第23話 そして殺し合いが始まる
恍惚のひとコーデルが死んでいることを発見したのは、彼女の食事の介助をしようと監禁部屋を訪れたミッシーだった。
監禁といっても、老女がベッドに縛りつけられた部屋は、施錠されていなかった。何をしでかすかわからない、意識の混濁した老女が部屋を抜け出さないことが重要なのであり、それは首だけ出した状態でシーツですまきにしたうえで、さらにあちこち転げ回って怪我などしないように、別のシーツで
実際、コーデルは、ベッド上にくくりつけられたまま、事切れていた。
昨晩の衝撃から立ち直ったミッシーは、メイドに頼んで作ってもらった粥を載せたトレイを手に、コーデルの部屋のドアを開けた。ミッシー自身が慎重に頭の下にあてがってやった枕が顔の上に被さっているのを見て、腹の底が冷えるのを感じた。
慌ててトレイを机の上に置き、枕を取り去った。
叫び声をあげかけたミッシーは、背後から髪を掴まれ、頭をのけぞらせた。そのまま床に引き倒された彼女の上に、女が馬乗りになった。
「ちゃんと抑えてな、暴れさせるんじゃないよウルスラ」もう一人、傍らに立つ別の女が低い声でそう命令した。
「さっさと始末しておくれよ、ジョーイ。あたしゃ、こんなのは好きになれないね」ミッシーに馬乗りになっている女が言う。この女の目には怯えが宿っているが、もう一人の方は。
ためらいがあろうとなかろうと、殺す気でいることは窺えた。
「このなまくらなナイフで、無理なことを言うんじゃないよ」
ジョーイの手には、赤黒い汚れがこびりついた銀のナイフが握られている。
「なにをするの」
ミッシーは必死に抵抗しながら言う。
「あなた方に、
「だから、こうなってんじゃないか、間抜け」
「たった一人しか生き残れないんだろ。ここを出られるのは、その一人だけなんだろ。だったら、こうするしかないじゃないか。悪く思わないでね」
「あなたたち、それがどういう意味かわかっているの。自分が生き残るために、あの無垢な子供まで殺す気? それで、最後にあなたたち二人が残ったとして、それからどうするの?」
ミッシーの言葉に、二人はぎょっとして顔をみあわせた。
「あんた、まさか、あたしを殺す気?」
ウルスラが怯えた顔をした。少し力が緩んだ隙に、ミッシーは渾身の力で上にのしかかっている女を跳ね除けた。
しかし、四つん這いになってドアに向かう途中で、髪を掴まれ頭部がのけぞり、無防備に晒された喉に刃が食い込み、横に引かれるのが感じられた。生温かい血が噴き出したが、ミッシーはジョーイに肘打ちをくらわすと、傷口を手で押さえながら、廊下に飛び出して助けを求めようとした。しかし
声が出なかった。
口の中から血の色をした泡がいくつか飛び出して、弾けた。
「くたばれ、説教臭いババアめ!」
両手を朱に染めたジョーイが雄叫びをあげながら、ミッシーの背中を刺した。何度も、何度も。切れ味の悪いナイフだが、思い切り突き立てればコットンの生地を貫通してミッシーのぜい肉に乏しい背中の肉を裂いた。
ごぼ、と口から血を溢れさせながら、ミッシーは隣の部屋のドアを開け、転がり込んだ。
その部屋の主――サミィと名付けられた女の部屋だった――も、体に無数の傷を負い、カーペットにできた大きな血だまりの中に倒れていた。
ミッシーの喉から声にならない悲鳴が湧きあがり、また大量の血を吐いた。
血だまりの中のサミィは、かすかに首を動かして、縋るように彼女を見た。
「そんな目で見るんじゃないよ。このナイフじゃあ、一度でぶすっと済ませるわけにはいかないじゃないか」
その声は、案外楽しそうだった。
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