第5話 うっかり逆鱗に触れてしまう!

 俺たちは富羽根とみはね家行きつけの高級 蕎麦そば屋さんの一見いちげんさんは絶対通してもらえない個室で天麩羅てんぷら蕎麦を食べていた。



「ラランさん! お蕎麦をすするのすごくお上手ですね!」


 と、富羽根みんとが大きな声を出すと、ララン・フロミネンはこう言った。


わたくしの母は日本人だったからおそらくは遺伝子レベルで染みついてるんでしょうね」


「だった?」


 と俺が思わず繰り返してしまうと、ラランはすぐにこう説明した。


「ああ、母はわたくしが物心がつく前にわたくしと全く同じ病で亡くなってしまったの。だからいつかダンジョンにあると噂されているタイムリープの泉を見つけて母に会いに行こうと思っているの!」


「へー! やっぱりラランさんっていい人なんですね!」


「いい人? そんなわけないでしょう? 人をつまらない人間みたいに言わないで! わたくしはただ母親がいなくてどれだけ苦労したか母に伝えたいだけよ! 伝え終わったら別に死んでもらっても構わないと思っているわ」


 それを照れ隠しで言っているのか本気で言っているのかはまだ付き合いの浅い俺にはよくわからなかった。


 ただとてもデリケートな話題だということは俺も、そしてたぶん富羽根みんとも理解していたので、それ以上無理にその話を続けようとはしなかった。


 だから話題を転換するために俺はいきなり何の脈略もなくこんなことを言い出したのだ。


「・・・・・・フロミネン教授は何で世界にダンジョンが出現するよりずっと前にダンジョンの存在を予見することができたんだろうな? もしかして君の親父さんは何か特殊な能力でも持ってるんじゃねえの?」


「まあ、トリプーともあろう人が随分軽率な発言をするのね! それは父に対する侮辱よ! 父には伝えないであげるけど、今後はお気を付けなさいね! 父のダンジョン理論は父の天才的頭脳によって論理的に形作られたものなのよ! そこに特殊能力なんて少しも関係してないわ! 第一特殊な能力を持つ人間が現れたのはこの世界にダンジョンが出現した後でしょう? 今でこそ生まれつき特殊な能力を持っていない者でもダンジョン職業に就くことで特殊な能力を後天的に得ることができるようになったけれど、以前は特殊能力者なんてフェイクばかりで本物なんて一人もいなかったんだからね! おわかり?」


 どうやら俺は戦姫バトル・プリンセス逆鱗げきりんに触れてしまったようだった。


 もしかしてファザコン?


 と一瞬思ったが、これ以上彼女の逆鱗に触れたくなかったので口に出したりはしなかった。

 

 富羽根みんとも特に何も言わなかったので、沈黙の時間が続いた。


 だが、もちろん女子が2人もいてそんなのがいつまでも続くわけもなく、ご機嫌ななめのはずのララン・フロミネンが真っ先に口を開いた。


「・・・・・・実はね、わたくし412でもう19歳なのに、まだダンジョン以外のダンジョンを探索したことがないの! なぜってダンジョンの初めては日本でって決めていたから! ・・・・・・だからトリプー、もしよかったら今からわたくしをどこかお勧めのダンジョンに連れていってくれないかしら? もし連れていってくれたら、そこでトリプー、貴方だけにわたくしの全てを見せてあげるわ!」


 そう言い終わると彼女は意味ありげに白地に金の刺繍ししゅうが入ったブラウスの一番上のボタンをゆっくり外した。



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