第9話 ぼっち少女の探求心

「魔の森へ出かけようー!」


 色羽いろははまるで、『公園にピクニックでも行きましょう!』みたいなテンションで魔の森へ行くことを決めた。真っ白な肌に白金の髪と淡い黄色のワンピースをなびかせ、ブルーとブラウンのオッドアイの瞳を輝かせて。

 

 横では同じく白金で赤と緑のオッドアイの美青年姿のフレが、『また突拍子もないことを言い出した……』と、頭を抱えている。

 

 アシェラ女王、メインクーン公爵とサーバル公爵は口が開いたまま、間抜けな顔になっていた。


「どうせ理由を聞きたいだろうから、みんなから言われる前にわたしから説明するね!」


 そう言うと、おもむろに椅子から立ち上がる。


「まず、異変に対して他の動物の国と調整をするときは、会議が基本でしょ? なら、基本的には戦う必要はないはず。それなのに、ネズミさん達を攻撃したとき、メインクーン公爵もサーバル公爵も動きが戦い慣れしているようだった。他の人たちも鎧や剣を持っていたことから、戦う習慣があるのよね? 浮島には一つの種族、人間、家畜ぐらいしかいないから、内乱ぐらいしか戦う場所はないはず。でも、ゴニャー帝国は穏やかそうに見える。なら、結論は定期的に魔の森の魔獣と戦って訓練しているか、食糧にしている。どう? 違うかな?」


 また、お決まりの人差し指立てポーズに少し首をかしげた感じで、座っているアシェラ女王を見下ろす。


「そのとおりです。ただ、魔獣との戦いは簡単なものではありませんので、いつもは準備を入念に整え、精鋭を集めてやっとという感じです」


 アシェラ女王は二人の公爵と眼を合わせたあとに、真剣な面持ちで説明してくれた。


「うん、今回は魔獣と戦いたいわけじゃなくて……そりゃ、偶然魔獣と出くわしてー? 仕方なく倒してー? ツルツルした感じの良い皮があればそれが欲しいんだけどー? ……基本的にはメガホンを作る材料が欲しいの。だから、細くて長い根、つる、樹皮、柳の細い茎の部分でもいいかな。さらに欲を言うなら、二メートルぐらい太い幹の木があれば完璧だねー!」


 色羽はフレをみてニコッとした。めちゃくちゃ嫌な予感がしたようで、すぐに眼をそらす。


「あっ、フレ、さっき手から炎だしてたよねー? アシェラ女王も風だしてたよねー? てことは、木ぐらいすぐに切れるよねー?」


 色羽はジト目でフレを凝視している。


「くっ……くっ……くそぉ……まだ、見せるんじゃなかった。自慢したのが仇になるとは……」


 そう言いながらフレは椅子から崩れ落ちた。


 色羽は純粋に楽しかった。初めて必要とされ、生きている心地もしているし、何よりあの世ここでは誰も偏見を持たず、自分を受け入れてくれている。それが一番嬉しかった。

 色素欠乏症アルビノ虹彩異色症オッドアイも誰も気にしない。そりゃそうだ、ネコ族は猫耳だし、尻尾もあるんだから。

 フレとお話もできるようになったし、本の知識も役に立つ。そんな環境が彼女の探求心に火を着けた。






 そうして、すぐに色羽は魔の森に向かった。

 あれから、フレを無理やり連れて二人で飛んできたのだ。色羽は飛べないからフレが手を引く形で。

 メインクーン公爵とサーバル公爵は兵を集めた後、馬で来る予定とのことだ。荷馬車の手配もお願いしといた。


「魔の森いいねっ! 霧がかっているし少し冷たい空気だし、木が揺れるだけでも緊張感たっぷりだよ!」


 二人は魔の森の手前で着地して森に入った。どうやら、飛んでいるところを襲う魔獣もいるらしいからだ。


 空中から大きな木のは付けたので、そこへ向かって歩いて行く。その道すがら、気にいったつたや柔らかく細長い根も引っこ抜いては、持ちやすいようにくるくると丸めて肩にかけて運ぶ。


 持てないぐらいになったらひとかたまりにして、見易い場所にポンッと投げる。後から来る予定の二人に回収してもらうのだ。二人は大体の位置は匂いで追えるらしい。『さすがネコさん!』と色羽は感心した。


「危ないっ!」


 フレは急に叫んで風のような早さで移動し、色羽の腰を抱いて、後ろに五メートルほどジャンプする。

 さっきいた場所を見ると、そこには腕の長さぐらいで鋭利な針のようなものが数本刺さっている。


「くっ、ニードラーか!」


 そう言ってフレは腰を低くして右手を前に構える。色羽は左側に抱えられている。

 周りの木が、カサカサと無数に揺れてはその音が右に左に移動する。

 そして突然、斜め右から灰色の影が飛び出てきた。フレはそれを後ろに五メートルジャンプして回避、左側に飛びながら、黒い炎を放つ。炎は命中して灰色の影は声をだす間もなく、消しカスになった。


「ニードラーはここからなんだよね!」

 

 フレはそう言ってもう一度後退する。


 その瞬間、眼前にある大きな木がバキバキと左右に割れて傾き、三体の灰色の魔獣が姿を現す。大きさは五メートルぐらいで、見た目はネズミと猪の間な感じ。牙が上も下も二十本ぐらい生えている。


「こいつらは一匹目が殺られると危険を感じて、巨大化するんだっ! あの牙を飛ばしてくるから気をつけてっ!」


 そう言いながら一体めがけて、突進しようとしたとき、色羽がフレの首に抱きつき動きを止める。


「待って! 牙……白いから、燃やさないで、身体を残して倒してっ!」


 色羽は何か閃いたようだ!


「で……でも、さすがに色羽を抱いたままは危ないよ! まだ、分身増やした影響で完全に力も戻ってないし。じゃあ、一人で飛んでくれる?」


「え……無理っ! それはさすがに無理だよ!」


 会話してる間も牙が複数飛んでくる。それをサイドステップで二人はダンスをするように避ける。でもそれが精一杯な感じだ。


「試してみて! 額に集中して風を感じて」


 フレは色羽のおでこをちょんと人差し指でおさえた。


「う……ん。……わかった! やってみる!」


 言われた通り、額に集中して力を貯め、風を感じる。色羽は浮き上がり、身体が光って白金の髪の毛が揺れる。


「ち……違うっ! それは危ないやつっ!」


「だ……め……、もう無理!」


 そういった瞬間、色羽から無数の風の斬撃が四方八方に放たれた。


 フレはパッと離れて自分の防御に集中する。


 風の斬撃を相殺していき何とか防いだ後、自由落下している色羽を抱き止めた。


 周囲を見ると、フレの後ろの森だけ無事で、一キロメートル四方の木々は倒され、ニードラーは縦と横の真っ二つになっていた。

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