第2話 何この能力


 歩いていると最初に後ろに見えていた街についた。近くで見ると想像していたより、活気に溢れていて、入れずにいた。何度も行ったり来たりした後に、なんだかそんな自分が情けなくて急いで帰ろうとした。その出来事は多分、まとめると2行くらいだと思うけど、自分には「サボタージュ」なんて大層なチート能力はいらないということを魂に刻み込まれるような出来事だった。それから私は、旅人や商人が踏み鳴らしたであろう道を避けながらまた進み始めた。…なにやってんだろう。そんな言葉を呟いて道の周りの芝生に寝転んだ。どうして、殺された上にこんなことやってるんだろう。普通、こういうのってもっと凄い能力をもらって、あんまり努力しないで成り上がれるんじゃないの?

…さっき街で見た他の冒険者達を思い出しながら、そんなことを考えていた。

「…もっと凄い能力だったら、あそこの人達に褒められたかなぁ?」でも結局、引き返したこと思い出し、今度は背中をつけて寝転んだ。

…そういえばこの植物ってなんだろう?見たことがないその植物を知りたくて1つちぎって何度も見ていた。

「…うーん。ゲームとかだと鑑定とかできるんだけどなぁ~うーん。」結局それは、どんな植物か見当もつかなかったが、この未知の世界を旅するきっかけになった。「…よし!他の物も見てみよう!…街はその後でいいよね?多分?」そうして、小学生の頃ぶりに朝日の下ではしゃぎ倒した。「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」と柄にもなく叫びながら走り回り、草花を摘んで眺めたり、木に登ったりした。

「ふぅ……」疲れ果てて、少し休もうと腰を下ろしたら空腹感に襲われた。

「…あ、そうか。今、私。この世界に来たばっかでなにも食べて無いんだった。…どうしよう。このまま餓死したら、エリスになんて言われるか…というか第一、このままだと死んでしまう!手詰まりになった私は妙案を思いついた。「…確かうつの症状に食欲減退ってあるよな?」

…私だけじゃないと思いたいんだけど、うつ病の症状って調べたことあるよね?…まぁ早速私は「サボタージュ」を使ってみることにした。

とりあえず、ステータス画面を出してみようと思ったが、特に反応がなかった。まさかとは思うがもう一つの方法を試してみた。

「“サボタージュ”!え、えっと食欲減退!」そう唱えてみると、いきなり鳥肌が立ちはじめて、気分が悪くなってきた。

「……あぁ……吐き気がしてきた……でも、これで大丈夫かなぁ……?……うん!いける…」

「……わけない。なにこの能りょ…」と言い終わるより前に、嘔吐してしまった。「うっ…オッ…オェ…かっ…オェ」

しかもなにも入ってないから酸っぱい胃液だけが出てきた。そのままカエルみたいな音を出しながら、

「サ゛ボ゛タ゛ー゛ジュ゛。か゛、解゛除゛!゛」と言った。するとさっきのことが嘘みたいに身体が軽くなり始めた。

乱れた息を整えるゆっくりと体を揺らして、さっきの惨状の後を見た。「……すっぱい。」とだけ呟いて、涙を解除してから眠りに落ちようとした。

 

 そんな様子を見ていたのかは知らないが、「……あの?大丈夫ですか?」と声をかけられた。

「はい。なんとか……?」と振り返った先には、白いローブを着た金髪の女性がいた。

「……あなたは?」と聞くと彼女は答えてくれた。

「私はシエル。魔術師です。」そこまで言うと、地面の異臭に彼女は気が付いた。

「……これは……?あっいや、というか昼間に街に来てましたよね?宿へ泊まらなかったのですか!?」

「はい……実は……」と私が事情を話すと、彼女は慌てて謝ってきた。

「ごめんなさい!!転生者とは知りませんでした…それはなにも知らないですよね!?」それから

「じゃあ私が…」彼女が言いかけたところで私は言った。

「いえ、結構です!自分でどうにかしますから!!」

「……でも」と引き下がらない彼女に私はこう言った。

「それに……これくらいなら慣れてるんで平気です!ありがとうございます!それでは!」と早口で言いながら、シエルさんから逃げ出した。

…あーあ。どうしよう。…もうすっかり、空は真っ暗闇になっていて、自分の足元すらも見えなかった。

「…巨乳視点。」すっかり絶望した私は自暴自棄になってそう言った。その後すぐに急激な背中の痛みによって、現実に戻された。

「…っ痛ぁ!?」振り向くとさっき突進してきたらしいモンスターがいた。それは「ブモォ!!」という鳴き声と共にこちらに向かってきた。

「……やばいやばいやばいやばいやばやばやばやばやばやばやばやばやばやばやばやばやばやば…!?」

え!?なに!?あれ!?もしかしてオークなの!?と内心焦りまくりながら、抵抗できるものを探した。すると自分の持ちものが判明した。

持ち物は

・女子高生装備一式・スマホ(充電ギリギリ)・バッグ・手帳

・ボールペン・タオル・鏡。だけだった。

「あ;…普通にそのままなんだ?」とにかく現状の装備で1番要らなくなったスマホを投げてみた。全力で投げた前世の象徴はオークに

直撃し、見事に壊れてしまったが、なんとか時間稼ぎにはなったようだ。…やっぱり異世界にはスマホだね!?

「よし。逃げるぞ!」と意気込んで走り出したが、後ろから凄まじい音が聞こえてきた。

「ギィイイッ!!」

と叫んでいるであろうその声を聞きながら、必死に走った。走っても、走っても、追いかけてくる気配がなくならず、とうとう体力の限界で立ち止まってしまった。

「ハァッ……ハッ……も、もう無理……」と倒れ込んだところに、先程の化け物がやってきた。

「……あ、死んじゃった……」と諦めて目を瞑ったが、いつまで経ってもその瞬間が訪れないので不思議に思って目を開けると、そこには見覚えのある女性が立っていた。

「あ……」と思わず声が出た。そう。シエルさんだ。

「大丈夫ですか?怪我はない?」と聞いてくれたので「はい……」と答えた。

「そう。よかった!…オークに襲われたみたいだけどまだどうにかなると思う?」そう言われると私は首を横に振りながら

「いえ……多分もう……無理かと……」と言った。

「そう!…じゃあ宿に案内するわね!」

…シエルさん。この世界で初めて出会った人。この世界の人はみんな彼女みたいに優しいんだろうか?

前を歩く、シエルさんのフード付きのコートの中から少しだけ見える彼女の顔や肌を見ながら私は考えていた。しばらく歩くと

「…はい!ここが宿ですよぉ。それでこれが宿代。っはい、どうぞ!」私は恐る恐るその滑らかな手に近づき、

「……あの……いくらですか?」と聞いた。

「一泊で銅貨5枚。朝食付きで6枚よ!」と言われた。…それってどれくらいなんだろう?

ビビりながら宿に入った私が店主にカオナシのようにして、お金を渡すのを見続けて、結局私の入る部屋に蝋燭の火がつくまで、彼女は見守ってくれた。その後すぐに帰ろうとしていたけど、私は全力で呼び止めた。

「あっ!あ、あの!き、今日はありがとうございましたぁ!」そう言いながらやっぱり人並み以下の笑顔を向けた。シエルさんは少し驚いたのか、歩く足を止めて、少し考えてからフードを取って「いいえ、当然のことをしただけですから!」と言った。そして今度こそ帰っていった。……本当に感謝している。彼女は私にとっての天使かもしれない。でもそんな彼女にも一つだけ気になる点がある。それは、フードを取った彼女の顔に見覚えがあるという点だ。……いや、もちろん、この世界で話した人はシエルさんだけだし、あんな女神みたいに美しい人は今まで会ったこと…ん?女神みたい?え…まさかね。


 冒険者の集う酒場や冒険者向けの集会場が集う街「カクノシン」。余所者の向けの店が多いココなら彼女みたいな奴でもやってけると思って

転生させたのにまさか街にすら入れないとは…。エリスはか弱すぎる彼女の今後が心配になった。…でも助けすぎるのはどうかと思うし。

そんなことを考えながら責任から逃れるようにフードを被り直すと、彼女は足早に街を去っていた。

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