第25話 ぼっち少女の解決策

「穏やかな顔になられて安心しました」


「此度はすまなかったな」


「いえいえ、間違いは誰にでもありますからお気になさらず」


色羽いろは殿には感謝してもしきれんぐらいだな」


「あの方は英明えいめいでとても魅力のある方でしょう」


 ネズミ族の王の間でアシェラ女王とデグー王の和やかな談笑が続いていた。でも、余りゆっくりしすぎてもと、深呼吸の後、表情を変えた。


「では改めて」


 アシェラ女王が気品に満ちた声で宣誓する。


「ネズミ族は生の教会と死の教会の扉を一時閉められよ。それにて現世の異変を調整します」


「了解した」

 デグー王はそれに頭を下げる。


 これで一件落着だ。






 一方、色羽は魔の森にいた。明るくなり出した空に霧がかった冷たい空気が腰まである白金の髪を揺らす。


 戦いの高揚がおさまらず、今の実力を知りたくなった。最初はコントロールできずに結果的に偶然、魔獣を倒せただけだ。

 ネズミさんとも仲良くしたい気持ちから、デグー王に対してもブレーキがかかった。


 なので、魔の森で実力確認しながら心を落ち着けることにしたのだ。もちろん表向きは、ネズミさんのところの人さんと魔獣の料理を食べさせてあげるって約束したから。


 今日はザッシュもアシェラ女王の護衛でいない。フレも創造神様のところに行っているから、初めて本当に一人だ。おそらく魔獣に殺される可能性がある。それだけで緊張感が増し、生きている実感が湧いてくる。にいるのに皮肉なものだ。

 

「さあて、まずは、散策から始めようかな。ニードラーみたいに牙飛ばしてくるのもいるから、注意だけは必要だね」


 フレと出会うまでずっと一人だったので、独り言を言う癖が出る。


 しばらく進むと草木がわさわさと揺らめき、牙が飛んできた。さっと後方へ飛んで回避する。周りの木が、カサカサと無数に揺れてはその音が右に左に移動する。

 そして突然、左から灰色の影が飛び出てくる。そのタイミングに合わせて、真上に十メートルジャンプし、白い炎を放つ。すると、白い炎は周囲の木や土全てを音もなく吸い込み、一キロ近いクレーターができた。


「あっ……」


 白い炎は使わないと誓った。


 後悔しながら先へ進むと、木から大きな樹皮が飛んできた。そのあと木だったものが翼を広げ、色羽の真上に飛ぶ。樹皮のようなものは羽根だったようだ。


「これがウッドバードかあ」


 自分のせいだが、切り刻まれたものしか見たことが無かったので胸が高鳴る。

 魔法で水槍を上空に向けて放つ。ウッドバードが翼風で回避したタイミングで、風の魔法でジャンプして頭上を制し、手を振り下ろして斬撃でまっ二つにした。


「やったね」


 ……


 その後も、遠足のように魔の森を散歩しては、ウッドバード、ファイオン、ロックサーペント、ニードラー、緑、青、赤のオーガ、豚の巨人、熊みたいなの、等を倒した。それをいつも通り竜巻でゴニャー帝国に飛ばす。


 戦いに集中しすぎて、気づけばもう夕方になっていた。


「ふぅ……。これだけあれば、お祭りできそうだよね」


 さすがの色羽もかすり傷だらけになった。

 最初は高揚も重なり余裕があったが、次第に集中力が持続しなくなり、最初に受けた傷の痛みでまた集中力が落ちるという悪循環に見舞われた。

 でも、いい経験ができたのだろう、その表情は清々しい。


「さあ、帝国に戻ってお祭りしよっ!」






 お風呂に入って、髪を風魔法で乾かして整え、用意されていた白い長袖のワンピースドレスに袖を通す。部分的に金色の装飾が施されていて、王女が着るような感じだ。さっと用意して部屋の扉をあけると、少し長めのスーツのような服を身に纏ったいつもの顔が立っていた。


「フレっ! 帰ってきてたんだ、おかえり」


 にっこり笑いながら、白金の髪をなびかせ色羽の腕の袖をまくる。


「結構、頑張ったんだねー! 傷だらけじゃないか」


「えへへ。まあ、初めて一人だったし集中力がね……。でもいい経験になったよ」


 ちょっと舌を出して、怒られないようにごまかしている。


「あ、そうだ! 創造神様に頼んだらこれからも行き来していいって! やっぱり時間は止めれないみたいだけど」


「え! ほんとに!?」


「うん、ほんとだよ!」


「やっったあっ!」


 色羽はその場で両足ジャンプして何度も跳び跳ねる。


「では、物見搭広場ものみのとうひろばまでご一緒に」


 フレは片ひざをついて、手を差し出した。


 色羽は素直にフレのエスコートを受けたが、一緒に歩いているうちにだんだん恥ずかしくなったのか、次第に顔が赤くなっていった。物見搭広場に着いたときには完全に下を向いてそれを隠す状態だった。


「皆の者! 今日は記念日じゃ! 色羽様よりお言葉をいただく」


 アシェラ女王が威厳のある声で見ている者を静まり返らせる。(良く見ると既に涎が垂れている。)もちろん、隣にデグー王も並んでいる。


 その姿にさっと肩の力も抜けて、石舞台の上で、一人一歩前に出る。


「魔獣の料理がなくなるまで楽しもう! ネコさん、ネズミさん、人さん、今日はみんな平等だよっ!」


「「「「「お~!」」」」」


 みんなの声が地響きのようにこだました。


 その後は魔獣の料理でそこら中に歓声があがり、こんなに賑やかなのが初めてだったので、色羽は喜びの舞を披露した。両腕を九十度に曲げて固定、その手を上下させながら、スキップで物見搭の周りをグルグルと。

 それを真似してみんなが盆踊りのように円になって、グルグル回る異様な光景になった。


 しばらくして、その輪から離脱し、色羽も魔獣料理に手を付ける。この日が今までの人生で一番楽しい時間だと確信した。


「うんまあー!」

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