第24話 ぼっち少女の決着の仕方

「チェックメイト」


 色羽いろはの首もとでデグー王の短剣が止まる。

 デグー王が馬乗りになったまま後ろを振り返ると、白い赤目のネズミはザッシュに捕まっていた。


「ふぅ……。なんとか上手く行ったな」


 武器庫は薄暗かった。だから、ザッシュは影を伝って自由に移動できた。色羽の影から移動し、赤目ネズミの後ろに回り、一気につたで縛り上げた。


「な、なんだと……」

デグー王も縛られた赤目も驚きを隠せない。


「色羽っ!」


 なんだか聞き慣れた声に癒される。倒れた状態からフレを見ると、ささっとデグー王から剣を取り上げる。


「創造神様が簡単に種を滅亡させるわけがないだろ! むしろ、現世の悪事をこちらあの世で調整されるおつもりだったのに!」


「まことか? だ……だが、ラット殿があの方の命だと」


「あの方? うーん、君の想像する人はだいたいわかるけど、そんなの嘘に決まってるだろ? 君はどれだけ昔の話をするのさ」


「くっ……」


「デグー王よ、アシェラ女王と対話を。ザッシュ、飛んでアシェラ女王連れてきて! 色羽はクマ公爵とサーバル公爵の戦いを止めてきて! 僕はこいつを創造神様のところに連れていくから」


「了解」

「か……わかった……」

「う……うん、わかった!」

 なんか歯に引っ掛かるけど、デグー王は穏やかな眼になっていたし、聞いちゃ駄目なことがあるかもしれないと頭を切り替えてサーバル公爵のところに向かう。



◇◇◇



 色羽が離れてからの戦いは一瞬で戦況が変わっていた。サーバル公爵は苦戦を強いられていたのだ。

 火炎放射で防御陣形を組んでしばらくは優勢だった。だが、クマ公爵は業を煮やして、火炎放射の交差部分に斧を楯代わりにして単騎で飛び込んできたのだ。

 炎に当たる瞬間に馬から前に飛び、着地と同時に突進し斧を横に振る。

 隊列が左右外向きだったため横側から攻められる形となり、あっという間に隊列が乱れ、周りは吹っ飛ばされる。


「うわあっ!」


 次々と弾け飛ばされていくが、サーバル公爵が前に移動し、クマ公爵と対峙する。


「皆は下がれ!」 

 クマ公爵は構わず斧を横に振る。凄まじい早さで風の斬撃が馬を襲う。サーバル公爵も馬から飛び、空中で靴の魔法石を起動する。色羽の提案で補強されたブーツだ。サーバル公爵はまだ距離があるのにその場で横蹴りをする。すると風の斬撃が発生し、クマ公爵の斬撃を相殺することに成功した。


「よし、上手くいった」


 このブーツは本来斬撃を発生させるものではないし、何回も器用にできない。俊敏さを更に向上させるための補助なのだ。


 着地と共に一気に距離を詰める。風の魔法石の補助で二倍近いスピードで移動できる。

 クマ公爵の懐に飛び込むと一撃を加え、再度後退する。後退方向も後ろ、斜め、左右に地面を蹴って捕まえさせない。

 だが、クマ公爵は固い。大きな斧を楯にしたり、上手く鎧部分に当てて間接を狙わせない。


 ヒットアンドアウェーのスタミナと防御力の根比べだ。そうなると、必然的にまだ使い慣れないサーバル公爵が不利だった。相手に攻撃させないために常に動いているから消耗もひどく、スピードが落ちてくる。

 クマ公爵は徐々にためを作れるようになり、斧を振って攻撃に転じる。縦に横に振ってサーバル公爵を牽制する。一度でも当たれば即座に決着の状況だ。


「おりゃあ!」


 クマ公爵が狙った後退の瞬間。サーバル公爵の後退が遅れ、一瞬ブーツに斧が触れて魔法石が砕ける。


「終わりだ!」


 クマ公爵が斧を大きく振りかぶりサーバル公爵目掛けて振り下ろされる。サーバル公爵もこれまでかとあきらめたが、次の瞬間は何も起きなかった。


 振り下ろされた斧はだけになり先は無くなっている。


「ふぅっ! なんとか、間に合ったみたいだね!」


 色羽が空から黒い炎で斧の先端を消し炭にしたのだ。


「クマ公爵。デグー王は話し合いの席に着くことを承諾されました。よって戦いはここまでとなります」


 着地しながらニコッとクマ公爵を見ると、クマ公爵は地べたに座り込んだ。


「サーバル公爵! 貴殿はお強いなあ。いやあ、危なかったよ」


「何を言います、わたしの完敗でした」


 サーバル公爵も地べたに座り込んだまま、二人は顔を見合せ、笑った。

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