第10話 愛の輪郭
ゴーレムは私達を踏み潰そうと足を上げる。「く、来るわよ!」リリスはそう言うが、そんなテレフォンパンチ(キックだけど。)当たるわけが無かった。(…な、なんだ?図体がデカくなっただけか…びびらせやがって!)と思ったのも束の間、地面から凄まじい振動を感じて立ち上がれなくなった。それを見下ろし、「…サンドスティング・レイ。」と言い放ち、身体の一部を雨のように降らせた。
エリスが咄嗟に「バリア」を放ったお陰で直撃は避けられたが、そのガードを攻撃で延々に固められ、反撃できなくなった。そこにゴーレムの剛腕を割れそうなバリアの上から振り下ろした。ゴーレムの身体のように透き通ったバリアは、オブラート程の防御壁にもならず、その衝撃をダイレクトに私達に伝えた。…それから幾らかの時間が経った頃だろうか?…ぼんやりとした視界の先でエリスが吹き飛んだ下半身を庇うようにして這うのが見えた。「ヒ…ヒト…コ?い…ま治すから…し…んぱいしないで?」…自分だって痛いだろうに、いつ死んでもおかしくない姿のエリスを他人事のように感じていた。(…そうだ、今まで何してたんだっけ?戦ってたと思うけど…じゃあなんで?)私は視界に映る彼女が愛おしくて手を伸ばそうとした。…だけどその肘の先には何もなくて…どこを動かしても動く部分が無かった。
「…ま…たこうなっちゃったよ。…ご…めん…よ…よわくて?」不甲斐はなかった。こんなに助けてくれた彼女をこんな目に合わせた自分に腹もたった。…だから借りは返さなきゃ!!彼女の最後の「ヒール」を受け取ると、魔力が足りなかったらしく、全身回復とはいかなかった。
(…左手はないか…それでも)立ち上がった私に気付いたゴーレムは掬い上げるようにその拳を私の右半身の下から左上部へ通そうとした。
それを躱してエリスのバッグに向かい、入っていた換えの大盾を装備した。ゴーレムは今度はまた叩き伏せるようにして拳を下へ振り下ろした。「…さぁ!「カゲフミ」!どうすればいい!答えて!」すると後ろの影は伸び出してまた嘲るような顔に変化し、「ヨケロ。ソウスレバシネル。」…な、なに!?受け止めろってこと!?とにかく私は盾を構え、その盾に全体重をかけ、迎え撃った。…当然ゴーレムの攻撃は気が遠くなる程重く、私の身体を通しているはずなのに、地面が凹み出した。そしてその凄まじい破壊力に私の華奢な体は次々と破壊されていった。
最初は直撃した腕が瞬間に折れ、私の眼の前に弾けた肉と支えていた骨を見せた。次に身体の内臓が圧力に耐えかねて破裂した。それでも私は口から血だか吐瀉物だかわからないものを吐き出しながら最後の瞬間まで耐えようとした。だが無情にも、私の足は悲惨な音を奏でながら折れ、最後まで受け切る事はできなかった。(…カゲフミの奴嘘ついたのかな…あいつのいう事の反対をやったらあの時は生きれたのに…)
だがその直後に身体を支配していた重圧が消えるのを感じた。
「…前衛に必要なこと。ちゃんと覚えていたみたいだね?…ヒトコちゃん」
…え?なんでこんな所にアレクさんが?疑問の答え合わせが来ることもなく、次の瞬間私とエリスの身体が元に戻った。
「…あなたが抑えていなければ私達は間に合いませんでした…成長しましたね。」と言って凄い回復魔法をかけた。
え?係の人ってヒーラーだったんだ?抑えるアレクさんを振り払おうとしたゴーレムは全身から鋭い硝子を伸ばして飛ばそうとしたが、伸び切る前に強烈な蹴りがゴーレムを吹き飛ばした。そして暑苦しい声で「おう!!ヒトコ!!生きてたか!!予定合わせんの大変だったんだぞ!」
と笑顔を飛ばした。(…つ、強い!まぁわかりきってたことだけど…)それから間髪入れずに再生を始めるゴーレムに使い古した小手で何度も殴り飛ばし、吹き飛んでいくゴーレムに追いついてはまた殴り飛ばすを続けた。彼に力では勝てないと判断したゴーレムは「スティング・レイ」を溜め始めて私に飛ばしてきた。…いくら万全とはいえ、咄嗟に反応できなかった私を庇うため攻撃を中断し、アベルは秒で私の盾となった。
「…コイツより強い前衛はいくらか知っている。…でもコイツより頼りになる奴は俺は知らないよ…」それから私に向かって、「…ま、参考になるんじゃない?ヒトコちゃん。」と言った。…い、いやどうかな?「お!!嬉しい事言うじゃないか!!アレク!!…そんじゃ本気で行きますか!!」そう言うと全身から紅いオーラを噴き出した。その異常な様子に係の人が口を挟んだ。「…アレクさん。あれは一体?」そう言うと呆れたようにして「自分を焼いてるのさ…空元気って言うだろう?」…え?そんなかえんだま持たせるみたいなノリなの?
燃え上がったアベルはゴーレムの攻撃を躱し、ゴーレムの身体を駆け上がると、拳を握り締めて炎を纏わせ、ゴーレムの頭上に拳を叩きつけた。(……あんなのくらったらひとたまりもないわ……)しかしアベルの攻撃が当たる寸前に、ゴーレムはその拳を掴んで引き寄せると、
「…私を。あげるわ。貴方に。」そう言うと口から「魔力そのもの」を放出した。「ま、マズイ!あのままじゃアベルさんの体に魔力が引火してしまいます!」するとさっきまで隣に居たアレクさんが居なくなった。それからすぐに前方で「…させないよ。」と言う声が聞こえ、硬質化した硝子の首が叩き斬られる音が遅れて聞こえた。係の人はすかさず詠唱を始め、ゴーレムの残骸に残る魔力をバリアに包んだ。それからドーム状のバリアの中で魔力が爆発するのが見えた。…か、勝った。ゴーレムに…もちろんロイドが何回でも出せる奴だけど…でも勝ったんだ。
「ヒトコちゃん!!」呼ばれて、前を見ると跳ね飛んだ首が僅かに残った魔力で再生をしながら私に向かって来ていた。
(…せ、せめて。あの子を。右腕さえ。出せれば!)助けに来た3人が誰一人助けにいけないタイミングだった。…ドームに包んだ直後だったから。「…し、しまった!ヒトコちゃん避けるんだ!それは悪あがきに過ぎん!」エリスはなにも言わずに銀貨3枚を使って買った最後の道具を組み立て始めた。「…ヒトコ?届きそう?」組み立てながら私に聞いた。私は危機に瀕していないように落ち着いて「…うん。あと少ししたら」
「…ふぅーん。…出来たよ。」と返した。「良い?安物だからチャンスは一回よ?」「…わかってるよ。」出来上がったものは拠点攻略用のバリスタだった。…しかもその矢には魔法効果がしっかり付与されていた。それは事前に二人で用意したものだった。…もし今みたいにゴーレムが巨大な敵だった時のために。2人で肩を寄せ合い、一つのちっぽけな照準器を覗き込んだ。「…カウントは私が」「…じゃあトリガーは私が」
お互いが息の詰まる思いをしている事は感じていた。一呼吸するに合わせて意識が2人の世界に溶け込んでいき、まるで最初から1人だったみたいに世界が再構築される様に感じた。…レンズに映る今の自分がどんな姿はわからなかった。自分が誰かすらわかっていないから。
(…この世界の何処までが私なんだっけ【3!】…わかってる【2!】絶対に外さないよ【1!】だってそれが私達の全てだから!)
「【0!】シュートッッ!!」放たれた光の矢はゴーレムの剥き出しの魔力核を貫き、魔力の雨を私達の頭上に降らせた。その妖しい光を惑わされ、のめり込みように見続けた。
「…貴方のバリスタの扱い方イエスね。」
「…ごめん、覚えてないや。」
「…そう。まぁそうだろうね。…私達、夢中だったからね。」
「…うん。」
アレクさん達が駆け付ける音が聞こえる。土を蹴って私達の世界に入り込もうとする音だ。…もうあの光を見続ける事はできない。ここを去らなきゃ。そして村に巣食う敵を討たなきゃ。名残惜しいのを悟られないように気を付けながら「…ロイド達を倒そう?私達で。」そう言うとエリスは名残惜しそうな顔をして、「…強がりすぎよ?まだ浸りたいわ、私。」と言った。驚きもせず私は空を見上げた。空の怪しげな光は止み始めて強く光かけていた。「…ねぇ、貴女知ってる?線香花火は消える瞬間が一番光ってるのよ?…私達はどうなのかしらね。」…そう、彼女はこの冒険の間だけ協力しているんだ。…この冒険の間だけ…最初にそう決めたのに。私はまた甘えた事を考えていた。…これからも色んなものを見に行きたい、体験したい。真新しい場所。カッコいいモンスター。新しい技。新しい魔法。そして新しい気持ち。…できることならエリスとこのまま2人で…私はそんな気持ちを振り払おうとして「…絶対光るよ!私が保証するよ!」と言った。エリスは満足そうに輝き切った空を見上げた。
***
グロウの民家
「…いつまで経っても、アイツが帰ってこないと言う事はやられたか…まぁいいか…獲物が大物な証拠だしな。」魔力を掌に集めると、俺は外に出て、地面の砂に放出した。すると、世界で唯一の俺の仲間が元の硝子細工の身体で現れた。彼女は「…ごめん。なさい。負けちゃって。」
と言い出した。「イヤ、良いんだ…“コレ”で。…やっぱり釣りは大物狙いに限るしな。食い付いて離さないヤツの方がオレ好みさ…」
「…そうね。その。通りね。」
「…それより喋り過ぎたな?…補給してやる。こっちに来なさい」
「…ありがとう。“あの子”は?」
「…寝てるよ。気にするな。」
「…名前。欲しいわ。私の。」
「…ん?そうか。…じゃあ「クリア」だ。透き通るお前さんにはお似合いだよ…」
「…うれしい。幸せよ。…いつまで。この気持ち。続くのかしら。」
「……時期に終わるさ。」
…来なよ?お嬢さん。オレは逃げないさ。…依頼者に言われてじゃない。オレ個人の意思でお前さんと戦いたいのさ…オレが居る限りお前の大好きな女神様の望む甘い世界はないぜ?…最もオレを倒しても何も変らねぇが。…お互い災難な奴らに味方してるなぁ?…オレもお前も骨の髄までしゃぶられるだけなのによ…ま、タダで利用されるのは気に食わねぇから足掻いてみるか…。オレは“あの子”を見守るクリアを置いて夜風を浴びに行った。
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