第6話 やっと異世界らしいことができたよ

私はそれからもずっと確かめるように笑い続けた。転げ回りそうな勢いで私が笑っているとエリスも少しずつ、笑い始めた。すれ違う通行人はそれを不思議そうに見ていた。…ひとしきり笑い終わると、顔を見合わせて2人で立ち上がった。…喉も乾いたし、空腹がいよいよ一周回ってマシになり始めた。…もしかして私さっき体の限界で倒れたのかな?考え事をしていたら、エリスが「…それじゃ!異世界らしいことしに行くわよ!」と言ってきた。先に何か食べたかったけどそれなりに楽しみだったので黙ってついて行った。

「それじゃ、まず相手を知りましょう?」そう言って着いた目的地は図書館らしかった。「カクノシンは冒険者の街でしょう?…だからモンスターについての生態とか、弱点についての本が多く寄贈されてるの!…まぁメインターゲットの冒険者が読み書きの出来ない連中ばっかりみたいだったらしいけど。」そう説明しながら、図書館に近づいていった。…「カクノシン第一資料館」…なるほど転生者だから字が読めるのか。

…というか図書館じゃないじゃないか。入るとエリスは慣れない様子で館内地図を見ていた。その後どうやら目的の場所を見つけられたみたいで、私を引っ張って連れてってくれた。…くそぉ、私はこいつに殺されたってのにもうほとんど許してしまっている。エリスに文句を言うつもりは無かったけど、そんな甘い自分はやっぱり結構嫌だった。けどそれより嫌だったのは、本を読む時にエリスが同じ長椅子に私を座らせて、息がかかるくらい近さで肩を寄せ合うようにしながら、一緒に本を見させたことだった。…楽しそうで良いねって思う人がいるかも知れないので、ここでもう一度明言しておく。私はいつでも「鬱症状」を引き起こせる「サボタージュ」がいらないくらいの内気で、何よりコミュ症だ。

だから、こうやって超至近距離に来られるのはガイル並みに嫌いであった。…そんな気も知らないで、「あれがねー…これがね、…」とか続けるエリスにサマーソルトを喰らわしたくなったが、そんな力も無いんで黙って聞いていた。すると最も気になっていたページに辿り着いた。

「お、これだよ!ヒトコちゃん!」その内容は以下のもので、能力の欄はエリスが説明してくれた。

ゴーレム 岩石系 魔力生物

一定の魔力を好きな配分に振り分ける事で生み出せる魔力生物。基本的には砂や石を集めて作るが、高位の魔力を使用することで鋼鉄やマグマなどでも作ることができる。ステータスは免疫魔力が伸びやすい個体が多く、魔法は効きにくい。また得意では無いが、魔法を多少使用できるのでどうしても使わせたい場合は、攻撃魔力が上がりやすい育成をして、得意な呪文を覚えさせることを心掛けよう。弱点は基本的にはないが魔力によって動いているため、魔力切れを狙いながら戦おう!

[適正魔法:土:25 適正職:戦士] 得意な魔法の種類。横の数字は得意度みたいなもの。昔のモンハンの属性値並みの数値だとも言ってた。

[・体内魔力:500~3200] 能力の限界値みたいなもの。多ければ多いほど強さの限界が遠いみたい。スライムは大体100前後。

[・攻撃魔力:200~1900] 魔法能力の数値みたいなもの。多ければ多いほど多彩な技が使える。わかりやすく言うと、とくこう。

[・免疫魔力:300~2800] 魔法耐性の数値みたいなもの。多ければ多いほど魔法が効きにくい。わかりやすく言うと、とくぼう。後、おまけに病気への免疫、防御魔法の習得などにもプラスに働くようだ。

[・生息域:なし] 野生にいなければなしと出る。ん?

[飼育難度:易] …飼育できるのか


***

…いろいろツッコミたい所はあるけど、取り敢えず…「っていや!攻略本かい!?」と言った。…まぁでも何となくわかりやすいなと思いながら続けて説明文以外も見てみた。五角形のパラメータ。立ち絵みたいなモンスターの写真。飼育の際の注意点。そんな文章を見ていたら、なんだか転生前が懐かしくなった。…そういや初めて買ってもらったゲームってポケモンだっけ?ドラクエモンスターズだっけ?そんなこと考えながら、見てたら重要なことに気がついた。「ん?ゴーレムって人工モンスターなの?」と聞いた。するとエリスは気がついたように、

「…じゃあ村を襲わせた黒幕がいるって訳ね…」と言った。…じゃあ誰が、どういう理由で村を襲わせたんだろう?どちらにせよ許せない事ではあるけど、それが気になり始めていた。エリスは本を片付けながら、「それじゃあ次は自分の適正ね!…ほらほら早く!」と言って私を引っ張って走った。…この人、もしかして異世界楽しんでくれてるのかなぁ?

***


次に着いた場所はカクノシンの冒険者ギルド…の横にある訓練所だった。どうやらここで冒険者登録をし、ついでに適正も調べるらしい。

(…なるほど。今度はウィザードリィか。)訓練所にエリスさんを盾にしながら入ると、受付の人がギョッとした眼をこちらに向けてから、平静を装いながら、「……冒険者志望の方ですか?」と聞いてきた。……「は、はい……」私がそう答えると、受付の人は少し安心したような表情を浮かべてから、何かを思い出したかのようにハッとして、慌てて笑顔を作り直してから言った。

「えっとですね……実は今、新人育成の為のクエストがありまして……。……その、もし宜しければご参加いただけないかと……」そう言って一枚の紙を差し出してきた。そこには……『新米冒険者の実力テスト』と書かれていた。「……あの?」と受付の人に言われて我に帰った。……いけない、ぼーっと考えてたら、エリスが「やります!」って元気よく返事しちゃったよ。それから私に、「良いんじゃない?ぶっつけ本番は怖いでしょ?…能力チェックにもちょうど良いわよ?」と耳打ちした。…いや、その通りだけどさ。……「で、ではこちらにサインをお願いします」と言われてサインをしてから、受付の人に適正検査用の部屋に連れていかれた。部屋に着くと受付の人が

「…が、頑張ってくださいね♪終わったらクエストですから…」と言ってくれた。その後は逃げるように受付に戻った。部屋は古いけれど清潔感のある木造の部屋だった。…まぁ、当たり前か。木特有の匂いを嗅ぎながら、見渡してると係の人と目が合った。「…それじゃ始めるから。そこ座ってくれるかな?」とだけ言って、私を座らせた。…は、恥ずかしい!赤くなりそうな顔を落ち着かせるために小さく「サボタージュ。やる気喪失」とか適当な事を言った。ボードみたいなものを取りに行ってた彼が帰って来てみたら、急に真顔になってる私を見て少し驚いた様に眉を動かしてから、「…それじゃ始めるよ。この紙に手をかざして?」と言ってボードに挟んでいた紙を机に置いて見せた。それで資料館でのエリスとのやり取りを思い出した。


***

「…つまり魔法にはタイプがあるの。そしてその区分は2種類あるわ。」

「一つ目の区分は魔法の種類。攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、補助魔法。…その異なる四つのタイプの魔法を自分の体内魔力が無くなるまで使用するわ。…まぁこれには好き嫌いがあるんだけどね。うーん私の場合は攻撃と補助は苦手かしら?」

「そ、そうなんだ。結構、私攻撃面も期待してたんだけど…」

「甘え過ぎよ!…まったく。あ、あともう一個の区分は魔法の属性ね。」

「属性?」

「魔法には、火・風・水・土・光・闇の6つの属性があって、それぞれ相性の良い悪いが存在するわ。例えば私の場合だと適正は光よ。

あ、でも二つ以上を組み合わせて、新しい属性を作る必要がある魔法も存在するわ。…当分関係ないけどね。」

「ふむふむ」

「ちなみに魔法を使う際には、必ず呪文を唱えないと使えないから、覚えておいて。」

「うん。わかった。」


***

そうかこれがそれを決めるやつなのかぁ~。よ、よし来い!「闇」!!ここまで割り食ってばっかだったし、ここぐらいかっこいいのが良い!

…それに鬱能力の私にピッタリだし…。私が念を込めながら紙に手を近づけると、紙は「闇」の文字が書かれた部分だけが黒く変色していった。「……あ、あれ?」「……はい、終わりだよ」「え!?これどう言う事ですか?……」と言うと彼は「…闇以外はそれなりに適正があると言う事だよ。…まぁすごい適正があった場合は、紙が焦げたり、濡れ出したりするんだが…それ程ではないってことさ。」とあっさり言った。

…え。えぇ?いつになったら私は無双できるの?それから続けて彼は、「じゃあ、次は職業だ。…と言っても魔法系の職は中級までだろうが。」と言った。え?最初から結構選べるの?ウィザードリィみたいに?それはちょっと楽しみかも!そんな期待をしながら、彼が新しく出した紙を見た。


***

初級職    中級職    上級職

戦士  → 闘士、騎士 →パラディン


魔法使い→ 司教    →魔術師


僧侶  → 司教    →賢者


盗賊  →暗殺者    →忍者


浪人  →なし     →侍


使用人 →魔物使い   →召喚士

…なるほど、使用人の枠がその他枠か。と言うかエリスの魔術師って上級職だったんだ。そうやって値踏みするように見ていたら、係の人が、

「……極論何でも良いよ。戦えない職業はないから。…まぁ仲間と被らない方がいいとは思うよ。…俺の持論だけどね。」と言ってきた。

いろいろ悩んだけど私は自分の職業を召喚士にしようとした。理由は、私はサポートの方が向いてそうだった事とやっぱりRPGはモンスターを使役するのが王道でしょ? と言う安直な理由だった。すると聞いてたエリスは青ざめてから飛びついて「ちょ、ちょっと!W後衛でどうやってゴーレムに勝つつもりなのよ!」と言ってきた。それを聞いて考え直そうとしたら、係の人は「…いや。どっちみち素人2人でゴーレムに挑むのは死ぬだけだよ」と言ってきた。それで私はとにかく生き残れそうな職業にしようと思い、もう一度表を見て職業を決めた。

「決めました!私今日からパラディンになります!」そう言うと、2人はほっとした様な顔をしてから「…じゃあ次は得意武器種だね。パラディンだと確か…うん。片手剣、大剣、槍、弓、盾だね。」…盾って普通に盾のこと?それってどう戦うんだ?キャプテン・アメリカみたいに?と考えていたら彼は「…君。とにかく生き残りたいんだよね?…ならお勧めは盾か弓だね。…前者だと火力は少ないけど少なくとも生存確率は他の武器よりも格段に上がるよ。…後者の場合は遠距離で有利に戦えるからお勧めだったんだけど…ゴーレムには矢が刺さらんかもしれんな」と言っていた。そうかまずはゴーレムに勝つことを考えないと。それで私は得意武器を盾にする事にした。


***

得意武器を盾にして、職業も決まったところで私たちは実力テストに向かうことにした。クエストの内容はこうだった。


***

場所:森

報酬:銀貨5枚

期間:2日以内

内容:ゴブリン5匹の討伐

注意事項:1匹につき銅貨2枚の報奨金

備考:薬草等の採取も可


報酬の額は正直よくわかんないけど一泊するのに銅貨5枚だから多分結構な額を貰えるんだろうと思う。そうしてエリスに手続きをしてもらってから出発の馬車に乗ってテストに臨んだ。深い森に入って行くのが馬車の隙間から見えて、不安になり始めた。冒険者登録が終わった時に貰った装備は命を預けるには少し不安な作りをしていた。(…この盾。なんか塗装ハゲてる…まさか死んだ冒険者の武器を再利用?な訳ないか。)

そんな私を安心させようとしたのかはわからないがエリスは私の手にそっと手を重ねて、「…楽しみねぇ。」と言った。

…そうだね。私も楽しみ。…これからも色んなものを見に行きたい、体験したい。真新しい場所。カッコいいモンスター。新しい技。新しい魔法。…できることならエリスとこのまま2人で。

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