第8話
入り乱れる靴音が聞こえた。目を開けると、制服姿の男性に羽交い絞めにされて暴れている男の姿が見えた。持っていた器具が床に落ちて鈍い音を立てる。見覚えのある二課の制服にほっとして視線を動かすと、スーツ姿の男性によって床に組み伏せられている日下部の姿があった。
──班長。
銃を取り上げられた手が床を殴った。
視界の端で暴れていた男が力尽きたように動きを止め、制服の男性が男に手錠を掛けた。
「ターゲット確保しました」
目の前の背中が景子にもたれ掛かる。両手を縛られている景子には、崩れ落ちる大輔の身体を抱き留めてやることすら出来なかった。
「寝てるやつら全員叩き起こせ。何としても助けろ」
男性医師が叫ぶ。
「反応ありません。このままでは危険です。あの人に頼めませんか」
「逆効果だ。我々で何とかする。全力を尽くせ。万が一の事があれば、俺たち全員、一人残らず呪い殺されるぞ、分かったか」
扉が開け放たれたままの処置室から、医師たちの声が聞こえる。
班長にタックルされたせいで日下部の銃弾は外れ、壁にめり込んで形を変えた。けれど大輔の意識は戻らないまま、夜を迎えた。
「あいつを取り逃がしたことを伝えておくべきだった。すまん」
声を聞いて初めて、班長が横にいることに気付いた。
「日下部課長は?」
そう尋ねた景子に、班長は辛そうな顔を向けた。
「上に呼ばれて出て行った。観音様は相当お怒りだそうだ。さすがに揉み消す訳にはいかなかった」
「そうですか」
観音様。『M』対策委員会のトップである。景子はまだ会った事が無い。菩薩のように優しげな微笑の奥に、冷酷な一面を持つ女性だと聞いている。
暗い表情のまま、班長はまた処置室のドアに顔を向けた。
「日下部さんと言えども、今回ばかりは処分は
長い夜が過ぎ、窓の外が少しずつ白んでいく。処置室の声も聞こえなくなり、後は祈りの時間だけが流れた。
外がすっかり明るくなった頃、処置室の扉が開き女性医師が姿を現した。景子の前にしゃがみ、優しい笑みを浮かべる。
「意識が戻りました。もう大丈夫です」
それを聞いた途端、景子は辺り構わず大声を上げて泣いた。
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