第8話 ぼっち少女の新たな提案②

 扉が開くと、そこには頭を下げたネコさんが四人いた。


「頭を上げて、こちらに」


 アシェラ女王は立ち上がり、石机の方を指差しながら四人をいざなう。茶髪で胸まである髪と水色のドレスがひらっと綺麗に揺れる。


 頭を上げ、こちらに歩いてきている姿を見て、色羽いろははメインクーン公爵とサーバル公爵がいることがすぐにわかった。


 先ほどの戦いを遠くから見たとおり、メインクーン公爵は、大柄でガタイが良い男性。身長は二メートル近い。焦げ茶色の猫耳でふさふさの尻尾がモフモフしている。三十歳中盤ぐらいだろうか、顎には髭のようなものがあるが、穏やかな顔つきから普段の優しさがにじみ出ている。

 色羽は『メインクーン公爵の尻尾は絶対触らしてもらって顔を擦り付ける!』それと『肩車をしてもらうんだ!』と心に誓った。


 サーバル公爵は、金髪でボーイッシュな感じの髪型で身長は色羽より少し高くて二十歳ぐらいに見えた。金に黒の斑点模様が耳と尻尾にあって綺麗だ。顔も一見男勝りに見える感じはするが、整っている。

 二人とも鎧は着けているけれど、彼女を見た瞬間、オッドアイは見逃さなかった。『鎧で隠しておさえこんでいるが絶対巨乳だ! あれは絶対に拝む! なんならパフパフもしてやるんだ!』と心に誓った。

 あとの二人については、もう少し知ってからだなと思った。


 そんなくだらないことを考えて様子を見ていたが、四人は神妙な面持ちでこちらに歩きだし、椅子の前で一礼をしてから座った。おそらく座る位置はおおよそ決まっているのだろう。


 ここの椅子は木製で綺麗な装飾が刻まれている。座面と背もたれの間には隙間があった。そこに尻尾を綺麗に出して四人は腰かけた。


此度こたびの活躍見事でした。お礼を言います」


 アシェラ女王がそう言うと、メインクーン公爵とサーバル公爵が座ったまま平伏した。


「我らは、指示に従い攻めただけです。まさかあんなに上手くいくとは思いませんでした。まあ、調整者コーディネーター様が来ていたとわかったので今理由は理解できましたが」


 メインクーン公爵はフレの方を向いてそう言った。


「で、そちらの方は新しい調整者コーディネーター様ですか? 何やら雰囲気が少し違う気がするのですが……」


 サーバル公爵も気になっているようだ。その様子を見て、アシェラ女王が色羽の方に手を向け、自己紹介をしてくれた。


「こちらは瀬香衣せかい 色羽いろは様だ。調整者コーディネーター様が現世からお連れになった英明えいめいなご友人で、まだ、


「「「「なんとっ!」」 」」


 メインクーン公爵とサーバル公爵、あとの二人の声が見事にハモった。 まあ、ここはなんだから、現世の人間が来るなんて初めてのことなのだろう。色羽もその点については異常事態なのだと認識している。

 

「まずは、こちらも自己紹介をせねばですね。体が大きい男性がメインクーン公爵です。そして、その正面がサーバル公爵で、その隣がアメショー公爵、正面がスコティッシュ公爵になります。戦いは最初の二人が、政治的なことは後の二人が主に担当しています」


 アシェラ女王は、各々を立たせ順に紹介してくれた。

 アメショー公爵は白と黒の縞模様しまもようで見た目は十八歳ぐらいの女性だ。背は低くて髪はパーマがかかっているみたいで可愛い。

 スコティッシュ公爵は黒猫で耳がフニャッと前に垂れている。優しいおじいさんみたい。


「それでです。現状を打開するため、ネコ族全員参加で第一回大声選手権を開催する運びとなりました。とりあえず三日後に開催しようと思いまして。よろしいでしょうか?」


 色羽は、あちら側が暴徒が戻らないことを知って徴兵したとしても、三日あれば大丈夫だろう、との見立てで、とりあえず頷く。


「うん。では街中に告知手配をしてください。開催場所はそうですね、街の中心の物見塔広場ものみのとうひろばでいいでしょう」


「「「「かしこまりました!」」」」


 メインクーン、サーバル、アメショー、スコティッシュの四公爵は疑問を持つことなく即答した。色羽はアシェラ女王が家臣から絶大な信頼を獲ていることを確信し、口を開く。


「二公爵様、まずはわたしが提案した作戦を見事に実現していただき、ありがとうございました」

「次は攻められるのではなく、攻めるための初手しょてです。第一回大声選手権ではベストテンを決めて、防御のかなめを任命してもらいたいです」


「「「「はは~!」」」」


 そう言ってまた四人は平伏した。


「ちょっといいかな? ……いくら声が大きい人を集めても、城壁の上から叫んだら、その真下ぐらいしか聞こえないんじゃないかな?」


 フレが珍しく疑問を投げかける。


「うん、そうだね。だから、わたしは三日のうちにを作ろうと思ってる!」


 色羽が右腕をあげて、力こぶを見せている。全然筋肉はない。


「ちょ……ちょっと待って! って、以前色羽がぼくに話してくれた旧ドイツ軍が作ってたってやつだよね? あれを本当に作るの? ネコ族の世界そのものが壊れない?」


 フレのひたいからいきなりドバドバと汗が流れ出す。


「いや、さっきの戦いでネズミさんとネコさんの武器を見た限りでは、こちらでは火薬も電気もなさそうだし、メタンとかあるかもわからない。わたしもまだあまりこの世界のことわりを理解できてないからね。米軍は音響兵器のLRADを作ったり、イスラエル軍は音響兵器のスクリーム叫びを使ったりして、暴徒や暴動を沈めてるでしょ。だから、音の暴力を思いついたの。でも、まずは、原始的な考え方で巨大なメガホンを作るつもりだよ!」


 そう言って、今度は左腕をあげて、力こぶを見せている。こちらも当然筋肉はない。


「とりあえず、メインクーン公爵とサーバル公爵には手伝ってもらいたいから、第一回大声選手権はアメショー公爵とスコティッシュ公爵にお任せしたいな!」


 メイクーン公爵とサーバル公爵はメガホンなんて想像できないから、嫌な予感しかしなかった。

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