INTERVAL
―娘は静かに、ひっそりと朽ちる―
女たちがあてがわれた個室の一室で、娘が一人、朽ちていた。
年齢は、体つきを見る限り、十五、六か、せいぜい十七、八だろう。
彼女の肉体は素裸のままベッドに横たわっており、クロゼットの中にはグレーのワンピースが吊るされたまま。
彼女の顔は無惨に切り刻まれている。
ほとんどの女が、個室に案内されるや否や、真っ先にクロゼットに突進し、そこに(少々エレガントさに欠けるとはいえ)剥き出しの体を覆う衣類を発見して胸を撫で下ろしたというのに、彼女の部屋では、それに手が付けられた形跡がない。
何故か。
裸でベッドに横たわる娘は、もはや何も語ることができない。魂を失った彼女の体はすでに、決して引き返すことのできない崩壊への道をたどり始めている。
死後の肉体の変化は、死体現象と呼ばれる以下の七つの変容過程を経る。
①皮膚の蒼白化。これは、心臓の拍動停止によって血流が止まった結果、毛細血管内の血液が重力によって皮膚の表面から体の低い位置に移動して体表面から血の気が失せるためだ。この変化は死後一時間程度で認められなくなる。
②体温の低下。血流が停止するとすぐさま体表面の温度が低下を始める。とはいえ、体表温度の低下速度は環境温度の影響を受ける。つまり、遺体の置かれている場所の温度が高いか低いかによって体温が低下する速度に差が生じるから、死後の経過時間を知るためには、体表ほど外気温の影響を受けない内部臓器の方が適格だ。サスペンスドラマなどで遺体の直腸の温度が計測されるのはこのためだ。
③死後硬直。死亡から数時間後、通常五時間以内には死後硬直が認められるようになる。ピークは十二時間から二十四時間の間に訪れ、その後弛緩を始める。
④皮膚の変色。血流が途絶え、重力の作用で血液が血管内を移動、つまり体の最も低いところに就下することによって皮膚が紫青色に変色し、死斑となる。死体が仰向けならば、背中側、体重による圧がかかっていない(床や地面など外界に接触していない)部位により顕著に現れる。通常死後五時間以内に現れ、十二時間から二十四時間の間にピークに達する。
⑤腐敗。自己融解によって細胞が壊死することによって起きる。死体は悪臭を放ち膨張し……食欲がなくなること必至のため、詳細は省く。
⑥蛆が湧く。詳細は控える。
⑦白骨化。腐敗しにくい硬ケラチンを主成分とする骨、頭髪、爪などが最終的に残存するが、死体の置かれた環境によっては骨すら残らない場合もある。
****参考文献****
スー・ブラック著・横田淳監修・倉骨彰訳『死体解剖有資格者 法人類学者が見た生と死との距離』 草思社 2023年
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