第5話 うん!成長したよ!

「ねぇ?“エリスさん”?」そう言うと微笑んでいた彼女は

「え、あ、はい。なんですか?」と慌てて返事をした。

「あ!やっぱり!?」その言葉を聞いて、彼女はしまったと言いたげな顔をしてから、ため息をついて

「…なんで気付いた?」と言ったので、

「だって、今……」と話してる途中に彼女は割り込んで

「……はい。わかりました。」と言った。そして、彼女が私の言葉を遮った後に、私は

「…あ!それでね!……ど、どうしても助けてほしい事があ、あるんだけど…ムリ?」というと彼女はきっぱりとした口調で

「無理です!」と答えた。

私は「えっ?」と思わず声を出してしまった。

「えっ?じゃないですよ!無理なものは無理です。」と言われたので

「えっと……。理由を教えてよ?」と言うと彼女は呆れた様子で答え始めた。

「はぁ…。えっとまず原則として女神が干渉して良いのは転生後の能力決めだけなの!今までそうしてたのに急に変えたら不公平でしょう!?」

「え?じゃあなんで私に宿を用意してくれたんですか?」

「それは、貴女がほんっっとうに見てられなかったからよ!…実際、バレたら面倒だからやりたくなかったんだけど。」

「え?何が面倒なんですか?」そう言うと彼女は聞かれてたかって言いたげな顔をして

「…この転生方式って、ドラクエタイプじゃなくってウィザードリィばりの投げっぱなし転生でしょ?…だから手を貸したりしちゃうと、そりゃ~次はどうすれば良いですかとか言ってずっと頼ろうとしてくるのよ?~まったく、そんな暇ないってのに…しかも手を貸してんのを他の転生者に見つかったら、なんでオレの時はやってくれなかったんですか!?…とか言い始めるし…まったく私はお前らのママじゃないってのに…」

エリスの喋り方はどんどん優しかったシエルさんから、あの駄女神に変貌していった。そんなまま言葉を挟む余地のない速さと迫力で、

「…それに、な~んでどいつもこいつも転生先に目標とかあると思ってんのかしら?ココはドラクエじゃねぇってのに…それに…」

と言いかけた所で、私のことを思い出した様に見て、「…とにかく!そういう訳で無理なもんは無理ってこと。OK?」と言った。

私は引き下がらずに「他の転生者になんて言われてもいいので助けてください!」と頭を下げた。…我ながらすごい前向きに後ろ向きなことを言ってると思った。すると彼女は呆れたような顔をして「はぁ……。それじゃ私が悪者になるから嫌なの!」と言ってきた。

「大丈夫です!エリスさんは悪くありません!悪いのは弱い私です!!」と胸を張って言ったら彼女は、

「……アンタ、ホントめんどくさい性格ね。まぁそこまで言うならいっか。…で、どうして欲しいの?」と微笑みながら言ってくれた。

それに「あ、ありがとうございます!」と下手な笑顔を返した。後ついでに気になったことを聞いてみる事にした。

「あと、どうしてシエルさんになってたの?」

「……あ、この体?……下界用のボディなの。」

「……え?どういうこと?」

「あ、うん。…まぁざっくり言うとこの世界の普通の人間の体ってこと。」

「ん?じゃあ女神パワーは無いんですか?」そう言うと彼女は

「ええ。もちろん。…あ、でも戦えないってことは無いと思うわ。」

「……相手がゴーレムでも?」そう言うと、彼女は慌てながら

「いやいや!ゴーレムなんて相手したら、さすがに死ぬわよ!」と言ってきた。

「え。一緒に戦って欲しい敵ってゴーレムなんですけど?」そう言うとエリスは青ざめてから

「む、無理よ!?絶対!?だ、だってあ、あんたゴ、ゴーレムっって言ってもドラクエのとは全然違うのよ!?」私も青くなりながら、

「え!?ほ、本当にむりなんですか!?」すると彼女は首を横に振りまくって「む、む、無理よ!?無理です!?絶対!?」と言い放った。私は縋りつきながら「女の子と約束しちゃったんですぅぅ、た、助けてくださいぃぃ」そんな私に彼女は

「わ、悪いけどゴーレムなんて相手にしてたら命が幾つあっても足りないわよ!?…ほらその子に2人で謝りに行くわよ!」と酷なことを言ってきた。いや、多分エリスの言ってることの方が正しいのは分かるよ!?でも私は納得出来なかった。

「じゃ、じゃあまず、わ、私を説得してください!ゴーレムについて調べたり、装備整えたり、技を覚えたり…そういう、出来ること全部やってから諦めさせてください!…ここでなにもせずに諦めちゃったら自分じゃなくなっちゃう気がするから…」

私の人生で泣きながら必死に頼み込んだことって今以外にあっただろうか?子供の時ペットショップで犬を飼って貰おうとした時?…いや、結局あれはお母さんの顔見て、笑って誤魔化した。…あの時の犬の潤んだ目しばらく寝る時にいつも思い出したっけ。じゃあ小学の時の卒業式にお父さんを呼ぼうとした時?…ううん。あれも頑張って予定合わそうと考えてくれたお父さんの背中を見て「なんてね!」なんて言って諦めたか。…そういや中学の時は頼みもしなかったな。考えて見ると私は自分のことしか頼んでなかったんだ。

だから本気で頼めなかったんだ。人の顔見て、難しそうならすぐ諦めて我慢する。誰も嫌にならないお願いなんてないのにね。…それでなんでも諦めようになって、気づいたら自分が遠くにいるように感じて、ここにいるのも、考えているのも、今こう話している私も違う人だって風に冷めてたら、遂にその“違う人”に本気になれなくなってしまった。全力でやっても並み以下、物覚えが悪いしやるだけ無駄。友達いないし、誰も私に興味ない。…そりゃそうだ。私は人間にとって最初に与えられた取り柄「本気に生きる」ってのを放棄したから。そんなことを考えてたらいつものように情け無くなって泣きたくなった。だけどそんなこと考えてたから自分のために泣けなかった。

私タダノヒトコはフツーにフツー以下の高校生。みんなの様に遠慮せずに生きることができなくってフツー以下になったどこにでもいる女子高生。人の顔を見ながら成りたい自分を考えて、人に褒められたことだけやって家では家政婦…料理はヘタだけど。それに加えて、妹に勝てる点がなくって、親戚の集まりとかだとよく引き合いに出された。そんな私の唯一、他と違う部分と言えそうな名前すら種族全体の紹介みたいになってしまっている。…あぁー私って何なんだろう。そうやって取り柄を探してたら、また自分が遠くに行くように感じた。けど過去に沈んでいく心を慈しむように私のもう一つの側面は見ていた。そして私の中の少し強い部分が脆い私に語りかけた。それは目の前のエリスにも言われたことだった。「…成長したのね。」え。考える間もなく強い私は、私に向かってこう続けた。

私タダノヒトコはフツーにフツー以下の高校生。みんなの様に遠慮せずに生きることができなくってフツー以下になったどこにでもいる女子高生。私は下を向いて頷いていると、強い私はさらに、人を想って生きてきて、認められようと努力した、そんな女の子。…料理はヘタだけど。

それに加えて、妹に勝てる点がなくって、親戚にもそれを馬鹿にされてる。でもそんな妹を素直に応援している。…バイトを始めた理由もそんな妹に自分でプレゼントをあげたかったからでしょう?…接客なんて全然出来ないのに。強い私は止めと言わんばかりに、私は確かに本気で生きれない。いつも冷めてるし、自分を顧みない。顧みるとしたら自分の失敗だけだ。だけどそれでも私には取り柄がある。

驚いて顔を見上げると、私は「誰かの為になれない努力を必死に出来る。それって十分取り柄でしょう?」


視界が開ける様な感覚がした後、私は現実に帰ってきた様な気がしてそれからすぐに目を覚ました。

まだ光に慣れない目を無理やり開けて周りを見てみた。目の前にはエリスが心配そうに顔を覗いて、その白いローブから伸びた、これまた白い手を私の顔に当てていた。私が起きたことに気づくと「どうしたの?急にふらりと倒れて心配だったのよ?何とか近くに木陰があったから良かったけど…あ、さっき言ってたことだけどね。…私、協力するわ!…でもほんと驚いたわ!なんせ人が怖くて逃げ回ってたやつがゴーレムに挑もうとするなんてね…本当…」そこまで黙って聞いていた私はエリスの言葉を遮って、エリスにも少し強い私にも言うように

「うん!成長したよ!だから…もう大丈夫。」そう言うと、立ちあがろうとした。私の言葉にエリスは眼を丸くした。…遠慮せずに生きるか。

私の取り柄を消さずにそれが出来るだろうか?それを確かめるように「エリス!手ぇ借して!立てないわこれ!」と言うと、ハッとした顔をしてから、笑って私に手を差し出した。その手を、私が頼りにしていた誰かに見立てて掴んで思い切り横に引っ張った。エリスは当然体勢を崩して、私の右隣りに倒れ込んだ。ローブについた土を払いながら睨むエリスを見ながら、私は歯を見せるようにして人並み以上に笑い続けた。

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