第9話
「!?、……上かぁッ!」
ギイの思惑に気付いた時にはもう遅い。ビームサーベルはケイジの頭上直前まで迫っていた。
衝撃音が大きく響き渡る。
「なんだと!?」
ギイは驚愕の声を漏らす。ケイジ機は右脚を大きく上げ、膝部分のアーマーでビームサーベルを押しとどめコックピットのある胸部までへの刃の到達を防いでいたのである。そのため、ビームサーベルは頭部を破壊するに留まっていた。
「メインカメラはやられたけどなぁ!ここだろッ!!」
そう叫びながらケイジは勘を頼りにビームライフルを撃ち出す。ビームはギイ機の頭部をまっすぐ捉えた。
「ッ…………………。だが、お前も見えて居ないんだろぉ!?」
ギイはもう片方の手に持っていたライフルを投げ捨てると腰部にマウントしてあるビームサーベルを抜き、ケイジ機のコックピット目掛けて突き出した。
ケイジはコックピット内で最大警告のアラート音と、もうひとつの声を聞いた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ケイジ機を押しのけ一機のアルト空戦仕様が割って入った。
その機体の肩部には隊長機を示す01の文字と部隊のマークが刻まれていた。
「た、隊長ぉぉぉぉ………ッ」
悲鳴のような声をケイジがあげる。
「ッ…。仕留め損なった…。」
空いた右手のビームサーベルでまずは目前の機体にとどめを刺さそうとしていたギイを隣から飛んできた斬撃が襲う。
「ケイジ、隊長ッ…。」
ギイ機の両腕の手首から先を切断しながらアレクはベルリとギイの間に割って入り、ギイの機体を押しのけた。
「くっ…さすがに分が悪すぎる…。」
離脱を図るギイのシエルノヴァに公開通信が届いた。
「おい、…待て………。
ケイジ 草薙少尉だ。貴様は。」
ギイはサブモニターに映る大破したアルトを一瞥しながら呟いた。
「ギイ レッドファング少尉だ。次は必ずお前を殺す。」
そう言い残すと、シエルノヴァは離脱していった。
「ッ…。隊長。」
振り返るとそこにはコックピット下部を貫かれたベルリのアルト空戦仕様が膝を着いていた。
雑音と共に音声通信がケイジとアレクに入る。
「2人とも…無事か。」
「ッ…。はい…。」
ベルリはモニターがショートし、真っ暗となったコックピット内で口を開いた。
「いいかよく聞けよ…ケイジ、アレク。…お前らは類まれなる才能を持っている…。そいつぁ、使い方によっちゃもしかしたら…この戦争の勝敗に直接関係するかもしれん……。だから…決してッ…………道を誤るなよ…。」
「ッ…隊長!」
ケイジが叫んだ時には通信は途切れていた。
焼き潰された自らの胸より下を見ながらベルリは呟いた。
「キース…。悪ぃ先いくわ…………。」
ゆっくりとベルリの口角があがる。
(にしても…強くなったな…。もう6年か…なぁキース…。)
「ハハッ…。長い…休暇が取れそうだ…。」
操縦桿を握っていたベルリの手がそっと膝の上に落ちた。
「嘘…。セ…セブンスターク隊長機の通信と生体反応、途絶しました…。」
「な…何だと…。」
オペレーターからの報告を受け、司令室では敷島を含め全員が驚きを隠せず狼狽していた。
ベルリ セブンスタークの遺体はアレククロムトにより回収され、翌日に今回の作戦のその他犠牲者と共に葬儀が行われた。
「お前が生きててくれて、よかったよ―――
ケイジはそう言って医務室のベッドから半身を起こしている男に告げた。
――マコト。」
「あぁ…。まぁ生きた心地はしないけどな。」
彼の目はひじから先が無くなっている右腕を見つめていた。
「でもお前良いのか?こんなところにて。」
「まぁそれもそうだな。次の隊長の任命式に出なかったって理由で機体の修理してもらえなきゃ洒落にならねぇ。」
迷いながらもケイジは立ち上がって部屋のドアに手をかけた。
「また来るよ。」
「あぁ。」
振り返らぬまま部屋から出ると廊下を歩いてくるキースと目が合った。
「え、クロムト中尉。任命式は…?」
そう言いながらケイジはキースに駆け寄る。
「んなもん、こんなチンケな部隊じゃ一瞬で終わるってのお偉いさんも来ねぇんだから。
それより早くお前も格納庫いくぞ。」
早足で歩いているキースが一瞬ケイジを振り返る。
「あーそう言えば中尉は新機体受領でしたっけ。」
「まぁそんなとこだ。あ、あとお前。大尉な。」
その返答にケイジは苦笑する。
「そーでしたね。大尉殿。」
「あのな…ッ。俺のが歳も階級もうえなんだぞ……。それとな、もうひとつ訂正がある。」
疑問に思いながら小首をかしげ、ケイジは尋ねた。
「なんでしょう。」
「新機体を受領するのは俺たちだ。」
そう言いたがらキースはケイジを見つめにやっと笑った。
地球を守るために命懸けて戦ってます 汐織博 @remember1954s
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