第8話 砂上の楼閣
ギルドのカウンターにいくと、昨日の受付嬢さんがいた。どうやらこのギルドではあの人しか受け付けていないようだ。「あら?貴女達か…とうとうあの依頼を受けるのね?」「は、はい。」「……じゃあ、これね。」と言って依頼書を見せてきた。内容は「村に住むゴーレムと魔術師の討伐」だった。(…や、やっぱり黒幕いるんだな。)私はエリスに手続きを任せて、旅に向かおうとした。すると、呼び止められた。振り返ると、ミレイナが「……これ持って行きなさいよ!」と言って、銀貨4枚と短剣を渡してくれた。「……これは?」と聞くと、ミレイナは「本当はもっと渡したいけど、今はこれが精一杯だから……でも必ず帰って来てね!そして私の住んでる、「ドラン王国」にも絶対来てね!」と言ってくれた。…気持ちは嬉しいけど、絶対ドラゴンいるよね?その国?…それからすぐに私達はミレイナや受付嬢さんに見送られて旅へ出た。
***
残された冒険者ギルドでは3人の男が話していた。
「⋯行ってしまいましたね、彼女達。」
「…ん。あぁそうだね。(…しかし、あの白ローブの女どっかで見たような?)」
「お!!心配なのか!!2人とも!!」
「まぁね。あのヒトコちゃん…オレは【才能アリ】だと思ってたからね。」
「…僕も同意見です。…第一、転生者ってだけでも引くて数多ですからね。…ね?アレクさん?」
「うーん。…オレはそういうことで言ったんじゃ無いんだけど。…ま、それもあるか。」
…2人ともヒトコ達に期待をしてるのだな!!…確かに、あの根性オレも見習わないとな!!するとアレクが哀しそうな眼を覆面から覗かせ、
「…だから悲しいんだけどね。どーせすぐ死ぬからさ。…それに、オレみたいに【正真正銘のチート能力】を持ってないみたいだしね。」
***
カクノシンを出て、村のある位置を目指し歩いていた。その村はカクノシンからそう遠くない位置にあり、村の名前をグロウと言うらしい。
その道中は至って平和なもので、魔物どころか動物すら見かけなかった。……だが、しばらく歩いていると、突然エリスが立ち止まった。……何かあったのかな?エリスはこちらを向くと、真剣な表情で口を開いた。「ねぇ、ヒトコ?……この先、誰かに見られてるような気がしない?」「……え?そうなの?」私は辺りを見回したが、特に何も見当たらなかった。「……うーん。……そう言われればそんな気もするけど……でも気のせいじゃない?」私はそう答えた。……すると茂みの方からキラリと光る怒りの目が見えた。すると茂みの目は気づかれたことに気がついて、私達に飛びついた。「あの男の仲間か!!」そう言って、私の上に馬乗りになると懐のナイフを突き立てて、というか振り下ろしてきた。エリス驚いて、すぐには行動出来なかったが、男の行動に気がつくと、男を蹴り上げ、吹き飛んだ所に魔法で追撃した。
「ライトボール!、ライトボール!…ラ、ライトボール!」やってる方も引くぐらい徹底的に追い打ちすると、その男は「アンタらいったい何者だ?」と言ってきた。それに対して正直よく言うわ!と思うが「む、村を助けに来ました!ヒトコです!」と言った。すると案の定男は「アホか!そんなの信用できる訳ないだろ!」と言った。…うんその通りだよね。澄ました顔でエリスは彼に「ヒール。」と言って「これで信用してよ?」と言った。男は「…大体助けが来るわけ無いだろ!お金が無くてギルドに掲載出来なかったんだから…」と言った。私は言葉を振り絞って、「お、女の子との約束で来ました!…気丈に振る舞う姿をみ、見て…た、助けたくて…そ、それで」すると男は「…もう良いよ。君のことは信じるよ。だから無理しちゃダメだよ。…悔しいがアイツは並みの強さじゃない。無理なら逃げ…お、オイ待てよ!」彼の誤解を解いて、私達は急いで向かった。
***
グロウに着くと、そこには荒らされ、荒廃した村があった。…ひどい。これじゃ復興にも時間が掛かるだろうな。エリスもそれを見て、何かを感じているようだった。しばらく街を歩いていると、人の集団が会話しているのが聞こえた。「…ですから…いや本当に…ましたよ」よく聞こえなかったが、その小太りの男が最後に言った言葉を私達はしっかりと聞こえた。「ねぇ。“転生者”さん。」驚く私達に追撃するように言われていた彼が話し出した。「…そいつはトップシークレットだったんだがね。…何処のネズミに聞かれてるかわからねぇしな?」私たちの方向を向いて、彼は言った。…気づかれた!小太りの男が帰るのと同時に私達は離れようとしたが、彼は“小太りの男”を呼び止めた。
「…まぁ待ちなよ。…まだ言い忘れたことがある。」首を傾げて小太りの男は「なんだ?」と聞く。私達は恐怖で動けなくなった。
「まぁなんというか…追加の仕事…いや“エサ”が来たみたいだぜ?」と言った。小太りの男は少し驚いて、「す、すぐに始末しろよ!ロイド!」
と言い放った。「…だ、そうだお嬢さん達?」聞こえた私達は二手に飛び出した。「…ビビるくらいなら来るべきじゃなかったな」
その後彼の手から青いオーラが出始め、「…まずは手始めから始めるか…アクアボム…」と言うと急に私達が隠れていた岩場の位置に巨大な円形の物体が出来た。「…拡散!!」その合図に合わせて、水球は弾け飛び、私達を飲み込んだ。衝撃は言わずもがな、水と言うこともあり、溺れそうになった。「…ん。あっちの奴、防御魔法もつかえないのか。…そいつはラクでいいねぇ」と言って私に目の前に来た。
「…お嬢さん?苦しいか、今の魔法はほんの小手調べさ…なんせオレの本命はコッチなんだからさ…」背中に背負った長槍を突き立て、足掻く私に「…お嬢さん。魚の獲り方知ってるか?“エサ”で釣るのさ…お前さんみたいな奴は一生“魚”だから獲ること無いだろうがね…」そう言うと顔に足を乗せ沈めてきた。なんとか振り払って水を抜け、顔を外へ出すと、ロイドの背面が見えた。すかさず盾を投げたが上手く力が入らなかった。(しまった。…下半身がまだ水の中に!!)彼は振り向かずに投げられた盾を掴み、
「…もう一つは動きで釣る。後少しで食べられそうだとか思わせたりしてな…」すると見開いた眼を見せ、「な?お前さん、魚だろ?」と振り向いた。「た、盾返せ!そ、それにそんなの誰でも知ってるでしょ!」とか悔しくてそんな情けないことを話した。するとロイドは大袈裟に驚き、「…こいつは驚いた!そんぐらい知ってりゃ普通来ねぇぜこんなとこ?…ま、大方バカ共に唆されたんだろうが…肝心のこの村もあんま褒めれたもんじゃねぇってのに。」
「ど、どういうことですか!説明してください!」ロイドは嗤って「…ホントに何も知らないんだな。ま、簡単に言うと…おっと!」そこまで言い掛けた時に、エリスが「バリア」を張り、水をかき分けて突っ込んできた。「ヒトコを返しなさい!ライトボール!」エリスの顔を見て、ロイドは心底驚いた顔をして、でもそれから私の時と同じように嗤い、「…アンタほどのもんがどう言う風の吹き回しだ?…オレの時はこんな風に助けたか?…なぁ女神様?」エリスは面食らったように戸惑って何も言えなくなっていた。ロイドは呟くように「…干渉しちゃダメなんだろう?…ダメじゃないか君。女神様にこんなことさせて…」強引に私の髪を引っ張り、固めていた水から引き抜いて、「…盾。ほらよ。」と言って私の前に転がした。私が拾おうとすると、不敵に嗤って私の腹を蹴り飛ばし、「やっぱり知らないじゃないか…えぇ?お嬢さん?」
吹っ飛びながら、今まで何度も気付いてたことに気がついた。(この人には勝てない。)…後ろ向きに考えた訳ではない。だけど、あまりに早すぎたのだ。…遠すぎて強さの底が見えなかった。私の身体は私の意思とは無関係にエリスと衝突し、村の残骸に叩きつけられた。
「…エリスはあの子の何が気に入ったと言うんだ?こんな何も出来ん小娘の。」よろめく私に彼は質問をぶつけた。
「お嬢さん!こっちに来て何日経った!」
「…え?」
「何日経ったんだと言ったんだ!」
「み、3日目!」
「…じゃ、何回戦った?もしくは何人殺した?」
「戦ったのは逃げたの含めて3回ぐらい!今は数えてません!」
「…殺しの方はないか?」
「あ、当たり前じゃないですか!?」
「…オレは3日もしない内に7人はやったがね…9人だったか?ま、そこは良い。」
「…自分でも驚いたんだぜ?こんなこと自分ができるなんてな。…オレはお嬢さんと違って強かった。…随分孤独にもなったが」
彼は返事を待たずに続けた。しかし今度はエリスに。「…なんであの時助けてくれなかったんだ?女神様だし見てたんだろう?」
エリスは意図が分からず、「ど、どういうこと?」としか言わなかった。それが気に食わないように「…いや、オレが思っていたより…アンタが思ってるよりこの世界で生き抜くのは簡単じゃないって事さ。…アンタの格好を見るに時期に理解する時が来るか。」続けて彼は、
「…ま、忘れてくれや。俺もお前さんらのこと忘れるからさぁ…それに俺はもう独りじゃない。お嬢さんと同じでね。」と言い、今度は全身から紅い火属性のオーラを放ちながら村の地面に魔力を放出した。すると地面が熱された様に熱くなり、放出地点が異様な熱を帯び始めた。それから砂が熱で硝子に変化し、まだ硝子になりきっていない部分から入り込む様に魔力が流れ込み、硝子仕掛けの女性の形に変わった。だが精巧で美しい造りとは別で辿々しい話し方で「…ロイド。呼んでくれてありがと。嬉しいわ。」と話した。その表情は変わっていないのに何処か慈しむ様な姿に見えた。それをロイドは無愛想に「…無駄口を叩くんじゃない。魔力が減ってしまうだろう?」その言葉を守る様に彼女は何も言わずに彼に目を向け続けた。…まるでそれは彼女に許された唯一の愛情表現だとでも言う様に。…多分に魔力を消費したらしい彼は、少し息を切らしながら、「…適当に追い返しておけよ。…ま、殺しても良いけどな。」と彼女は話した。彼女は何か言いたげな目をしたが、何も言わず、肩に手を置き、そしてそのまま開くことの無い口で口づけをした。私達は驚いたけど、その光景に口を挟む気になれなかった。
…あれが恐らく少女の村を襲った例のゴーレムだ。それはわかっている。だけど透明な彼女はとても健気な気持ちで彼に尽くしているんだ。
しかし彼女は彼の言いつけを守って黙ってる訳じゃない。自分が永く彼の近くにいたいから黙っているんだ。…魔力を消費しないために。
そんな姿は見たくなかった。…もしかしたらいい奴かも?って思ってしまうから。たとえ勝てなくても話せば分かってくれるかもって思ってしまうから。彼女の向こうで立ち去る彼が歪んで見えた。彼女は黙って彼を見送った。…彼が見えなくなるまでの間。そのあと、愛情表現をし終えた様に私達を向いて、その手を伸ばし、硝子の弾丸を放ってきた。
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