第3話 転生ってこんなんだっけ

私は古い宿の天井を見ながら、1日を振り返りながら今後のことを考えていた。……明日はどうしようかなぁ。……そもそもこの街では仕事なんてできるのかなぁ。だって……冒険者は怖いもん。……あーあ。

「……死にたい」そう呟くと同時に部屋のドアが開いた。……え!?誰!?怖いんだけど!?……まあ女将さんしかいないよね……?と安心しながら振り返ると、そこに立っていたのは見知らぬ男だった。……え?どちら様?……あ、もしかして女将さんの息子さんとか?……それにしても随分と若いなぁ。と色々考えているうちに、その男はこちらに近づいてきて言った。

「ねえ君さあ。……俺と一緒に来ない?」

「……はい?」…………どういう意味?……ああ、そっか!そういう事か!!つまりアレだね!?冒険者パーティーのお誘い!?

…て、いけるわけないでしょ!?考えもせずに、速攻「ぼ、冒険のお、お誘いは嬉しいんですが、遠慮させていただきます!!」と言うと、

彼は「……違う。そうじゃないんだ。……俺は冒険者でもなく、ましてや仲間でもない。」と、どこか悲しげに言った。

「じゃ、じゃあ……何なんですか……?」と聞くと、少し間を置いてから「奴隷商人だよ」と言った。

「ど、奴隷商人……」と口に出してからすぐに状況が理解できた。「え?もしかして私を奴隷にしようと…し、してます?」怯えながらそう言うと、その奴隷商人は当たり前のことを言うように「そうだよ?それが何か問題でもあるの?」と言い放った。

「え!?じゃあ、なんで悲しそうにしてたんですか!?」そう言うと彼は「……実はね。君を見ていて思ったんだよ。君はきっと良い奴隷になるって!だから声をかけたんだ!」と自信満々に言い切った。…え、喜びに打ち震えてただけ?

「い、嫌です!絶対に!……私は奴隷になりません!」と拒否すると、「大丈夫!怖くなんか無いから!むしろ楽しいよ!」と言ってきた。……こいつ……人の話を聞かないタイプだ!

「い、いや!絶対に行きたくない!……大体、私がいい奴隷な理由が分からないし!……ほら!もっと可愛い子とか綺麗な人の方がたくさんいるでしょう!?」そう言って彼を説得しようとしてみた。

「いや!君がいいんだ!」と頑なに譲らないので、私は強行突破に出ることにした。

「わ、私はあなたのこと嫌いなので無理です!」と叫びながら部屋を出た。

「……ふぅ。危なかったぁ……」

…あ。…結局、宿無くなっちゃった。と言うか転生者ってこんなに厳しいの?…せっかくシエルさんが宿を用意してくれたのに。

部屋の扉の前でそんなことを考えてたら、嗚咽の声が出そうになったが、さっきの商人に聞こえないようにしようとして、また

「サボタージュ!…な、…っ…んでも良…ぃから解除…」涙は出そうに無くなったが、気持ちは晴れなかった。

「…はぁ。…こんなことばっかしてたら解除してても鬱になりそう。」

ん?そう言えばサボタージュの宣言をしてない時に生じた涙とかも解除できてる?なんで?もしかして

「……私の能力って鬱になれるし、全部解除もできる?」と思いつつ、少しだけ期待を込めて目一杯悲しいこととか、情けない自分を想像して

からサボタージュを解除してみた。するとどうだろう。さっきまで考えていた絶望的な想像が抜けて、フラットな気持ちになったではないか。

「凄い!こ、こんな使い道があったなんて!?…うぅ…サボタージュがあってよかったぁ…」でも感動してからよく考えてみたら、それってメンタルが回復できるだけの一般人じゃないのか?…い、いやいや!メンタルはとっても大事!それが無ければ社会で生きていけないしね!

「はは…いやココじゃ通用しないよ…」そう言ってまた悲観的になりそうだったのでサボタージュしておいた。


 朝日が昇り、冒険者の街「カクノシン」に光が差し始めていた。陽気なその光に呼応するように街は昨日の活気を取り戻し始めた。

私は昨日、宿に預けたヒトコの様子を見るために、宿泊街へ向かった。普段は女神なんていう、転生ハロワと死神のハイブリッドみたいな仕事をしているためこういう人の織りなす世界を回ることは少ない。だから、新鮮なその景色に心奪われて、少し遠回りする様にしながら歩いていたのにあっという間に目的地に着いてしまっていた。

「……ここが、あの子の泊まってる宿かぁ。」

「……えっと、確か2階の一番奥の部屋だったはず……。」

「あ、あった。」

そのドアを叩こうとしたら、腕が当たった瞬間にドアが動きだし、部屋への道筋が出来てしまった。

「あら?女の子なのに随分不用心ねぇ?」そう言いながら膨らんだベッドに近づいて顔を見たら、そこにはスヤスヤと寝息を立てているおっさんがいた。「え。あ、あなた起きなさい!起きて説明なさい!」と叩き起こすとそのおっさんは

「あ、あれぇ……あんたは?昨日の子じゃねぇなぁ?」と言いながら周りを見渡した。そして私の顔を見ると、「……あ、エリスさん?」と呟き、ハッとしてから私に土下座をしてきた。「すいません!昨日の女の子が、女神様の知り合いとは知らず…!」と言い出した。

「あ!貴方は確か奴隷商人になったていう…」そこまで言うと彼は「はい!私は5年前に転生させていただいた者で名前は…」

「え?あ、自己紹介は良いのよ!それよりもあの子はどこに行ったの!?」

「え?ああ、彼女なら昨日の夜に出ていきましたよ?」

「そ、そうなの!?……じゃなくて!どうして止めなかったのよ!?」

「え、だって私はあの子を奴隷にしようとしたので…」

「」…お、驚いた。そりゃあの子も逃げるわ。

「…おーい。どうしました?」

「…はっ!説明どうも!後、貴方の仕事についてはこの際何も言わないけど、リスキルみたいな真似はもうよしなさいよ!わかった?それじゃ!」それだけ言ってから、驚く奴隷商人を置いて、窓から飛び出した。そしてあの子が向かいそうな所をあれこれ考えながら飛び回った。

すると見覚えのある後ろ姿が見えた。

彼女はキョロキョロと辺りを見ながら、街の門の方へ向かっているようだった。

私はすぐに追いついて、フードを被ってから彼女の肩に手を置いた。すると、びっくりして振り返ってきた。

それは紛れもなく、ヒトコちゃんであった。

私が何か言おうとする前に彼女は「な、何ですか!?……だ、誰!?」と言った。

「わ、私だよぉ!ほら!シエルです!忘れちゃったの!?」

そう言ったら、ヒトコは思い出してくれたようで、目を丸くして「……シ、シエルさん…う、ごっごめんなさい!」私が呆気に取られていると

続けて「せ、せっかくシエルさんが用意してくれた宿が…で、でも会えて嬉しくて…そ、それでもなくて!あ、あの…」と捲し立てる様に早口で言い始めた。それが人目も憚らずに大きな声で続けられたものだから、柄にも無く「…成長したのね。」と彼女にとっては訳のわからないことを言い出してしまった。案の定、彼女はキョトンとした眼でこちらを見続けた。…ん?なんて大きな隈。やっぱ自然じゃ寝れなかったのね。

申し訳無くなって、私はフード越しに彼女に微笑み続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る