第9話 硝子妖女の微笑
放たれた弾丸が、私達の後ろで止まり、そこからドーム状に包み出した。(…捕まえた。貴方達を。嬉しいわ。)彼女の顔が何故かそう微笑んでいる様に見えた。リリスはすかさず、「ライトボール」を放った。ガラスのゴーレムはそれを避けて、放たれた魔法は彼女がいた背後の硝子に当たり、溶け込んでいった。それを見てリリスは即座に気付き、私に言った。「…とんでも無い事になったわね。ねぇ、ヒトコ?図鑑の内容…覚えている?」
「え?ま、まぁ覚えているけど?」
「じゃ、説明するけど、あの硝子の壁は彼女の身体なの。だから魔力で維持されてるわ。…空気を通す隙間もないくらい完璧にね。」
「え?じゃなんでそんなこと?…どうやって呼吸するの?」
「彼女は魔力によって動く魔力生物でしょう?…だから魔法を彼女にぶつけるとエサ。壁を壊そうとぶつけても逆に強固にするだけ。…つまり少なくとも私に出来る事はほぼないわ!」…な、なんて絶望的な状況なんだ!?
「じゃ、じゃあ生きたきゃアレにサシでやるってこと!?無、無理だよ絶対!あんなの勝てる訳ないでしょ!?」
「行くって言ったのは貴女よ!?…転生者ならシャキッとしなさい!」…そんな事言ったて!するとゴーレムは私を眺めて、辿々しく
「…良かった。今日は自分の足で。帰れそう。彼の元へ。」と言った。…ざ、雑魚認定された。盾を持ってゴーレムに突進し、その角を透き通る彼女の頭に叩きつけようとするが、彼女はひらりと躱して、逆に一瞬で変形させた右腕で裏拳をよろめく私の背中に決めた。さらに間髪入れずに詠唱を始めた。「…サンドスティング」硝子の壁面に叩きつけられた時に背中にさっきとは違う刺される様な痛みがした。背後を見ると壁面の硝子がいばらのように伸びていた。(…ろ、ロイドの時から私全然学んでない)さすがに見ていられなかったエリスがゴーレムに杖を振り下ろすと同時に私に笑顔の合図を送ってきた。(…今よ!)(…は!よし!)2人同時に鞄からアイテムを取り出した。エリスが地面に煙玉を投げつけて、困惑するゴーレムの顔面にハンマーを叩きつけると、ゴーレムの頭は透明な破片を撒き散らして吹き飛んだ。が、残った胴体は壁に張り付けられた私に向かってきた。私は盾を構えて迎えるフリをし、壁面から脱出した。飛び上がった私の下では置き去りの盾を突き刺す彼女が見える。その彼女の透明の中で濁った光が見えた。(…!あれが魔力の中心!)そこ目掛けて手に持ったボウガンを構えて爆発矢を撃ちまくった。その爆風は彼女と火薬を仕込んだ盾を飲み込んでいった。…その一連の流れの影の功労者を私は想っていた。…ミレイナ。貴女がくれた銀貨4枚役に立ったよ!硝子の空は消え、今までその場を支配していた息苦しさは無くなった。「やった!私達が勝ったよ!エリス!」「いいえ!まだよ!」ハッとして前を見ると彼女は修復を始めていた。さっきまで壁として存在していた身体の一部を全身に集めて、恨めしそうに「…せっかく。彼好みの女になってたのに。…恨めしいわ。」と言って彼から託された自身の核を護るために。彼女は巨大な私達が想像したゴーレムの姿に変貌した。もはやその姿にはさっきまでの美しさは無く硝子の要塞のようだった。「…こ、こっからが本番ってこと?」
***
カクノシンの冒険者ギルド
私は受付嬢という仕事が天職だなと思う事はある。だけどなんとなくそうでないと思うこともある。…例えば死にゆく者を見送る時とか。
今日の朝、私はそういう経験をした。…いつまで経っても慣れる気がしない。自分が殺したわけでもないのに。でも慣れてはいけないのかも知れない。冒険に関わるのはスリルそのものだ。ハズレを引けば即座に死ぬ。でもアタリが出れば人生が変わる。そんなスリルを求めて、彼らは戦っている。…馬鹿な生き物だとは思う。だけどそんな刹那的な世界の中に生きる意味を見出した彼らのことを誰かが覚えて置かなくてはいけないのかも知れない…敬意を持って。…少なくとも私はそう考える。
「…はぁ、ヒトコにエリス、か。」
「…どうしたんですか。受付さん?」
「ん?いや、彼女らさぁ…結局最後まで冒険者にありがちな奴らだったねって考えたのよ。」
「…最後ですか?」
「…うん。私もちょっと他と違うのかなと思ったけど、たいして変わらなかったね。…せいぜいダースかダークぐらいの違いだったわ。」
「…それは結構違う気がしますけど。…まぁでも最後か…それは違うかも知れませんね。…ねぇ、アレクさん?」
「…ま、そうだね。」
「うん??どういう事だ!!アレク!!」
「…いや、別に大した意味は…」
そう言って男達はギルドを立ち去った。
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