第11話 Pretty woman don’t walk on by
日はすっかりと落ち、月明かりだけが行く道を照らしていた。思えばこの月は私の知る月なのだろうか?…いや、今までの私の常識とはもうう違うんだ。…忘れなくては。(自分の中にあるもの全て今日において行こう。…エリスの為に)私はそんな気持ちを暗闇に見出していた。
***
(…コレで最後の冒険なのね。)…馬鹿ね。そう決めたのは私じゃない。…だってどれだけ願っても彼女とは住む世界が違うもの。
(…これまでが夢見たい…これからはずっとこの夢を見るのね)この世界を夢見るのは初めてのことじゃない。…今まで女神として遠くから見てきたから。…自分だったらこうするのに、アレ食べてみたい、仲間と冒険したい!…ってね?やっと出来たの私にも。…ヒトコのおかげで。
(悔いは残さないようにしなきゃ…ヒトコの為に)見据えた世界は仄かな光が照らす暗闇だった。
***
2人は言葉を交わさずに、でもお互いが考えていることが分かっていた。(…私達はたった3日間の間でも…確かに繋がっていた。)
「要するに都合の良い人型のなんかだったんだねぇ。」
「…成長したのね。」
「……やった!!倒したわよ!!ヒトコ!!……ヒトコ?……ヒトコ!!」
「ん!?美味しいわね!これ!?」
「…貴方のバリスタの扱い方イエスね。」
……私達はどうなのかしらね。」
(…エリス。もっと一緒にいたいよ…もっといろいろ見に行こう?)
「あっ!あ、あの!き、今日はありがとうございましたぁ!」
「……こう言うのは普通、恋人に言うべきなんだろうけど…もう離さないから!!」
「…ゲテモノ喰いが何だって?」
「…ごめん、覚えてないや。」
……私が保証するよ!」
(…無理よ…女神だもん…連れ戻されるわ、きっと)
旅の思い出に耽りながら不思議に思っていた。…こんな私にこんな仲間ができるなんて。心配になって助けに来てくれた3人、…そしてエリス。
***
グロウの中心にロイドはいた。…逃げも隠れもしないと言った風に。「…速かったねぇ、お嬢さん…ゴーレムの相手は気に食わんかったか?」
「…いろいろ聞きたい事があるんだけど!」
「…なんだい?…チート能力なら今にでも教えてやるが?」
「え!?…じゃ、じゃあ先に言って!」
「…オレのチート能力は「魔力転生」だ…普通魔法は使ったら体内魔力が著しく減る。…だがオレは魔法を使用した後、使った魔力を「転生」させられる⋯ま、簡単に言うとリサイクルって訳だよ…これを利用すれば温存はいらん…」そ…そうか!だから砂を硝子にするほどの高熱を使った後にゴーレムを作れるだけの魔力があったんだ!…で、でもチートというには地味じゃない?「…で?質問は?」我に帰って私は
「あ!…え、えっと貴方はなんで村を襲ったの!どうしてなの!?」
「…敵の話は聞くもんじゃねぇぞ…ま、言うなれば依頼だよ…あの小太りのな…なんでもグロウの連中とは争っていたらしい。」
「え!?ど、どうして?」
「…後悔せんなら教えてやろう…グロウの連中は彼達の仲間を捕らえているんだよ…商業の交渉に来たのを侵略と勘違いしてな…アイツらみたいな閉鎖的な連中はこれだからいかんねぇ…ま、仲間は取り返したがね。」
「じゃ、じゃあなんで貴方はまだ此処に?」…白状しよう。内心震え上がっていた。信じていたのに。だってそのあと…
「……生憎全て処刑された後だった。…苦悶の顔を浮かべてな?…そこには、美人で噂の小太りの妻もいたんだ…ひでぇツラだったよ」なんて続けるから、わからなくなって黙っていた。
「…案の定、依頼者はカンカンだよ…オレもグロウの連中は嫌いだったからさ…ヤツの話に乗ったよ…」…なんの話?口から出たその言葉は彼に届くと、「…一族郎党皆殺しだってさぁ!」喉元へ伸ばした槍が盾と衝突する。この矛盾は槍が穿ち、横薙ぎの一撃を詠唱しながら続ける。
「…アクアブレ…ッ!」瞬間アベルの飛び蹴りが槍とまとめて彼を吹き飛ばし、「…こっからは専門家のターンだ!」と掛け声を言うと同時にアレクの周りに円ができ始めた。「…見せてやるよ…【正真正銘のチート能力】をな!⋯「アイソレーション」!!」途端に世界が歪み、アレクが認識出来なくなった。「…え?こ、これは一体?」「…ヒトコさん。彼の能力は次元が違います…「アイソレーション」は分離、隔離の能力対象を分離することも隔離することもできるんですよ…もっとも消耗は激しいのですが」放たれようとしていた魔力はどこえともなく消えていった。「…なに!一体?どうなっているんだ?」「お!!始めたか!!」
(「魔力転生」…そちらのリサイクルは元がなきゃ出来ないよね…オレの能力はソレ分離できるから…一枚上手だよ。…しかしすごい魔力だねぇ?…君から分離したのにまるで生きてるみたいだ。ん?)
「…そうか。わかったぞ!オレの魔力は消えていない!ならば移動させれば…クリア!!」「わかったわ。」ゴーレムの魔力は彼の元に戻り、彼に僅かな魔力を与えた。(調子に乗ってくれたなぁ……もう俺は負けられないんだよぉ…やっと俺にも…)「テレポート!!」アイソレーションの中に分離された魔力に向かって飛ぶとそこにアレクは居なかった。「何!どこへ奴は行った!」その後虚空の中に張り巡らされた光が見えた。(罠か!)「【冒険の キホンその3安全第一】…深追い禁物だってば…」同時に放たれた矢は俺の体を埋め尽くした。
(…ここまでやれば死ぬか。…流石に…)…高笑う声が聞こえた。驚き振り返ると彼の身体から一滴の血も出ていなかった。ただ着ていた着物から、割れた硝子がこぼれ落ちるばかりであった。(ガ、硝子の盾!?)「…ほんといい仕事するぜ…クリア」全て渡したと思われた魔力は着物の下をガードする分だけ残していたのだ。「…抜け目のない奴だな。」そう言うと彼は哀しそうな顔をし、「…抜けてりゃとっくに死んでるよ…」とだけ返した。彼は返事を待っていたがオレには何も言えなかったし、彼も知っていた。「…あんたじゃラチがあかねぇ。お嬢さん達のところに出してくれ…安心しろ。悪あがきはせんよ…悪あがきはな」彼のその顔は何かしでかす覚悟を決めた顔だった。それでも彼女達になんと言うのか気になってしまった私は欲に負け「アイソレーション」を解いた。他の4人は驚いてみていたが、オレに何か言う権利はなかった。
…あるとすりゃそれは彼だけだろう。それから彼はゆっくりと話し始めた。
***
オレは元々何処の誰でもない普通の人間だった。…だから殺せたことにも驚いたんだが…まぁいい。オレはそう…あんたに転生させられたんだよ…まぁ待て…恨んじゃいないよ、トラックに轢かれたらしい事は知ってるよ…最初から死んでるようなもんだったしな。まぁこっちの世界に来てもそんな感じだったんだがね。最初はギルドに入った。だがオレはこの世界を知らな過ぎたんだ。…清の部分も濁の部分も。この世界でできた最初の仕事仲間はいかにもビジネスって感じで仲良くなれなかった。でも、嫌いじゃなかったんだぜ…ある日、戦闘によって怪我をしたため回復のために人里に隠れたんだ。なんとかヒールと薬草を使って治しているところに子供が辿々しい声をかけてきた。「お兄ちゃん、たちなにしてるの?」ってな…この世界を知る前だったんで能天気にオレは「お!お兄ちゃん達はお友達の怪我治してるんだ!…できたら薬とか貸して貰えないか聞いてくれるかな?」「うん!」…4、5歳ぐらいだったろうに、よくできた娘さんだったよ。でも…思っていた展開にはならなかった。村人達が怪我人を抱えたオレを追い出しに来たんだ。その様子を心配そうに見る少女の眼が殴られたどの痛みより痛かったよ。以前転生者が反旗を翻して魔王になって人類を苦しめたのが仇になったのかなぁ。何処もよそ者には厳しい。…でもしょうがねぇよなぁ自分の居場所を守るためだったんだよなぁっ…そう言い聞かせて死にゆく仲間を見ていたんだ。…それからだったな。いつしかオレは独りになっていった。
…人間、堕ちていくのは一瞬さ。気づけば裏の仕事をしなくちゃ残飯にすらありつけなくなっていた。…地獄の日々さ。命を繋ぐため、心を消してリスクを負わなくちゃいけない。…文字通り殺るか殺られるかさ…。でもいつの日かオレの横には仲間が立ち始めていた。最初は戦いの際の囮として呼び出した。それからもっと魔力を込めて話し相手に…今ではかけがえのないパートナーになっちまった。認めるよ…オレはその時初めてこの異世界に生まれてきたんだ!…辛い日々も2人で乗り越えてきた。…硝子の奥にある読みきれない心を読もうと何度試みたかはもはやオレでもわからねぇ…愛していた。…そんなちっぽけな言葉に興味もないが。…ある日オレに復讐のチャンスが来た。…知っての通り、今さ。
あらかた荒らし終わって、何人か向かってきた奴らを刺し殺した後だったか…ずっとあの子のことが気がかりだった。…身勝手だとは思うがあの子は殺したくなかったのさ…逃げてくれたのならいいが。…まぁいい。そこはどうでも良いんだ。でもそのあとアイツがな、変な事言ったんだよ。「…子供が。いるわ。あなた。」ってさ。見てみるとまだ小さな赤ん坊だったんだよ。クリアは続けて「育てたい。の。良い?。」って言ってきやがったんだ。オレはその時、どういう訳か止めれなかったんだ。…アイツが自分の意志を出したからなのかもな。それからかわるがわる様子を見て育てたんだ。当然クリアはゴーレムだ。母乳なんて出やしねぇ。…ほんと苦労したよ。でもその日々が随分愛おしく感じちまってよぉっ…毎日寝る前に謝ってる!本当の親に!神様に!…オレのやっと掴んだ幸せを取らないでくれ!ってなだからそのためなら、なんでもできる。…そう心に決めたのさ…間違ってる?そんなの知っている…オレはワルモンなんでねぇ…。
***
そこまで言うと私に対し、武器もないのに正面から向かってきた。咄嗟にガードをしようとすると、「武器もないのにか!相手をよく見ろ!」と言い放ってきた。盾の覗き穴から覗き込み、あいてを見据えた。(…ガードが甘い!)分析すると、振りかぶって防御が疎かになっていた左手にタックルをかまし、攻撃を中断させた。「ライトボール!」私の後ろに隠れていたエリスが魔法を浴びせると、ロイドはよろめいた。しかし私の脚に直感が伝えた。(…ん!?…避けなきゃ!)左脚を上げてみると、軸足を挟み込もうとする動きが見えた。「…前衛対決は密着戦に正気がある…たとえ格上でもな…」ハッとした私は上から飛び込んで、襟を掴み、後方に放り投げようとしたが、力が足りなかった。
「…ま。お前の場合好きを晒すだけか!」首に巻きつこうと体を動かし始めたが次の瞬間、ロイドの身体は血に伏していた。
「…はぁ、はぁ、はぁ…。」エリスだった。エリスが最後の一押しをしてくれたのだ。倒れ込んだ彼は満足そうな顔をして、ゴーレムを呼び出した。しかし、いつものクリアは自分の魔力を全て使い果たしても出せなかった。すると彼は命そのものを彼女に与えた。クリアは現れると彼のしたことを理解し、何も言わずに横に座った。…まるで何も言わずに、彼の横に居続けるのが唯一の愛情表現だと言うように。
「…あの子は…頼んだ。…お嬢さん達。」指を指す方に小さな姿があった。それから彼はうわごとのように語り続けた。果たしてまだ存在しているのかも怪しい彼女に。私達は立ち去った。これ以上ここにいる権利を誰も持っていないから。話さなくて信じ合える彼らに語る言葉はないから。「あのな…」微笑みはそんな言葉を包み続けた。
***
カクノシン近くのスラム街にまず向かい、“依頼者”に終わったことを伝えた。彼女は嬉しそうな顔をした後、哀しい表情をし
「…お兄ちゃんが犯人だったんだね…私にも責任あるよ…お姉ちゃん!その子供、私が育てるよ!だって村の子なんでしょ!?村で育てるよ!?」と言った。他の村民も頷いていた。私達は顔を見合わせ、エリスは私に言葉を譲った。だから、私が話し出した。…あの私が。
「…ありがとうございます。皆さん…でも聞いてください。今回の出来事、皆さんに罪が無いわけではありません!理解しようともせず、否定するだけ…主張もない、根拠もない…ただ考えることを放棄していた。…果たしてあなた達に罪は無いでしょうか?…たとえ無くても私は皆さんが嫌いです!…だから絶対…!子供によそ者を追い出すところを見せないでください…!子供に醜い姿を見せないでください…!」
涙を堪え、続けた。「変われないのは知っています…!私も彼もそうだったから…!だけど…!」そこまで言うと、村民達はうろたえ、でも真っ直ぐ受け止めてくれた。「…できるとは言えないかも知れない…でも君の言う様に心がけたい!」あの時戦ったおじさんはそう言ってくれた。
***
スラム街を出て宿を探していた。初日とは違い、2人で。でもなかなか決まらなかった。…なんせ2人で泊まる最初で最後の宿になるかも知れないって思っちゃうとね。エリスは振り向き、「…泣いているみたいだけど、サボタージュしないの?」といじらしく揶揄った。
「…しないよ。この痛みはサボっちゃダメだから…。」
…そう受け入れないといけない。彼の痛みを、涙を。…それが転生者の使命だから。それに、別れの痛みと涙も。…それは友達の使命だから。
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