第26話 ぼっち少女の帰還

 エルもフランもめちゃくちゃ喜んで、最後はみんな食べすぎて動けねぇとか言って床で一緒に寝てた。


 アシェラ女王とデグー王一行は、さすがに同じことはできないので、お城に戻った。

 色羽いろはは、いつも通りソラとアメショーに挟まれて、スリスリしながら意識を落とした。

 

 翌朝。カーテンから漏れる光が乱反射してその周囲をきらびやかに彩り、それに気付いて目を覚ます。

 色羽は、ゆっくりベッドから起き上がり、身体を弓のようにして大きな伸びをした後、ここあの世に来た時に着ていた淡い黄色のお気に入りワンピースに袖を通すと、いつもの休憩室に向かった。






 フレは、昨日から自分の過去を思い出しながら、色々と思案していた。


 四億年前、創造神様にぼくたちは生み出された。

 これから地球上に様々な種族を生み出すことに集中するので、あの世で魂の管理をするように仰せ使った。

 当時は一つの大きな浮島に多種族が生活していて、昆虫種やトカゲみたいな両生類がほとんどだし、仲も良く管理もしやすかった。


 六千万年ぐらい前だろうか、ぼくたちは些細な事で喧嘩した。どんな理由だったかは覚えてはいない。でもそのせいで、あの世での恐竜種は絶滅してしまった。

 もう一度最初からになったと創造神様に怒られ、あの世で殺すことは禁止された。

 手に付けられた引っ掻き傷がしばらく痛かったことは覚えている。

 それからは一人になった。反省したら帰ってくるだろうと創造神様は言っていた。


 二千万年ぐらい前に大きな浮島一つでは種族も多くなり、一人では魂の管理ができなくなった。創造神様に相談すると、各種族ごとに管理する聖獣と公爵、浮島を生み出し与えてくれた。管理が楽になった。


 二百万年前になると、創造神様も暇になることが多くなったようで、二人で現世を覗いて、地球上の生物を観察しては楽しい話をいっぱいした。


 千年前ぐらいまであの世には名前と言う概念がなかったので、ぼくにも聖獣にも名前はなかった。

 聖獣たちは各々の種族で相談して名前をつけることになった。

 そのとき、創造神様がふと話した言葉……。


「最近ヒト族で流行ってる歌があってな。咎無くて死すという意味もあるらしいぞ。罪の無い死んだ魂を管理するお前たちにぴったりではないか。確か『いろは歌』とか言ったか。お前が始まりの『いろは』なら、恐竜を絶滅させたあやつは『もせす』よな」


 すごい皮肉を言われた気がしたので、ぼくは名前をもらうことを断った。


 ぼくがもらう予定だった名前『いろは』


 色羽との出会い。


 白い赤目のネズミが言っていた名前『モセス』


 偶然だろうか……


 


 う……ん、ただの気のせいかもしれない。創造神様も特に何も言ってなかったし。

 とりあえず、今日は色羽を一度ちゃんと現世に送り返さないといけないし。


 フレが休憩室に入ると、色羽はお別れを行ってる最中だった。

 でも、また来れることはわかっているからか、みんな明るい感じでお別れを言っていた。


 色羽がフレに近寄り、最後は二人で飛んで行きたいと希望を出した。

 アシェラ女王にはもう一度物見搭広場で挨拶をお願いされたが、また来れるのにみんなにさよなら言うのは照れ臭いからと断った。


「フレ、行こうっ!」

 色羽はフレの手を引き、庭園まで走るとそのままの勢いで空に向かって地面を蹴りあげる。その瞬間、色羽の背中には純白の両翼が姿を表し、風を切り一気に高度を上げて、二人は空を舞った。フレも同じように翼を広げている。

 二人でゴニャー帝国を一周したあと、初めての丘に着地する。


「これまで手伝ってくれてありがとう。めちゃくちゃ感謝してるよ」


「こちらこそ。こんなにいっぱい、みんなと仲良くなれてわたしこそありがとう」


「じゃあ、帰ろう」


 向かい合って座り、瞳を合わせる。


 色羽の吸い込まれるような美しいブルーと母なる大地を想わせるブラウンカラーの瞳、フレの世界の全てを燃え尽くすような真っ赤な瞳と新緑に包まれたような暖かな緑の瞳が見つめ合った瞬間、大きなまばゆい光が全てを包み込み、二人は真っ白な世界に吸い込まれた。


 次に眼を開けた瞬間、いつもの神社の境内の石の上に座って、膝には純白の綺麗な毛並みの猫がちょこんとしていた。


 太陽が空全体を赤橙に彩り、白っぽい満月も空で共演している。


「ただいま。フレ」


「ニャーオ」


「じゃあ、また明日来るね」


 そう言うと、白猫は色羽の膝から飛び降りた。一秒前の自分とは違って晴れやかな気分だった。

 ふと気付いたが、腕にあった傷がなくなっていた。


 神社を出て、すごい経験ができたと思いながらうかれて歩いていると、曲がり角で人とぶつかった。


「あ、すいません」

「こちらこそ」


 黒くて艶のある長髪の綺麗なお姉さんだったので、一瞬、見とれてしまったけど謝ってそそくさと逃げ帰った。


 自宅に戻ったら、リビングのソファーであったことを思い出しながら、ふとテレビをつけて、ぼーっとニュースを流す。


『次のニュースです。南アフリカの砂漠の国で大きなテロが企てられていた模様です。地元警察によると、ネズミを使った地球規模のウイルステロだったとのことです。通報を受けた警察がテロ組織を一網打尽にしたと外務省に報告があった模様です』


 晩御飯に魔獣が食べたくなった。

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ぼっち少女は本から得た知識で人生を彩る 宗像 緑(むなかた みどり) @sekaigakawaru

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