第2話 ぼっち少女と夕陽と満月

 今日もいつもと変わらず、フレを太ももに乗せて撫でながら本を読んで過ごす。最近、色羽いろははワンピースを良く着ている。すぐに着替えれるし、フレの暖かさも感じれるからだ。


 もともとあまり洋服には興味がなかったので、ほとんど両親が用意してくれていた。でも、今日のワンピースは図書館の隣の洋服屋さんで一目惚れして、初めて両親におねだりした淡い黄色のお気に入り。スリムなのに成長してきた胸と白金の髪、白い肌。誰が見ても良く似合っている。


 今日はお気に入りに身を包んでいるからか、いつもより気分がいい。そんなことを思いながら、フレと朝ごはんを一緒に食べて、本を読んでいると、お腹の虫が悲鳴を上げた。昼食は一度自宅に戻らないといけない。


 色羽は自宅に戻り次第、キッチンに向かい冷凍庫を物色する。今日はボロネーゼを選んだ。慣れた手つきでお皿に乗せて、電子レンジを六分にセットする。待っている間にパントリーを漁り、『チキン&ビーフ絶妙ブレンド 栄養バランスも良好 とろみ仕立て』を手に取る。

 昼食は安く済ませるから、猫用の缶詰を買ってほしいと交渉した結果、勝ち取った品々の一種類だ。


 両親は共働きだから、昼食はもともと作り置きだったし、野菜は食べるという約束でほぼ冷凍食品にすり替わった。サラダを作り置きしてもらっているので、楽チン仕様だ。


 以前、お昼もフレと一緒に食べたいと思って抱いたまま自宅に連れて帰ろうとしたら、鳥居を出る前に暴れて逃げられた。だから、お昼は一人でさっと食べて、また千寿せんじゅ神社に戻るのが日課になった。


 午後からもフレの背中を撫でながら、本を読んでは話しかけたりを繰り返す。


 時折、心地よい風とヒーリングミュージックのような木々の囁きが聞こえ、フレがそれに合わせて鳴いて歌う。


 今まで一人だった色羽からすれば、ここで過ごす日々は贅沢だと感じている。


 そうしているうちにあっという間に太陽が空全体を赤橙に彩り始め、いつものようにフレを太ももから降ろそうと抱いた瞬間、今日はフレの方から飛び降りて、空を見上げて何かを伝えるようにミャーと鳴いた。


 その方向を色羽も瞳で追う。


「今日は満月なんだ! 片方に夕焼け、もう片方には満月! 綺麗だね!」


 そう言ってフレに眼を戻すと、木々の奥に消えそうな白金の背中が見えた。


 また、ミャーと鳴いて、こちらに振り向き、待っている。


「どうしたの? 着いてこいってこと?」


 フレは言葉を理解しているのか頷いて、木々の中に入っていった。


 色羽はその後ろを歩いていく。だんだん、緑は深まり、つたが絡んだりしているが一人ぐらいはなんとか通れそうな獣道。木々の匂いと心地よい湿り気のある空気。神社の裏ということもあり、神聖な感じもする。



 十五分ぐらい歩いたときにフレは横を見て立ち止まる。色羽も追い付いてフレが見つめる方向を見ると、そこには一つほこらがあった。


 祠は大きな岩というかせり出した岩壁の下にあって、両脇には横から見えなくしているような感じで樹が斜めに生えている。


 フレは祠の前まで進むとそこで、祠に向かうでもなく片側の樹を見るようにちょこんと座り、色羽を見つめる。

 

「来いってことね!」


 フレの右横に移動し、しゃがんで同じように樹を見つめると、ミャーと鳴きながら右手を上げた。


「う~んと……前に座れってこと?」


 間違ったことに不服そうな顔をしながらもフレの目の前に向かい合って座り、瞳を合わせる。


 色羽の吸い込まれるような美しいブルーと母なる大地を想わせるブラウンカラーの瞳、フレの世界の全てを燃え尽くすような真っ赤な瞳と新緑に包まれたような暖かな緑の瞳が見つめ合った瞬間、大きなまばゆい光が全てを包み込み、祠の扉が開いてそこからの真っ白な世界に吸い込まれ、色羽は意識を失った。

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