第7話 ハダカデバネズミみたいな奴だね

 馬車に揺られて、走っている内にわたしのヨワヨワ三半規管が悲鳴をあげた。私はいつものように慣れた流れで「…サボタージュ。解除」と言った。初日こそ吐きまくってたけど、今の私はもう慣れたもんだった。それを聞いてたエリスは呆れたように、「…ま。その能力で良かったわね。」と言っていた。…実際その通りで、このチート能力が無ければもう心が折れていた頃だろう。でも地味過ぎるしカッコ悪いから早く成長して欲しかった。…ガタン!っと大きな音を立てて馬車は止まり、出てみるとそこには開けた草原があった。辺りを見回すと、他にも大量の馬車が止まっており、さらに左に深い森林が見えた。そしてその前には2人の男が椅子に腰掛けていて、参加者はその男達の前に並んだ。

すると教官らしい男が立ち上がり、見渡してから大きな声で「…っ良し!!どうやら110人が全員来てるらしいな!!…よし!では自己紹介から行かせてもらおうか!!私の名前はアベルだ!!普段は職業、闘士で熟練冒険者をやらせて貰っているが今日は特別にお前達、若い芽の成長を見させて貰いにきたぞ!!だから困ったことがあったらなんでもいいに来い!!」と言ってきた。そしてそれから「…ほらお前も座ってないで熱く語るんだ!!」と横の怪しい覆面男に言った。すると覆面は面倒くさそうに本を置いてからだらしなく立ち上がり「…えー俺はお前達新人の監督担当になってしまったアレクだ。普段は忍者をやってる。…ま、お前らには到底お目にかかれない職業なんで、見れて良かったね。」と言い終わるとまた座り込んだ。すると隣にいた熱血教官は呆れ顔で「……おい。いろいろ余計だぞ!!まぁ、いいか!!それじゃあ早速だが試験を始める!……今からここにいる全員にゴブリンを倒してきてもらう!!ゴブリンは全てあの森の中にいる!!いいか!!「1チーム」で5匹だぞ!!わかったな!!」そう言うと覆面は「あ。あそうそうゴブリンの数は20匹だからクエスト達成出来んのは4チームだけね」と挟んだ。え?110人で20匹?私とエリスで108人を相手に5匹倒すの?そんなの無理でしょ!?そんな気持ちが他の参加者にも伝わり始めた。

そんな気持ちがまったく伝わって無いみたいに覆面は続けた。「ルールは何でもあり。…っつっても新米にできることはたかが知れてるか。…まぁ魔法使い系の職は最初っからいくつか魔法使えるはずだからそれで頑張ってね。…いや。これじゃやる気出ないか…まてよぉ…」と嫌な予感しかしない言葉を続けた。「…よし、お前ら。クエスト達成できなかったら冒険者を辞めろ!!」と言い放った。

私はパニックになりかけた。あの覆面、立場だけじゃなく言動までカカシみたいなことを言い出しやがった!?

「な、何言ってんだ?あ、あのカカシもどき?」そう心の中でつぶやいたつもりだったのに小さく口に出てしまった。その微かな音に反応した覆面はものすごい速さで私に接近して、「誰が案山子だって、あ?」と覆面からみえる迸る眼光を私に向けた。

「」私はあまりの恐怖に声が出なくなってしまった。…え、なんで横のエリスですら聞こえなかったのに。そんな怯える私に「ま、いいや」と言って飽きたみたいに元の場所に戻った。

(…ふぅーん、ヒトコちゃんか。あいつ今案山子って言ったよな?…この世界にないもん知ってるってことは俺と同じで転生者か…しかし、この世界で違和感のない名前に変えなかったのは何故だ?…教えられないからかな。…それにしてもいきなり勇気ある奴だなぁ…ってことは相当チート能力に自信があるのかぁ…)とアベルが皆を解散させているのを尻目に考えた。


***

深い森の中へ新人冒険者達は数匹のゴブリンを狩りに走ってから10分は経ち始めた頃。アベルは俺に質問した。「なぁ!!アレク!!これやっぱり新人には難し過ぎるんじゃないのか!!」俺は惚けたフリをして「ん?どうしてそう思うんだ?」と聞くと、アベルは森へ跳んで、俺に一つの出来事を見せた。「ほら!!まさにアレだ!!」見ると戦士らしい男がゴブリンを追いかけ回しているが、ゴブリンの速さに翻弄されて木が密集している地帯におびき寄せられた後瞬く間に引き離されてしまった。「く、くそ!…また振り出しか」それを見ていたアベルは「あの速さでは素人ではどう足掻いても…」と言い出した。俺はすかさず、「そう、無理だ。なんせあのゴブリンはみっちり俺が育成した特注品だからね。…しかし、免疫魔力に振りすぎたな。もっと素早さに振ればよかった…ま、いいや。」と言った。アベルは「あれ以上に早くなられては本当に不可能になってしまうぞ!!」と怒鳴った。あまりにうるさかったんで自然に声はイラついていた。

「…いや。きっと誤差だよ。なんせ…ん?わかり始めた奴がいるみたいだぞ。」

「何!!どいつだ!!と言うか何を!!」2人の視線の先に2人の冒険者が居た。

「あ、あの~良ければ僕と即席パーティーを組みませんか?」

「え?も、もちろん良いですよ!よろしくお願いします。」こうして2人の冒険者はチームとなった。

「…そう1人だと討伐は不可能。だからチームを組む必要がある。【冒険のキホン その1仲間を集めよう】ってわけだね。」

「おぉ!!流石じゃないか!!アレク!!」

「…まぁね。こういうことは自分で発見したほうが自然と身につく。…まぁでもまだ問題はあるぞ。でもそれが出るのはもうちょい後かな。」

そういうと2人で高台へ向かった。


***

そんなことは何も知らないヒトコパーティーは森を彷徨っていた。他の冒険者が即席パーティーを組んでるのを陽キャだなぁ~と眺めていた。

でもなんで今即席で作る必要があるだろう。エリスも同じ事を思ったらしく、「もしかして、ゴブリンって結構強いのかもね?」と言っていた。

…でもだとしたら2人で叶うだろうか。そんなことを考えていると、後ろから音がして振り返ると、そこにはゴブリンがいた。

エリスが杖を構えたのを見て慌てて私も構えた。そしてエリスがゴブリンに向かって走った。するとゴブリンは思い切り逃走した。私は驚いて行動できなかったけど、エリスはすかさず光魔法を詠唱した。「ライトボール!!」ゴブリンは逃げ切れずに光弾に当たり、倒れた。

「……やった!!倒したわよ!!ヒトコ!!……ヒトコ?……ヒトコ!!」

私は恐怖で動けなくなっていた。「……ごめんなさい。私、怖くて……」

「大丈夫よ。私がついてるから安心して。」

「うん……」

すると…茂みから、1人の冒険者が出てきた。「い、今の何?アタシの魔法じゃ全然効かなかったのに…」そういう彼女にエリスは、

「ゴブリン系の魔物は光が弱点なのよ。」と話した。それに納得した様子をしてから、少し考え、話し出した。

「私の名前はミレイナ。あなた達は?」

「私はエリス。こっちはヒトコ。」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

「ヒトコ、どうしたの?」

「あ、あ、サボタージュ、解除!…あれ?できない?」

「…ただの人見知りじゃないの?」…あ。そうか。落ち着いてから話を聞いた。

「ねぇ。もし良ければアタシとパーティー組まない?」私は少し考えてから、

「……はい!ぜひ!!」と答えた。

それを遠くでアレクは見ていた。「…ヒトコちゃん。それはキホン その2じゃ失敗だよ?」

***

「そういえばさっきの魔法凄かったですね!」とミレイナは聞いてきた。

「……え!?ああ。ありがとう。」

「……ところでどうしてこんな所に居るんですか?」

「えっと……。実は私、彼女の手伝いと、冒険者登録をしにきたのよ。」そう言って私に笑いかけた。ミレイナは

「へぇー!そうなのね!でもなんかパッとしないね?その子?」なんでそんな火の玉ストレートを投げれるんだろう。エリスは真剣な顔をして、「そんな事言わないであげて。彼女は私の大切な友人なんだから。」と言った。

「へ、へぇ~!そっか!そんなに大切な友人なのかぁ~!でも……なんというか……あまり強くなさそうだし……お荷物になりそうね……」と呟いた。嬉しさと悲しさってどっち優先させればいいんだろう?


***

クエスト開始から30分は経った頃にアレクは動いた。「お!アベル。言ってた問題が起きたぞ!ついて来い!」と言って跳んだ先には6人の冒険者グループがあった。

「畜生。なんで俺達はゴブリンを捕まえられないんだ!?」そう戦士が呟くと、もう1人が「…戦士4、盗賊2という編成に問題があるんじゃないか?と言っても編成を変えたければ誰かが抜けなきゃいけない。…パーティーは6人までしか記録できないようだからな。」すると、すぐに口論になった。「お前が抜けろ!!」「なんで俺が!!お前だろう!!」そんな意味の無い言い争いを見て、俺は「⋯【冒険のキホン その2パーティー編成】…ちゃんと考えないと勝てるもんも勝てないよ。」と言った。アベルはまた「おぉ!!流石じゃないか!!アレク!!」と言っていた。…まったく。進歩ないんだから。(…さぁヒトコちゃん?効かない魔法しか撃てない劣化エリスを仲間にして果たして上手くいくかな?……にしたって数の減りが激しい。俺がこの眼で発見したのはヒトコちゃん達が倒した1匹のみ。だが、もう7匹も狩られている)

「…おいアベル!!」

「なんだ!!」

「こりゃすぐにキホン その3に行きそうだよ!!」

「おぉ!!流石だな!!アレク!!」

「…早いよ。」


***

 2匹のゴブリンは冒険者から逃げ回っていた。それを追う冒険者パーティーは俺の理想に近い形になっていた。(前衛3、後衛3。…しかもあの魔法使い。光属性の拘束するタイプの補助魔法が使えるようだな…ありゃ2匹とも狩られるな)

「ン!?おいアレク!!あいつらすでに5匹狩ってるぞ!!」

「…始めたか。やれやれ。」

「ん?どういう事だ!!」

「…いやホラこのクエスト追加報酬があったでしょ?1匹あたり銅貨2枚って奴。そのせいだね。…まぁゴブリン全部倒さないと帰れないから早く帰りたいだけかも知れないけど。」

「なるほど!!でもそりゃちょっと酷くないか!!」

「それ狙いでしょうが。ま、最も深追いする奴は割を食うけどね」

「何どういう事だ!!アレク!!」

「……まぁ見てなって。」

深追いするパーティーから逃げながらゴブリン2匹は口笛を吹いた。すると鳥が羽ばたき、森の奥からケンタウロスの群れが叫び声を上げて突っ込んできて左手の弓を一心不乱にに撃ち込み、深追いパーティーの攻撃は華麗に避けて、深追いパーティーをケンタウロスの群れの中へ引き込んだ。深追いパーティーは必死に戦闘するが、抵抗虚しく惨敗した。

「…これが【冒険のキホン その3安全第一】…実践ならもっと凶暴な敵にで喰わすかも知れない。…深追い禁物だよ。」

アベルは興奮して叫んだ。

「おぉ!!流石だな!!アレク!!」

「ま、それら全部踏まえりゃ簡単にクリア出来るよ…このクエストはね。」


***

その頃ヒトコは、ミレイナとエリスに攻撃を担当してもらいながら、私は防御に専念した。2人に降りかかる攻撃を盾で庇い続けていると、

ミレイナは「ヒトコ!大丈夫!?」と聞いてきた。

「う、うん!平気。ありがとう!!」と言った。(自分を守る為の大盾だったけど、思ってたより便利だな)しみじみと感じていると周りに弓矢の跡があることに気がついた。ミレイナは「こ、これ何?相手はゴブリンだけじゃないの!?」と怯えた表情を向けた。私は長居したくなくなってしまい、追加報酬のことは諦めて2人に「と、とにかくあと1匹見つけて倒そう!!そしてそれから隠れよう!!」と言った。2人は頷いてお互いの背中を預けて周囲を確認しながら捜索した。

(お!ヒトコちゃんはあと一匹か!?…あのミレイナを仲間にした時はどうかと思ったが、揉めてない様子をみるに、波長は合ってたみたいだな…しかし後衛2人を1人で守り通すとは大した奴だ。)俺は前衛において最も大事な事は「死なないこと」だと考えていた。なんせどれだけ努力しても前衛は火力の中心になる事はない。…魔法にはどうしても一歩劣るからな。だからその火力の中心を高い体力で庇い抜き、最後まで生き抜くことができる奴が最も優れた前衛だと長年の経験から読んでいた。まぁ…誰もそんな風に考えちゃいないし、そんな所見てもいねぇーが。(…ヒトコちゃん。前衛は後衛より先に死んじゃいけないよ。君には…出来ないかもしれんが…ん?ゴブリンあと1匹か?)


***

私達は森かき分けてゴブリンを探していると、川の近くでゴブリンが一休みしているのとでくわした。ゴブリンは素早く体勢を立て直し、走り出した。大盾を持っていると走りにくかったので、ゴブリン目掛けて盾を投げた。すると思い切り投げた盾はゴブリンには当たらず、その近くの木に当たった。すると盾の軌道が変わり、再度ゴブリンに向かった。その盾はゴブリンの頭に当たり、ゴブリンは倒れた。ぶつかって返ってきた盾をキャッチして近づくと、別のパーティがそのゴブリンと遭遇した。「ん?おいみんな!最後の一匹見つかったぞ!」よろめいて立ちあがろうとしたゴブリンは別パーティーから繰り出された魔法を避けれそうになかった。(そんな?ここまで頑張ったのに冒険者になれないの?…なんかいい方法はないか…なんかいい方法!?)迷ってる暇はなかった。このままだとゴブリンが彼らに殺されてしまう。彼らとてここまで努力してゴブリンを倒してきたのだろう。なんなら私達よりも冒険者に向いているのかもしれない。でも…それでも私は冒険者になりたい!ゴーレムに勝つために!「サボタージュ!!」その瞬間、今までとは違う感覚がした。いや別の能力が発現したような感覚が。すると自分の後ろの影が動いてるのに気がついた。そしてその影は嘲笑うような顔に変化し、「コシヌケガ。ソコデミテルダケカ。エリスカワイソウ。トモダチニナッテシマッテエリスカワイソウ。ミレイナモカワイソウ」と私の聞きたくない事を話し出した。そこから逃げ出したくなって私は前方に飛び出した。そこで私の視界にまたゴブリンが映った。そうだ!ゴブリンをなんとかしないと!すくんで動けなかった私を影の幻聴が動かしてくれたんだ!私はゴブリンを抱きしめる形で庇い、魔法を盾で受けた。しかし、盾で受けられる限度を超えていたため、ほとんど体で受けてしまった。エリスは叫びながら倒れる私に近づき回復しようとしたが、私は声を振り絞って「は、、っ早くゴブリンを!」意図を理解したエリスはすかさず「ライトボール」を繰り出そうとするが、敵のリーダーらしき男が「待て!!……そいつらは俺達の獲物だ!!みんな撃つんだ!!」と叫んだ。すると、仲間達が一斉に武器を構え始め、ゴブリンに向かって一斉に攻撃を放った。だが敵の斧を持った大男が、「いや!こっちを狙った方が速ぇ!!」と言ってエリスに持っていた斧をエリスに投げた。私はエリスを守ろうとして立ち上がると、「私の影」が「イケ。カラダデウケロ。ソシタラシネル。」と言ってきた。…死ねる?私は死にたくないのに!?向かってくる斧の前に立って、ガードしようとしたが、さっきの魔法を受けた時に、大火傷をし、その上身体の至る所から血が噴き出ていて向かえる気がしなかった。…なんとか這って向かうが自分の上を斧が通る音が聞こえた。(ま、まずい…間に合わない!!)急いで脚を上げると、斧が自分の脚に突き刺さった。驚愕する敵の声が聞こえた。エリスもこっちを向いている。だけど斧は止まった。…私は死んでない!私はこの時に自分に発現した能力を理解した。(発動条件はまだわからないが、この能力は私に対し、陰口混じりでどうすれば良いのかを間違えた形で伝えてくれる…ただの陰口の時もあるが。)私は斧を引き抜いて捨て、私に向かってくる敵のリーダーに対し話した。「…名前付けなきゃ。私の力の名前を。」戸惑うリーダーに続けた。

「これより私は『カゲフミ』と名付ける!!」

「そ、それがどうしたぁぁぁ!!」と言ってリーダーが斜めに斬りつけた。「カゲフミ」は私に「ウデデガードシロ。」と言った。それを聞いた私はすかさず無防備になると、剣が防具を貫いて、私の肩で止まった。それを上から腕で抑えて「……こう言うのは普通、恋人に言うべきなんだろうけど…もう離さないから!!」そして私はリーダーを助けようとした敵パーティーの攻撃をモロに受けた。さっき切れ込みの入った脚が千切れて、吹っ飛んでいた。…それが一番痛かったけど他にもいっぱい吹き飛んでた。無限に血を吹き出し続ける私を見てリーダーは震え上がり、「も、もう辞めとけよ!?…このままじゃ死んじまうぞ!?」震える彼に私は後ろを見てから「…うん。わかったよ。」と言って剣を離した。片足から力が抜け、倒れていく視界からエリス達がゴブリンを倒しているのを確認して笑って倒れた。

…前衛の仕事ちゃんとできてたかな?そう思いながら目を瞑った。


***

目が覚めると、最初の集合場所にいた。エリスは眠そうにしながら私の手を握っていた。…あれ指がある?…それに左脚も。すると

「気が付いたか。…君はなかなか見どころあるね。…前衛に必要とされる事をよーくわかってるみたいだし…」話している覆面に、私は

「…なんで、体治ってるんですか?」と言った。「ん?あぁ。それはそこで寝てる娘がやったよ。君の代わりに色々達成報告とかしてたよ。

感謝しなよ?」それから、「…さっきの続きになるが、お前。前衛に必要な事ってわかるか?」少し考えてから、

「……死ぬまで護り抜くことですか?」すると彼は今までより明るい声で「そのとーり!…極論前衛っていうのは死ぬまで立ってりゃいいんだよ。あ。後それと…質問に質問で返すなよ。はっきりとした意見が聞きたいんだから。」…めんどくさいなこの人。

最後にアレクは考えてから、今まで以上に真剣になってから「…これはクエスト達成者、みんなに言った事だが、お前にも言っておく。」

「【冒険のキホン その4出会いを敬え】!…お前が今生きてるのは偶然じゃないぞ。ここまでの積み重ねや、判断によって必然的に生きているんだ。…感謝しろよ。お前を生かしてくれた出会いと犠牲に。そしてそいつらの分も無い頭、こねくり回して生きろ!…それが出来てやっと一人前の冒険者だよ。」そう言って、頭を撫でてから、部屋を出ていった。(…敬え、か。確かにこっちに来てから助けられてばっかりだ。…感謝しなきゃな。)そんな事を考えながら、首を揺らして寝かけているエリスと、しっかり寝てるミレイナを見て感じた。


***

クエストが終わった後ギルドに戻り、依頼金を受け取った俺は足早に帰ろうとした。しかし男に声をかけられた。

「…アレクさん。ちょっとお時間頂けますか?」

「ん?…あぁ適性担当の。」

「…はい。あのアレクさんが【冒険の キホン】を最後まで言った娘なんですが…」

「ヒトコちゃんのことか?」

「…そうです。アレクさんは期待してらっしゃるみたいなんですが彼女は…」

「知ってるよ?ゴーレムと戦うんでしょ?…聞いたよ。」

「…え!?じゃあなんで最後まで言ったんですか?」

「…別に何となくだよ。ヒトコちゃんは長生きはしないだろうが、骨のある奴だった。…良い前衛はみんなそうだけどね。」

「…はぁ。」

それから俺はすぐに帰った。

(…ヒトコちゃんか。長く冒険者やってるがあそこまで仲間の為に命張る奴はいつぶりだろうな。…それ故にじきに死ぬっていうのが惜しく感じてしまう。…なんで今、ゴーレムなんかに挑むのかなぁ。お前ほどの素質があれば、後2年ぐらいすりゃラクに勝てるのというのに。)

「…しかし、ヒトコちゃんみたいに仲間の為に命を捨てる生き物っていたよな?…なんだっけ……あぁそうだ!思い出した!」

「…ヒトコちゃん。お前はまるでハダカデバネズミみたいな奴だったな。」

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