。「いかん!」アレクさんの静止が間に合わぬスピードで加速続け、衝撃を待った。「ヒトコ!やめなさい…!」「へぇ…!ヒトコ!あんた良い度胸ね!姉様が気にいる訳だわ!でも…!」衝撃が来る前に私は吹き飛ばされた。「女神に楯突くなんて…転生者失格よ…ヒ・ト・コ?」自分の左腕に変な紋章が浮かんでいるのが見えた。「それ!ペナルティね!行こ!姉様!」エリスが少女に引っ張られるのが見えた。「あ!そうそう!冥土の土産にいいこと教えてあげる!私、アネモネ!姉萌え〜!ってね」
甲高い笑い声が響く音がした。その瞬間、左腕に残った僅かな感覚が消えるのを感じた。「…痛っ!あ、アレクさん!?」黒ずみ出した私の左腕はアレクさんによって切断されていたのだ。…なんで?疑問の答えはすぐに返ってきた「…ヒトコちゃんが今つけられたのは、転生者失格の意味がある【失格紋】!…あるだけでも身体に浸食する厄介な紋だ…!だがそれ以上に厄介なのは一度侵食された部位はもう二度と蘇らない。…ヒトコちゃんの左腕は義手をつけなきゃずっとそれって事だ…。いや!それ以上に迫害がキツいか…もしそうなら例え切り落としても…もうヒトコちゃんは…」…終わりってことなの?私の冒険?エリスは?助けられないの?義手はどこで?頭が真っ白になっていたらアレクさんは「…とにかく義手だ…ギルドは失格紋持ちは相手にしない…カクノシンは去るべきだろう…すまん…止めれなくて」謝らないで。アレクさん。悪いのは…わ、るいの…は私なんだもん。
***
「俺はなんて情けない奴なんだ…去る者に言葉すら掛けれないなんて…」
去っていく半身を失った、独りになった彼女に俺はある日の自分を重ねていた。…俺と同じだな。自分の覆面の下に機械で出来た義眼が動かせながらそう考えた。…彼女はこれからどう生きるのだろう。…エリスもどう生きるのだろう…これで終わりならオレはもう一度鬼にならなくちゃいけなくなるぞ…。「…左側、いつもより眺めいいや」彼女の声は風に乗ってオレの下までやってきて、それから空に向かっていた。
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