第3話 ぼっち少女と調整者
「いった~いっ!」「いたいっ!」
そう言いながらぶつかった相手を確認する。見た目は二十歳ぐらいだろうか、世界の全てを燃え尽くすような真っ赤な瞳と新緑に包まれたような暖かな緑の瞳の青年が目の前にいる。
「良かった! 無事に成功したみたいだね」
白金の髪の美青年がおでこをさすりながら、呟いた。どうやら、このイケメンに膝枕をされて寝転んで意識を失っていたようだ。
「もしかして、フレ? フレだよね?」
瞳の色で間違うはずがないと半ば確信して話しかける。
「そうだよ、僕はフレ。ここでは
「わあ~い、フレが人間になれたんだね~! これで間違いなくわたしは一人じゃないね!」
色羽はテンションが大爆発し、起き上がって歓喜の舞を踊る。両腕を九十度に曲げて固定、その手を上下させながら、スキップでフレの周りをグルグルと。
「う~ん、そうじゃないんだけどね……まあ、コミュニケーションは取れるようになってるんだけど、ここはあの世なんだよ」
色羽は手を上げた状態で突然フリーズする。
「え……わたし……もしかして天に召されたの?」
青年のフレはどこから説明したら良いかわからないという感じで、おどおどしている。
「いや、そうじゃないんだ。
「え……人間が動物の世話をしてるんじゃなくて?」
まだ同じポーズのまま、色羽はフリーズしている。
「そうなんだよ。って、そんな説明は後にして、あそこを見て!」
ようやく体勢を戻してフレが指差す方向を見る。砂煙と共に人? が城壁の扉のような所に攻めいっているようだった。その後方には灰色の耳と細い尻尾をした、人だけど人っぽくない集団がいる。
指差した方向が少し下を向いていたことから、自分が丘の上に立っていることを初めて理解する。色羽の視力は良い方だが、砂煙が上がっているところは、かろうじて視認できるぐらいの距離でかなり遠い。
「あ、あれは人間? じゃないよね。ネズミ? ネズミさんが街というか、扉を襲ってるの?」
そう、眼前には見事に石積みされた城壁が連なっている。城壁の中には様々な建物がある大きな街が見え、その後ろの山の麓にはなにやら立派なお城らしきものも見える。見とれてしまうほど美しい街並みだ。
「そっちより、先にあっち! 今ネズミ族が増加して暴走状態になってるんだ」
フレが色羽の頭を後ろから両手で向き直させる。
「なんで、そんな暴走が起きてるの?」
「おそらく現世で……う~んと、
「うーん……わかったよ! フレの頼みなら手伝うっ!」
良くみると、城壁の
「あれは猫耳?」
「そう、ネズミ族がネコ族を襲っているんだ!」
う~んと、現世では逆だよね? とは思いながらも後から説明してくれるだろうとその気持ちを飲み込んで、丘から状況を把握する。
城壁は大きな円形で街を囲うようになっていて、その左側の扉の前を攻められている。もう一つこちらの正面に扉が見える。
「えーっと、ネズミさんの弱点とかはわからないけど、正面の扉から出て二隊を構成する。隊長はみんなから信頼されて声が大きい者が適任だよ。ぱっとみる限り敵は三百ぐらいだから、百人一隊を大きく回ってネズミさんの後方へ。馬とかあれば、迅速に移動できていいね。もう一隊は十人一組で、隊長を一番前にして斜めに十組配置していって。号令と同時に前進してねずみさんの横っ腹から攻めつつ、麓の仲間を優先的に救って」
「あ、その前に攻められている扉の裏に仲間を集めるように感じさせなきゃだから、大きな声で戦うものを集めているふりが最初だね!」
「なるほど。
「
色羽は、フレに自分の意志が伝わったことがうれしくて、口角を上げてニコッとしながら、自慢気に右手の人差し指を立てた。
「わかった! 伝えてみるよ!」
そう言うとフレは街のお城の方を見て、静かに眼を閉じた。
色羽はその間、周りの風景を堪能していた。左、後方、右の順にみたが、どちらも草原があり、その奥は木々が繁る森が見える。左側の森の手前には奥から後方に小さな川が流れている。左側の森は一点だけ穴が空いたようになっていて、そこだけ水平線が見えた。
「よしっ! アシェラ王にちゃんと伝わったみたい!」
急にフレが眼を開けて話したから、色羽はびっくりしてびくっと跳ねた。テレパシーでも使って伝達したのだろうか。
それからしばらくして正面の扉が開いた。
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