第6話
「5・4・3・2・1、零時ジャスト」
つばさの張り詰めた声に、四人の視線が赤いスマホに集中する。画面には、薄暗い商店街のシャッターだけが映っており、特に何も起こる様子はない。一分が過ぎ二分が過ぎ、時刻が零時十五分を示したとき。
「今日は無いのかな」
がっかりしたように、ひまりが言った。
「お化け屋敷、楽しみにしてたのに」
ため息とともに、張り詰めた空気が緩んでいく。
両手を広げて肩を竦めたあんじゅが、クーラーボックスからジュースを出そうと背を向けたときだった。
「あれ?今何か映った」
そう言って、つばさがスマホをのぞき込んだのを見て、緩んだ空気が戻らないまま、他の三人も画面に目をやった。
シャッターとシャッターの間、子供が一人通れるか通れないかというぐらいの狭い隙間。今は真っ黒な影にしか見えないそれが、揺らいでいるように見えた。暗闇とシャッターの境目が曖昧になり、黒い影がじわじわと流れ出す。画面の中央から外に向かって、闇が浸食を始めたように見えた。
暗闇のなかにぼんやりと人影が浮かび、次第にはっきりとした形になる。黒っぽい着流しに、白地に赤の隈取を施した狐の面。男とも女ともつかないそれが、被っていた面に手をやり、ゆっくり額に移動させる。現れた顔が人間のものであることに安堵した次の瞬間、その目じりが急激に吊り上がった。続いて口元が赤く裂け、尖った牙と赤い舌が現れる。異様な顔、あきらかに人ではなくなったその目が、こちらをじっと見つめる。
「ひっ!」
ひまりが喉の奥で悲鳴を上げた。声を出せば気づかれるというように、口元を手で押さえる。
気づけば狐は姿を消し、暗闇には新たな揺らめきがあった。白装束の女?いや、その顔には目も鼻も口もない。
ジュースを取り落とし、あんじゅが床に座り込んだ。
暗闇から異形の集団がぞろぞろと現れる。蜘蛛に似たもの、蛇に似たもの、明らかに人の形をしていないもの。それらが次々に闇から吐き出され、画面の中に蠢く。
百鬼夜行。どこかで聞いた言葉が脳裏に浮かんだ。
溢れかえるほどの妖の後ろから、美しい着物姿の女性が姿を見せた。艶やかににっこり笑う。首がすうっと伸びた。緩やかにうねり、やがて体から離れる。ゆらゆらと漂っていた首が宙を舞い、一直線にこちらに向かってくる。スマホの画面いっぱいに不気味な笑顔が広がった。
「嫌~!」
りりが泣き出すのと、つばさがスマホの電源を切ったのは同時だった。
泣きじゃくるりりと抱き合って震えるひまりと、声を出すこともできずに座り込んだ、つばさとあんじゅ。彼らは言葉を交わすこともなく、夜が明けるまでの長い時間を過ごした。
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