第4話 ぼっち少女のお手伝い

 色羽いろはの場所からは正面の扉が良く見える。そこから馬に乗った大柄でガタイの良い男性が勢いよく出てきた。二メートルいかないぐらいだろうか。焦げ茶色の猫耳でふさふさの尻尾がモフモフしている。顔までは見えないが、堂々としているたたずまいから、偉い人なのだろうか。


「あれはメインクーン公爵だよ。みんなからの信頼も大きいし、いざというときは声も通るよ!」


 続いて、見た目は細そうな女性が出てくる。こちらも馬に乗っている。


「つぎは、サーバル公爵だね! かなり俊敏だし攻撃的だけど、仲良くなれば優しい女性だよ!」

 彼女は金髪でボーイッシュな感じの髪型で、黒の斑点模様が耳と尻尾にある。綺麗だけど、どこか芯のあるような出で立ちをしているように見えた。


 そのあと馬に乗った人が五十人ほど出てきた。おそらく行動を急いだため、あの人数が精一杯だったのだろう。サーバル公爵はその五十人を率いてあっという間に移動を始めた。かすかだが、左の扉付近からだろうか、人を集めるような声も聞こえてきている。

 色羽は一瞬人数を見て再考したけど、問題はなさそうなので何も言わなかった。


 正面の扉の方では、十人が一組で固まり、移動が始まっている。

「なんだかここから見ていると諸葛亮しょかつりょうにでもなったような気分だね!」


 どこかまだ他人事のような気がしていた。でもしばらくその様子を見ていると、自分が提案した通りに眼下で集団が動いて、この後、戦いになって誰か死んじゃうかもしれないという恐怖が生まれ、次第に背筋が凍っていくような感覚に陥った。


「色羽どうしたの? 顔色が悪いけど?」

 そんな様子にフレが気づいて、肩にそっと手を起き、声をかけた。


「ね……ねぇ、この戦いで死んだりとかはあるの?」


 フレはキョトンとした眼をした。


 と、次の瞬間、その表情は緩み、声をあげて大笑いをし始めた。その姿を見て色羽は、もっと意味がわからなくなり、呆然と立ち尽くしている。


「ごめんごめんっ! 失礼だとわかってはいるんだけど、面白くて我慢できなかったよ。ここはだよ。だから、みんな既に死んでる状態だから」


「でも、それなら倒されたらどうなるの?」

 当然だ! 色羽からしたら、この世界のことわりをまだ聞いていないんだから。でも先にこの話だけはちゃんと聞いておかないといけないと思ったのだろう。その気持ちをフレが察した。


「ネズミ族が倒されたらその瞬間に霧のように消える。でも、再度、魂は浄化されてチュート帝国の教会裏の神樹から、生みだされるんだ。例外的には、色羽の世界げんせでタイミングが合って良い母体があれば、受胎する場合もある。あ、チュート帝国はネズミ族の帝国だよ」


 色羽はしばらく考えるようにして頭を整理している。


「君が心配しているようなことはおきないから、安心して大丈夫だよ」

 フレが優しい眼をして、口角をあげてニコッと微笑む。そんなこともあって、だんだんと色羽の顔色は良くなり、瞳にも精気が戻った。


 そんな話をしているうちにネコ族の反撃が始まろうとしていた。メインクーン公爵がネズミ族の集団にその距離百メートルの所まで迫っている。


「いけ~っ!」


「「「「お~っ!」」」」


 メインクーン公爵の大地を揺るがすような大声が一帯に響き渡る。


 その合図とともにサーバル公爵がネズミ族の後ろから虚をついて攻め立て、逃げ道を塞ぐ。メインクーン公爵が雁行がんこうで斜めに陣を組んで順に集団の横っ腹から攻めた結果、すぐにネズミ族は戦うのを止めて、奥の森の方に散開した。


 サーバル公爵の馬隊は、森の手前まで追撃をして戻って来ている。


「ネズミ族は魔の森に入っちゃったね。あれはもう戻ってこれないかな。色羽の作戦のおかげであっさり終わったよ。ありがとう」

 

 色羽には何かひっかかる内容があったようだ。


「魔の森って?」


「魔の森はその名の通り、魔獣が住む森だよ。簡単に言うと、現世で悪いことをして死した魂はでは魔獣になるんだ」


 色羽は、また頭を整理するようにしばらく考えてから、自分の考えを整理するように質問を投げ掛けた。


「ここは。死した魂は、洗浄されて帝国内で生まれる。動物は人の世話をする。ただし、現世で悪いことをしたら魔の森の魔獣として生まれる。ここからは推測だけど、馬がいたことから、一定の家畜はいる。ニワトリ、牛、羊あたりかな。家畜は現世の魂とのリンクはない? どう? あってる?」


 フレは尊敬するような眼差しで色羽を見つめる。


「さすがだね、その通りっ! 家畜として存在するものは、魂のリンクはない。衣服と同じ扱いだね。でも、鳥の国や、牛の国はある。そこでは魂のリンクはあるよ」

「もう一つ付け足すと、今いるここはゴニャー帝国でネコ族の領土で浮島になっている。浮島の淵は、魔の森で囲まれている」


 また、色羽は難しい顔になる。


「とりあえず、ゴニャー帝国城でゆっくりしてから説明するよ。さあ、来て!」


そう言うとフレは、色羽の手を取って、優しく片手を繋いだ。

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